第五話・本音
あの日からもう何日たっただろう。
ざっと……3ヵ月りっちゃんと那音と話をしていない。
りっちゃんは
「ごめん」というメールを何回も送ってきてくれた。
だけど返信はしなかった。
那音は話をかけてきたりしてくれたけど、全部無視してしまっている。
―――これでいい。
私が2人の前からいなくなってしまえば2人は私のこと気にしないで付き合ってられる。
……これでいいんだ。
「さっち♪♪」
「あ。光奈…」
この元気いい子は金本 光奈
私とりっちゃんとのことを知りつつ私と一緒にいてくれる。
ちなみに光奈は彼氏持ち
「大丈夫?つらかったら光奈に言うんだよ??」
………光奈……
「ぅん…ありがとう」
私はどれだけ光奈に救われただろう。
光奈…ありがとう。
「つかさぁ…律も律だよねー。最初から言えばよかったのにね。なんで隠してたんだろうねー」
そう言って光奈は腕を組みながら首を傾げた。
“なんで”って……
考えた事もなかった。
なんで…言ってくれなかったのかな…?
私のこと、気遣ってくれてた?
だけどもしそうだったとしても“応援する”は言わないと思う。
りっちゃんの謎は深まるばかり…。
「…はぁ……」
家に帰ってきてから溜め息しかでてこない。
……那音と、話したいなぁ……。
……顔みたいよ……。
「……好き…」
恋ってこんなに苦しいんだ。
恋ってこんなに辛いんだ。
恋ってこんなに……
……寂しいんだ。
知らなかった。
こんな気持ちになるなら
恋なんて―――…
〜♪〜♪〜♪
「……あ、電話…」
私はゆっくりと携帯に手を伸ばして画面を見た。公衆電話からだ。
――…誰?
「もしもし…?」
あきらかに…自分でも分かるほどに声が低い私。相手の気分も悪くなるだろう。
『………』
…………??
相手は、何もしゃべらない。
なに?イタ電?
私はイラついて相手につっかかるような声でまた聞き直した。
「あのっ…誰スか?用ないなら切りますけど…」『あっ!!待った!!俺っ、那音…です』
…………え?
「…は…?」
なんで…那音が、私に電話なんか…。
私は理解ができなくて黙り込んでしまった。
『ごめん…急に。桜羽、話しかけても逃げるから、電話した。携帯からだとでてくれないかなって…だから公衆電話』
心臓が、徐々に速さを変えていく。
速く、速く……。
「…だって…しょうがないじゃん。フられたんだし…喋りたくな……」
『そんな理由じゃないだろ?』
―――ドクン……
私の言葉を遮るように那音が言葉をかぶせてきた。
「…………」
だって、言えないよ。
“りっちゃんと那音のため”
だなんて。
絶対いい子ぶってるとか思われる。
『……話しかけてよ』
そう小さな声で那音が呟いた。
なんで…
そんな寂しそうな声だすの?
「那音には……りっちゃんが、いるじゃん…」
なんで……
『…律とはもう2週間くらい喋ってない。メールしてもブチられるし……俺、桜羽に嫌われたくねぇんだよ…』
――小さな、小さな声で
振り絞るような声で…
好きな人にそんな事言われたら、何も言えないに決まってる。
那音は、女好きだから
ただ女友達が減るのが嫌なだけなのかも知れない。
―――でも…
やっぱり………
「…うん…今まで、無視してごめんね。でもさ、中途半端な優しさ…ツラいんだよ…?那音の…事、本当に好きだから…」
気づかないうちに
私の目からは涙が溢れていた。
本当に、本当に…
那音が好きだから、
涙が出るんだろうなぁ…
『…ありがと。つか中途半端に優しくしてるつもりないから…桜羽だけ』
きゅぅ…
って、
胸が苦しくなった。なんでそんな事言うんだよ。
那音にはりっちゃんがいるじゃん。りっちゃんが好きなんでしょ…?
「っ…ばか…ぁ……」
なんで…
なんで……
那音は
何、考えてるの?
『ごめん…だけど…』
なにが、ごめんなの?
「っ…ごめんの意味わかんないっ……」
涙で、視界が歪む。
『俺、自分の気持ちわかんねえの…律が好きなのか桜羽が好きなのか……わかんねえんだよ…』
「…………え…?」
………な…おと…?
『俺、桜羽に告られた時は正直心揺れなかった。だけど、話しかけても無視されるし…なんかすごい寂しくて、ズキズキした…』
「………う、そ…ぉ…」
私の目から余計に涙が溢れ出てくる。
『だから…気づいたら桜羽のことばっか気にしてて…好きなのかも、って…』
「っ…ぅ……ひっく…」
言葉がでない。
私が黙り込んでいると那音は、ふぅ、と溜め息をついてからしゃべりだした。
『……だから待っててくれる?俺の答えがでるまで…』
そんなの、決まってる。
「…ぅん……」
………りっちゃん
ごめんなさい。
那音……
ごめんなさい。
二人の幸せ壊しちゃって
本当にごめんなさい…
だけど
私はやっぱり那音が好きです。
側にいたいです。
離れようとしても無理だった。
諦めかけてた、恋。
もしかしたら
那音は私をみてくれるかもしれない。
3ヵ月
那音から離れた。
だけど3ヵ月の間
ずっと那音のこと考えてた…。
那音、那音……
ちゃんと待ってるから
那音の答えがでるまで。
………待ってるからね。