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最終話・side那音.ゲーム




「ねー那音遊ぼー?」



律と別れてからすぐに情報が回ったのか、女がやたらに俺の周りに集る。



やめてほしい。


だけど言えない。



そんな、自分が嫌だ。





そんなある時だった。




俺の視界に一瞬写った、桜羽。


「な、那音…」


桜羽に小さな声で呼呼ばれた。



俺は気づかない。

気づかないフリをする。

嫌われたい。

諦めたいんだ。



しばらく経っても、桜羽はその場を動かなかった。


流石に気になる。

俺はちらっと桜羽の方を見た。



目があった…。



「…なお、」



「教室行こ?俺さみぃ」

桜羽の言葉を遮って、周りの女子に声をかける。



すると周りの女子たちはぞろぞろと教室に向かって行く。



「…那音っ!!」



バカでかい声を俺に向かってだした桜羽。



流石に驚いて、俺は思わず振り返った。



「…なに?」



明らかに冷たい瞳で。

明らかに冷たい声で。


嫌われたいんだ。

諦めたいんだ。


ただそれだけだ。



「は…話が…ある…の」


真っ赤な顔してうつむく桜羽に、思わず心臓が波打った。




「…ここで話せば?」



だけど



嫌われたいんだ。

諦めたいんだ。



俺は冷たく対応する。



「ふたりで話したい」



そんな俺の気持ちも知らずにしゃべる桜羽。



俺は桜羽と目を合わせた。


俺はふいっと、目をそらした。



―――…一回くらいいいか。



しょうがない。



「…いいよ?」


「…!!ありが」


「そのかわり」


冷たい、低い声のまま俺は桜羽に言った。





「健太呼んでこい」




どうせ、そっち系の話だろう?



桜羽は教室に駆け戻った。



「なんか大変そうだから、ウチら教室いるね」



そう言うと、女子たちは教室に入っていった。



しばらくして桜羽がでてきた。




健太もいるな。



「…きたんだ」



「…は…?え?なに?」


健太は戸惑っていた。

桜羽もなにをするのかわからないからか、戸惑っていた。



「…桜羽…」



ポツリと那音が呟いた。

「…なに?」


桜羽は冷静に答えた。



「先に言っておく。俺はもうお前の事は好きでもなんでもねーから」



―――健太を選べ。



俺は桜羽と視線を合わさずに、そう言った。



「…知ってるよ」





俺は下を向いたまま。



「…健太」


健太……。


「…………なに」


健太はあきらかに不機嫌だった。



「頑張れよ」



俺は桜羽を幸せになんかできないから。






「ゲームだ」







「…え?」


ふたりは戸惑っていた。



「ルールは簡単。俺と健太は、この校内を15分駆け回る。それを桜羽が捕まえる」



「…それで?」



「ただそれだけだ」



ふたりを…いっぺんに。

そんなのむりだろう?

15分しかないのに。


桜羽。


お前の最後の決断だ。



「そ…そんなの…」



「いいな?健太」



桜羽の言葉を無視し、健太に問いかけた。





健太はコクリと頷いた。



「ちょっ…」




「ゲーム開始だ」




俺はそう言うと、走り出した。




俺はただひとつの場所へと向かった。



「…はあ、…」



―――体育館だ。




きっと、桜羽はこない。


話がしたいってだけで、健太をほっとくなんて有り得ない。



最初からこのゲームに勝敗はついてるんだよ…。




「………桜羽」





体育館で抱きしめた。



桜羽の心臓の音。

桜羽の声。

桜羽の匂い。


まだ新鮮に覚えていた。



そんな

体育館は俺にとって大事な場所なんだ。




体育館の時計に目を向けた。



―――…あと5分。



今頃…健太と。






「はぁ…は…、」


体育館に響いた、誰かの荒い息づかい。



「…なんでわかった…!?」



なんで…桜羽が?



「…逃げらんないよ?那音」



桜羽はじりじりと近寄ってきた。



俺はがむしゃらに体育館のドアに向かって走っていった。



「…待ってっ!!」



桜羽が俺の手をつかもうとした瞬間に振り払った。



お前の場所はここじゃない…!!


振り払った衝撃で、桜羽の胸ポケットに入っていたケータイがでそうになった。



「…わっ!!」



桜羽は思い切り、ケータイを床に落とした。



その衝撃で、キーホルダーが外れた。



ハートの…キーホルダー。

たしか健太もつけてた。…お揃いか。


ほら、お前の場所はここじゃないだろ?


拾いに行くんだろ?




「俺の勝ち」




俺はそう言って走り出そうとした。



―――…!!!



な…んで…?



桜羽に思い切り体当たりされてて、後ろから抱きしめられた。




「お…お前!!キーホルダー…!!」




大事なんだろ?


健太とお揃いだろ?



なんで拾わないんだよ。

なんで俺なんかに



手のばしてんだよ。







「那音の方が大事に決まってるでしょ…!?」







ドクン、と心臓が動いた。





「……っんでだよ!!」



俺は床に向かって呟いた。


なんでだよ。


なんで健太追いかけねーんだよ。




なんで俺なんかをこんな汗だくになるまで

息切らすまで探してんだよ。






「好き」




桜羽は俺の背中に顔を埋めて、呟いた。


その声が背中から全身に響く。


なんて心地が良くて

安心できるのだろう。



――――だけど



「…っ…だから俺は、お前のこと…」



「…嫌いでいい」



「………え?」



思いもしなかった言葉に目を丸くする俺。





「大好き」



「……ばかかよ」



なんで、俺なんかのところに来てくれたんだよ。


俺は下を向いて、震えていた。



「すごいと思った…他人の幸せを願えるの」



「…なんでだよ」



なんで、知ってんだよ。


「私にはそんな事、できなかった」



「健太は…?」


健太は…いいのかよ。

だって健太はいつでもお前のこと好きでいたんだぞ?


きっと、ずっと。




「健太のこと、大好きだった。だけどそれ以上に那音が好きなの」



“那音が好きなの”



いつぶりだろう。



桜羽に“好き”って言われたの。



ねぇ、桜羽。



いいんだな?



本当に俺で…いいんだな?



―――俺でいいんだな?



「ねぇ、那音」



なに?桜羽



「……なんだよ」



「好きな人いる?」



いるに決まってるじゃん


「……いるよ」



「…教えて」



桜羽だよ?




くるりと、俺は桜羽の方を向いた。



そして桜羽の小さな唇にかるくキスを落とした。




「桜羽が…好き」




そう言って俺は笑った。


俺は知らなかったんだ。


桜羽がどれだけ大切だったかってこと。


きっと


いっぱい傷つけた。

いっぱい泣かせた。

いっぱい悲しませた。


……ごめんな。



そしていろんな人を傷つけてしまった。



だけど、それでも

想い続けたい人がいた。



いっぱい空回りした。


いっぱい遠回りした。



でもだからこそ

“桜羽”にたどり着けた。



ねぇ、桜羽。



俺、初めて人を想って泣いたよ。



俺には桜羽がいないとだめみたいだ。




俺にとっての全ては




桜羽だから―――……








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