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第二十話・大切な人



「さーわっ」


突然の明るい光奈の声。


「はいー?」


もちろんその声に明るく応答する私。




「あのさっ、いい天気だね!!つかだいぶ冷えてきたぁ…!!」



突然の光奈の言葉に頭いっぱいに

「?」が浮かんだ。


な、なに言ってんだ?


「そだねぇ…もうすぐ11月だし…」


気がつけばもう

時はだいぶ経っていて。もう半袖じゃ少し寒い時期になった。



那音とはあの体育祭の出来事以来話していない。

だけど寂しくはない。



今は

ちゃんと健太が好きだから…。


“100%健太が好き”


今なら胸を張って言えるだろう。





「…んで?本題は?」


思い出したように私は光奈に問いかけた。


「あー…え?や、なんもないけど…ただ話したかっただけだよ♪」


ニコッと笑って見せた光奈にちくん、と心が痛んだ。



―――…作り笑い。




光奈?

まだ会ってから何年とかは経ってないけど


私わかるんだよ?



光奈といつも一緒にいたんだから。



作り笑いをした光奈のほっぺに向かって私は、指を向けた。



「ん?なにっ?」


「………えくぼ」


「………?」



光奈は作り笑いするとえくぼができる。


こんなにわかりやすい作り笑いする人、光奈くらいだよ。





「作り笑いでしょー!!私の事騙せるとでも思ったぁ!?」



私はそう言いながら光奈のほっぺでぐりぐりと

指を動かした。





「いたいぃー…うそぉ。すごいね…ごめんね?」




申し訳なさそうに、“ごめんね”と呟いた光奈がなんだか犬みたいで

可愛くて、ふいてしまった。



「なっ…なに、ふいてんのよ…バカ桜羽」



「あはっ、ごめ…可愛くって…」


「い、意味わかんないっ!!!」


そう言いながらも顔が少し頬がピンク色に染まった光奈。





「あははっ、ごめんごめん…」


軽く謝ると光奈は、少し表情を変えた。


「…桜羽、今健太が好き…だよね?」


真剣な瞳で私に問いかける光奈。




「…うん?好きだよ?」

―――決まってる。


那音の事を、忘れさせてくれた健太。


優しくて


温かくて



“好き”だよ。




「だよねっ…良かった」

光奈はふぅ、と消えそうなくらいのため息をついた。



「……?」



いきなりどうしてこんな質問をされたんだろう。



首を傾げていると、授業の始まりを知らせるチャイムが鳴った。


「わっ…ごめん!!今日メールするからっ」


慌てて光奈は自分の席に戻った。




「……」


なんだろう。

なんか嫌な予感がする。

フられちゃうかもとか、そういう予感じゃないけど

なんか


―――…なんだろう。



「桜羽ーごめん!!教科書見して。忘れた」


いろいろ考えて

ぼーっとしていた。



健太の声ではっとした。


「……あ…う、うん」



急いで机の中に手を入れて教科書を探した


「なんかあったでショ」


健太の声に私の教科書を探す手が止まる。




「な、なんもないよ…」

思わず俯いてしまった私に、健太はにこっと笑って私の頭を撫でた。



「大丈夫か?なんかあるなら我慢すんなよ?」





きゅうん、と胸が締め付けられるような感覚。




「…あり、がとう…」



健太の優しさに思わず涙腺が緩む。



「わっ…ちょ、泣くなってー…大丈夫?」


「ッうん〜…」


健太、健太…。

大好きだよ。




**********************


【やほ♪

 メール久々だよね*。  今大丈夫ー?】



お風呂上がりちょうどに光奈からメールがきた。

【やっほ☆

 久々だね♪

 大丈夫だよー】


すぐさま返信をした。


私は送信したのを確認するとタオルで頭をくしゃくしゃと、ふき始めた。


一分程度で返事は返ってきた。


【明日暇かぁ?

 暇なら明日瑠架と律、 誘って遊ばない?】


瑠架…、はともかく。

この3人の中にりっちゃんが入ることは

あまりなかった。




なんで…?


別に嫌とかそういうんじゃなくて…。



なんだか変な違和感を感じた。



まぁでも、明日は暇だし…。



【大丈夫だよ♪

 待ち合わせドコ?】



ていうか帰宅部の私は大体毎日暇…。




自分の言葉に、なんだか苦笑い。



【んー

 ぢゃぁー…駅の前の

 カフェわかる?】



光奈からのメールに一瞬、どこだっけ?なんて考えながらも



何回か、光奈たちと行ったから…なんとなーく場所が思い浮かんだ。



まぁ

どうにかなるっしょ♪



【わかるよー♪

 大丈夫f^_^;★☆】




そのあとも軽くメールのやりとりをして


明日は一時から駅前のカフェに待ち合わせになった。




光奈とのメールのやりとりが終わると


ケータイを

ぱたん…

と、ゆっくりしめた。



りっちゃん……。



明日かぁ…。

久々に話すかも。




那音と…うまくやってるのかな?


聞いてみようかな…。


今は健太が好きだし、




……でもなんか、怖いのはなんでだろう?



「あーもう…」


自分の気持ちがまとまらなくて苛々する。




こういう時はさっさと寝よう。


寝て、忘れよう。



私はまだ濡れたままの髪で眠りについた。







**********************




「早すぎたかな…」


只今待ち合わせ時間の15分前。


天気はあまりよくない。雨が降りそうだ。



若干肌寒い。


もう半袖の季節は完全に終わりを告げた。


もう、冬…かぁ。



この学校に来て結構経ったなぁ…。




「桜羽ー!!早くない?」




私の次に待ち合わせ場所に来たのは、瑠架だった。


光奈と一緒に来るかと思ってた…。


「瑠架、光奈とりっちゃんは?」



私の質問を聞いて、瑠架は

「うーん」と、うなった。


「わかんない…」


「そ、そっか…」



結局わかんないかい!!(汗)



「あ!!律と来るって言ってたよ☆」



「あ、ほんと?」


「たぶんー♪」


なんなんだ、この子は…。


なんかつかみにくい(笑)


「んまぁ…寒いし、先に入ってようよ♪」


にっこりと可愛らしい笑顔で私に向けられた言葉に少しきゅん、なんて思ったりした。



「ふぉ…あったかい…」

店内は外とは全く違って、寒さなんてなかった。

適当な位置に私たちは腰掛けた。


〜♪〜♪〜♪


「…あー、光奈だ」


鳴っていたのは瑠架の携帯電話。


「電話?」

「ううん、メール♪」




瑠架は、光奈からのメールを見て

「まじかよ」と呟いた。



「ん?どうした?」



ふと問いかけると、瑠架は眉間にシワを寄せてブスッとした声で



「寝坊したから律と遅れるってさ〜!!まったく」


「あー…なるほどね」



光奈ならよく寝坊するし…。

まあ想定内ってとこですかね。



「光奈、けっこうよく遅刻するよねぇ…」


ちょっと不機嫌な声で呟いた瑠架。


「だよねー…まぁ、しょうがないよー」


こればかりはどうもできないからねー…。



「う゛ー、まぁいっか☆お腹減ったぁ。お昼ご飯食べてないんだよね♪」


サラッと気分が変わったのか、パラパラとメニューをめくり始めた瑠架。



「そだね。なんか食べようかぁ♪」



ここのお店のパフェは、私が知ってる中で一番おいしい。



ってなことで。

私は即パフェ決定♪



「瑠架は?」


メニューを見ている瑠架に問いかけた。


「うーん。じゃぁ…ポテトとチョコパフェ♪」



おぉー…。

よく食べますねぇ。



心の中で、軽くつっこんだあと私は店員を呼ぶボタンを押した。


「ご注文どうぞ」


「チョコパフェ2つとポテト一つ下さい」



「かしこまりました、チョコパフェ2つとポテト一つでよろしいですか?」


「はい」



軽く返事をすると店員は厨房へと向かった。



「桜羽もやっぱパフェかぁ♪おいしいよね」


「うん♪」


甘党の私にはたまりませんっ☆


「あーそういえばさぁ」


なにかを思い出したように、瑠架が口を開いた。


「んー?」


「健太のこと!!聞いたよね?」


グッ、と息が詰まった。


「な、…なにが?」


瑠架は何を言おうとしてるの?


健太?健太が何…?

なにかあるの?



昨日の光奈の質問が脳裏に浮かんだ。

[健太のこと好きだよね?]



「え、知らないのっ?!」


瑠架は目を見開いて、身を乗り出した。


「なに…?」


なんだかすごく不安で不安でたまらなくなっていく。



「健太ね…」


「お待たせしましたー」


タイミング悪く、パフェが運ばれてきた。


私は店員に軽く会釈すると、

パフェに手を伸ばすことなど忘れ、瑠架の方をじっと見つめた。




そんな私をよそに瑠架はパフェに手を伸ばした。



「ちょ…瑠架さーん」


「はひ?」


口にアイスを運ぶ瑠架はまるで小学生のよう。


…モテる理由、わかる気がする。




裏がなくて、素直で。

可愛いし………。



――って!!


そんなこと考えてる場合じゃないっ!!



「健太のこと…」


「あ、ごめんごめん!!」


そう言って瑠架はスプーンを置いた。



「あ、食べながらでいいよ?私も食べるから…」


そう私が声をかけると瑠架は、ぱぁっと明るくなり、またもやアイスを食べ始めた。



私もアイスを口に運んだ。



「健太ねー…って、あ。桜羽には言うなって言ってたような…」



…私に、言っちゃいけないようなこと?




「ま、いっかぁ♪」



いいんですかっ?!



声に出してつっこみたかった。

が、ここは我慢して…。


「で、?」



「うん、でね…まぁけっこう深刻な問題なんだけどね」


瑠架はアイスに手をつけるのをやめて

生クリームを口に運び始めた。




ゴクン、と私はゆっくり口の中の温度で溶けきったアイスを飲み込んだ。




深刻…。



大きな病気にかかったとか?


なに?


頭の中を嫌な予感ばかりがぐるぐるする。





「転校するんだって」





瑠架は顔色一つ変えずに私に言った。




…転……校……?





「い、いつッ…?!」




それは唐突にでた言葉。



『転校』という文字が

私の頭の中を駆け回る。



「んー…確か、3年になるくらいの頃かな?」


「3年生…」


てことは、春。



あと約…5ヶ月?


なんで健太は私に言ってくれなかったの?



「あ、言ったってこと言わないでね?」



思い出したかのように、顔の前で手を合わせて私に軽く頭を下げた。



「う…うん…、」



だが今の私にはそんなことを考えている余裕がない。




店内の暖かさで

目の前のアイスがどんどん溶けていく。




なんで


なんで


なんで


…なんで?



「わた、私…トイレ…」


とりあえず健太に確認しなきゃ。


気が動転している私は健太に確認を取ろうと、必死だった。


電話…


電話でいい。

そう思って私はポケットから急いで携帯を取り出した。



トイレに駆け込んで、誰もいないのを確認すると、

私は急いでアドレス帳から『健太』を探した。



―――あった…



見つけた瞬間に、涙がでそうになった。



『音声電話』

を震える指で押した。



「…でて…」




プルルル…プルルル…



…でない。



プルルル…プルルル…



ダメだ…。

でないよ…。


もうコレ以上鳴らしても無駄だと判断した私は

耳から携帯を離した。


その瞬間だった。


――プッ…


『桜羽?』



健太が電話にでた。



「っけん…た…?」


『え…桜羽?!どうした?泣いてる?!』



健太は私が泣いている事にすぐに気がついた。



「健太…転校するの?」

思ったよりすんなりと私の口からでた言葉。



『なんで…その事…』



きっと電話の向こうの健太は目を見開いていると思う。



「うそ…だよね?」


うそだと言って。


いつもみたいな柔らかい口調で

「うそだよ」って笑ってよ……。





『…ごめん…』






か細い声で謝った健太に、嘘ではないという事を突きつけられた。




「なんで?なんで言ってくれなかったの?」


転校するって事の以前になんで私に言ってくれなかったのか

という事に対しての怒りと悔しさがこみ上げてくる。



『………』


なにも答えない健太に余計に苛立ちを覚える。



「もぉいいよぉッ…!!」




気持ちの整理がつかなくて一方的に電話を切ってしまった。






知らない。知らない。


健太なんてもう知らない。



電話を切る前に

最後に聞こえた

「待ってっ…おれ、」

という声。




それを私は聞き流した。


「っー…、」





「さーわ?」



いきなりドア越しから聞こえた高い声にビクッと肩が上がった。



――瑠架だ…。




「もう15分経ったよー?大丈夫ー?」



涙を急いで拭い、下を向いたまま私はドアを開けた。



「…桜羽?」





心配そうな声の瑠架。



だけど、そんな声すら耳に入ってこない。




「ごめんね…お腹痛いから帰る」



瑠架にそう告げて私はトイレからでた。



「え?!大丈夫?パフェ代私払っとくから…早く帰んなね?」



後ろから瑠架の優しい声が聞こえた。



「大丈夫…ありがと。お金学校で返すね…」



それだけ告げて私は店をでて、家へと走った。





外と店内の気温差が激しくて余計に寒さを感じた。





なんで


私の大切な人は遠くに行ってしまうのだろう。


なんで

離れていってしまうのだろう。



……神様。



――――神様は

そんなに

私が嫌いですか…?







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