第九話・応援団
「あっつー…つか日焼けするよね」
只今体育の授業中です。私は光奈とペアを組んで外でサッカーボールの蹴り合いをしています。
「ねー…焼け死にそうだよ…」
日焼けクリーム塗ってもきかなそうなくらいのいい天気。
雲一つない、快晴。
もう7月になろうとしていた。
那音とはもう付き合って1週間ちょっとになる。
毎日がどきどきして、楽しくて…
那音を毎日、毎日いっぱい、いっぱい好きになっていっている。
「はぁ…疲れた…」
「ね……」
……もう声も出す気になりません。
「お疲れさま〜」
「あ。那音…疲れた…」那音は私の頭を撫でて“よくできました”って言って教室に入っていった。
あ…頭撫でられちゃった
そんな私たちのやりとりを見て
「ヒューヒュー♪らぶいね〜。羨ましいなぁ〜」と光奈がひやかす。
「ち…違うよ。つか光奈だってらぶらぶじゃん」
光奈は彼氏といつも一緒に帰ってるし…
私は那音と帰ることはすごく少ない。
那音はいつも一緒に帰っている友達と帰っちゃうし……。
私は同じ方向の子、少ないから1人で帰ってるし……………
……………ん?
あれ?
今、重大なことに気づいた。
「光奈…那音ってどこ住んでる?」
「ん?あぁ、うちの近くだよ?」
……やっぱり……
光奈と私の家の方向は正反対。
てことは那音と私の家の方向も正反対。
なのに
前、気遣って私の家の方向まで来てくれたんだ…
気付かなかった。
好きな人のことなのに…
「あぁー…しくった…」
なんか…悪いことしたなぁ……
**********************
「じゃぁー体育祭の役員決めします!!体育祭は、夏休み明けにあるから…気合い入れていきましょう!!」
「「おーーーー!!!」」
先生の声でみんなは盛り上がる。
す…すごい…
体育祭ってこんなに盛り上がるものなんだ…。
「桜羽なんかやる?」
後ろの席の光奈が声をかけてきた。
「えー…あんまり……やりたくは…なぃかな」
体育祭っていったら応援団とか、そっちけいたろうし…。
私は基本目立つことが嫌いだからあんまやりたくは…ありません…。
「だぁよね〜!!めんどいしっ」
光奈も同意見だった。
「はい!!じゃぁ応援団から決めようか。女子3人男子3人で。立候補いる?」
先生の言葉でみんながざわつき始める。
そして3人の男子が手を挙げる。
那音と、麻樹と…
あと1人は確か…片山健太いつも明るくて女好きな那音と違って、どっちかっていうと普段は大人しくて男友達といるときはすごい明るい、男の子だ。
「へ〜…片山も応援団かぁ。なんか意外かも」
と、腕を組みながら言う光奈。
「……確かに」
っていってもよく知らない人だけど。
「誰か女子で応援団やりたい子いない?」
男子はすぐに決まったが女子がいないそうだ。
周りを見てみても手を挙げそうな女子はいない。
どうすんだろ。
「ね〜…桜羽…」
光奈が私の背中をツンツン、と触ってきた。
「ん?」
「応援団やらないっ?」
「はっ?!」
いきなり光奈が笑顔で問いかけてきた。なっ…さっきまで“めんどい”とか言ってたくせに!!
「い…嫌だよっ…」
もちろん私は拒む。
「そういわずにっ!!ね?だってさ、絢斗いるし!!那音もいるんだよっ?」
………う゛
痛いとこ突かれた。
「あの女好きの那音だよっ?!援団になった子と仲良くされるの嫌でしょっ?!ねっ??」
光奈はとりあえず必死に私を仲間に入れようとする。
「……た、確かにそうだけど……」
他の女の子と仲良くされるのは嫌だ。
だけど…私すぐに緊張するし、足引っ張るだけだろうし……。
「ね?やんなぃ?私桜羽とやりたいんだよ〜」
なんて言いながら顔の前で手を合わせている。
こんなに大事な友達に必死にお願いされて断れるほど私は鬼にはなれなかった。
「わかったょ。もうっ」
「ありがとう〜〜!!さっち大好きぃ〜」
まったくこの子は…((笑
「先生〜!!光奈とさっち応援団やりますっ!!」
大声で先生に報告する光奈にみんな注目する。
「おっ!!ありがとう。じゃぁあと1人〜」
「桜羽ちゃん、光奈とやるの?」
と、前の席の雨宮瑠架が話をかけてきた。
「うん。そだよ」
「じゃぁうちもやろうかな♪」
「え!!るぅもやんの?」
光奈が身を乗り出してきた。
「だめなのかよっ」
「いやいや別に♪」
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「――てことで、以上で役員決め終了!!応援団員は夏休みに少し練習あるけど頑張ってくださいね。じゃぁ、解散」
…か、解散…。
普通に“サヨナラ”って言いましょうよ。
はぁ〜…応援団かぁ。
あんまりまだ気が乗らない…。
「おい桜羽!!応援団とかなんか似合わねーなっ」那音が私の背中をばしばし叩きながらバカにしてきた。
「うっさい…やりたくてやるわけじゃないもん」
「なんだよ〜俺と他の女子が仲良くすんの嫌だったとか??」
………………。
こいつは私の心が読みとれるのかな。
「……え。図星?」
「ち…!!ちちちちがっ、ちがうますっ!!!!!!」
……か…噛んだ!!!
すごい噛んだ…!!
「ふっ…可愛いわ。まじで……俺には桜羽だけだからな?信用しろよ?」
わっ…
「は…はぃ……」
こんな言葉を好きな人からもらえるなんて幸せすぎるよ…。
「応援団頑張ろうな!」
「うん!!」
―――頑張ろう。
那音と一緒だし、たぶん頑張れる。
―――この“応援団”がまさか大きな事件につながるなんて私はこの時思いもしなかった――――