第十二話・side那音.想いの揺れ
早くつきすぎたか?
まだ20分前。
もちろん桜羽はまだ来ていない。
「んでさー!!」
綾斗がずっと一人できゃっきゃと騒いでいる。
〜♪〜♪〜♪
「?」
俺の携帯だ。
ディスプレイには
“健太”
―――何の用だ?
不信感を抱きながらも電話に出ることにした。
「綾斗…ちょっとわりぃ」
「ん?あぁ、いいよ」
―――ピッ
「もしもし?」
『もしもしー』
いつもと変わらない健太の声。
「何?どうかしたか?」
俺も普通に問いかけた。
『んー…今彼女いる?』
―――は…?
なんだ?コイツ?
「い…るけど…」
『…神崎律?』
―――ドキン…
名前を聞いただけで…
なんだ…?今の。
「……さぁな」
俺は曖昧な返事をした。
俺はあまり人に恋愛関係のことは話したくないタイプだ。
『あのさ…那音、俺に好きな奴ができたら言えって言ってたよな?』
「ん…?あぁ、うん」
言ったっけ?(汗
物忘れ激しいな、俺。
『…一目惚れした』
「――まじでっ?!」
健太とは幼なじみで長い間付き合ってるけど、健太に好きな人が出来たのは初めてだと思う。
誰だ?
――ってこの時期に
…一目惚れ?
……もしかして……
『…綾野桜羽、何だけどさ…』
――――予感的中。
「……そ…か…。いいんじゃねーの?」
なんて、笑ってみた。
「お待たせー」
……あ。
光奈と桜羽が来た。
『那音…アド知ってる?仲いいよな…』
「…しらね…」
嘘ついた。
だって“彼女”だぞ?
教えるわけねぇじゃん。
つか
こんなことになるなら先に付き合ってること言えばよかった。
いつも
いつも後悔はあとから押し寄せてくるんだ…。
――――いつも。
『しらないか…じゃぁ、な。なんかごめんな。とりあえず報告!!じゃ』
―――ブチッ
ツー…ツー…
一方的に電話を切られた。
「…んなんだよ!!」
小声で呟いた。
まさか健太が桜羽の事好きになるなんて思いもしなかった。
電話を終えて桜羽たちのもとへ駆け寄った。
お、浴衣…!!
「ごめん桜羽!!…ぁ…か、わいい……」
思わず本音がこぼれた。
―――――!!
“可愛い”とか…!!
何言ってんだ俺っ…///
「え゛ッ…!!」
桜羽も驚いている。
あー…。
俺今絶対真っ赤…。
桜羽も真っ赤だけど(笑
「「あついねぇー」」
光奈と綾斗が声をそろえて言った。
俺は対応に困って桜羽の方を見た。
すると桜羽も困った顔でこっちを見ていた。
「「……ぷ」」
2人揃って笑い合った。
「よし、行くか」
そう言って綾斗が光奈の手を握った。
桜羽の方をちらっと見ると戸惑っているようだった。
――しょうがねぇなぁ♪
「ん」
ちょっと無愛想だったか…?
桜羽の横に手を出してみた。
――――ぎゅ…
ドキン…
小さくて冷たい手が俺のでかい手に軽く触れた。
俺はその冷たい手を強く握り締めた。
「桜羽〜私かき氷食べたいなぁ」
光奈が桜羽に甘えている…(笑
「なーに綾野に甘えてんだよー。俺が買ってやるっての!!」
おっ
綾斗カックイー!!!
「え…。まじ?!わーい♪」
光奈は上機嫌で綾斗と出店へ向かっていった。
ここは俺も何かしてやらんとなー。
「…桜羽はー?何食べる?奢ってやるよ?」
俺は問いかけてみた。
「え…あ、えーと…」
桜羽は戸惑っているようだった。
コイツ、人に奢ってもらうのが苦手なタイプだなー…。
適当に買ってくるかな。
「んー…そこ座ってな!!」
そう言い残して出店へ走っていった。
何がいいかな…?
かき氷?たこ焼き?
でも桜羽はわたあめ好きそうだなぁ…。
迷ったあげくいろいろ買うことにした。
とりあえずかき氷……。
「おいっ!!なおとー」
「お…」
呼ばれた方を振り返ると同じクラスの友達が5人いた。
「1人?」
「ちげぇよ。彼女」
さらっと言ってみたりする。
「お♪まじ?じゃぁコレあげるよー」
ドサドサッ!!
「?!」
手の上にわたあめとヨーヨーと金魚とリンゴあめを渡された。
あ、ありがたいけど
金魚は…いらんな(笑
「いいのー?!マジもらうよ?」
「おぅよ♪俺らもう食べないからさー!金魚は飼ってやって!」
な…
自分勝手な…!!
まぁいろいろもらったし……
いっか。
「さんきゅ!!じゃぁな」
友達に別れを告げ、かき氷とたこ焼きを買いに行った。
―――あ。
光奈たちだ。
「おい!何やってんだよ。かき氷買いに行ったまま帰ってこないし」
「あ…那音…ごめん、光奈が靴ずれで足痛いらしいからあっちの公園いるわ。あとで合流しよ?」
光奈の足に目をやると見事に痛そうだった。
「了解。じゃぁあとで」
携帯に目をやると、もう20分たっていた。
やばい
どっか行ってるかも…!!
不安を抱えながらも走って元の場所へ急いだ。
――――あ…!!
良かった。いた…。
「――桜羽っ…!!」
「那音ぉー…」
桜羽の目には涙がたまっていて俺の顔を見た瞬間涙が頬を伝った。
「ッて…え!?泣い…どうした?!なんかあった?!!」
俺は当たり前に慌てる。
「ちが…どっか…いっちゃったかと…」
桜羽は涙を拭うことなく流し続ける。
「…ごめん。何が好きかわかんなくて…」
そう言って下を向いた。
女に泣かれるのは正直弱い。どうしたらいいのかわかんなくなる…。
「…ぷッ。なんで金魚?あッ。ヨーヨーもあるー!!」
桜羽は泣いている顔から一変して笑顔になった。
―――…良かった
「え…あぁ、友達見かけてもらってきた…。本当ごめんな。何食べる?」
全部桜羽に差し出した。
「こんなに買ってきてくれたの?…高かったでしょ…」
――あ。
やっぱり奢られること嫌いなんだな。
わかりやすい…
「ん?よゆーよゆー♪もらったりしてきたから、俺が出したの1000円くらいだよ」
不安にさせないように笑っていった。
そして桜羽の横に座る。
「そういえば、光奈たちは?」
「ん?あぁ、足痛いって、公園いるよ。あとで合流するから、食べ終わったら行こっか」
「…うん」
桜羽はまだあんま歩いてないから足は痛くないはず。
食べ終わったら
ゆっくり行けばいい。
「…私、わたあめ食べたい…」
ぽつりと聞こえないような小さな声で桜羽は言う。
―――そういう遠慮がちなところがまた可愛い。
「ん」
とわたあめを渡した。
「ありがとー…」
そう言って桜羽はわたあめを受け取った。
やばい…
可愛すぎ
―――…
「…桜羽…?」
「ん…何?」
桜羽はわたあめを開けながらちろっと俺の方を見た。
――――……。
ふっ、と唇を重ねた。
「…っ…えっ…!?」
桜羽は相変わらず可愛い反応♪
俺は桜羽の目を見て
「…これがちゃんとしたファーストキスな」
って、言ってみた。
前のデートのキスはキスっぽくなかったから(汗
「…ぅん」
ちまちまと、わたあめを食べる桜羽が俺に笑顔を向けた。
――きゅん…
なんて胸が締めつけられた。
「…俺さぁ…お前の笑顔好きだぁ」
「んぐっ…な、何突然…」
食べていたわたあめを吹き出しそうになっている桜羽。
だって急に思ったんだ。
「だからさ…ずっと、笑っててな?」
――ずっと笑ってて――
ずっと
もし俺と離れたとしても。
「…ん。大好き…」
予想外だった、桜羽からの言葉に俺は心底驚いた。
だけど
すごい嬉しかった。
「うん…俺も好き」
なんか照れくさくて小さな小さな声で
俺は呟いた…。
**********************
―――公園着
「あっ桜羽ぁー…ごめんね」
光奈と綾斗がの野原の上に座っていた。
俺に謝罪の言葉はないのか。
「んー…大丈夫大丈夫。足直ったー?」
桜羽は光奈に俺と手を繋いだまま駆け寄る。
グイグイと引っ張られた。
「うん。だいぶ楽になったよ〜♪」
と、笑顔の光奈。
“良かった…。”
って顔をしている桜羽。
桜羽はいつも優しすぎる。
人のことを大事に思っている、思いやりがある
いい子だ。
なんて。
言ってみたりとかする。
「さぁ〜花火見るから、場所変えようぜ。いい穴場あるから♪」
綾斗がそう言って歩き出した。
そのときだった。
俺の目に止まった人。
――――律…。
――って…!!
何気にしてんだ俺!!
別に好きじゃないのに…
ただ
元カノだから少し気になるだけだ。
―――そうだろう?
しばらくしてもう一度なんとなく目を向けると知らない奴に囲まれていた。
――オイオイ。
まだ中2だぞ?
なんて思ってる暇もなかった。
―――バッ!!
俺は桜羽の手を離した。
「ごめんっ…!!すぐ戻るからっ」
そう言って全力で律の方へ向かった。
「えっ…ちょ」
「はっ?!那音!?」
よくわからない。
体が勝手に動いてた。
「はぁっ…律!!」
「えっ…な…那音!?」
俺がいくと囲んでた奴らは舌打ちをしてどこかへ行った。
「だいじょ…」
俺が問いかける前に律は鼻を真っ赤にして泣いていた。
「っ…あ…ありが…と」
怖かったのか…?
律の泣き顔を俺は何回見てきたんだろう。
自分勝手な俺が何度律を傷つけただろう。
「…ごめん……」
そう言って頭を撫でた。
変わらない、キレイな長い髪。
――――ドキン…
――まただ。
なんでだ?
なんでいつも律を見ると心臓が狂うんだ?
俺が好きなのは
――――桜羽だろ?
「なんで那音が謝るの…私だよ、迷惑かけてごめんね…」
鼻をすすりながら俺に謝る、律。
―――あ…そろそろ
花火始まっちまう……
「も、大丈夫…友達すぐそこにいるらしいから」
そう言って律は俺の方を見た。
「あ、うん…じゃ…行くな。ばいばい」
そう言って歩き出したとき
「那音っ!!わた…」
俺が振り返った瞬間だった。
――――ドドンッ!!
花火と律の声が被った。
「なに?」
「や…なんでもない。ばいばい」
そういい残して律は走っていった。
ドクン…ドクン……
なんだか心臓が落ち着かない。
歩いていると桜羽たちが見えた。
綾斗が事前に穴場を教えてくれていたから助かった。
「桜羽ー光奈!!綾斗っ…ごめんっ……知り合い見かけて、つい…」
適当に嘘をついた。
“律といた”
なんて言ったらきっと桜羽は勘違いするだろうから。
「花火、始まっちゃったよー!!バカ」
桜羽のいつもと変わらない笑顔にほっとした。
それに対して俺は
「あは…ごめーん♪」
と、いつものように笑いかける。
―――花火…かぁ。
確か去年は律ときた。
律も桜羽と同じピンクの浴衣だったな…。
……って…。
なんなんだよ…俺…
さっきから“律”を気にして………。
結構時間がたってきたころだった。
『これで第64回…花火大会を終了致します。尚、お帰りの際は混雑が……』
アナウンスが聞こえた。
「早く帰ろっかぁ。すごい混むし……。桜羽、那音また学校でねー♪」
そう言いながら光奈と綾斗は歩いていった。
残された、俺と桜羽。
何もしゃべらない桜羽。
なに…
さっきからそわそわしてんだ?
「じゃ…帰るかっ」
にこっと俺は笑った。
「…うん」
やはりあまり元気がない…。
ゆっくりと桜羽の歩幅に合わせて歩く。
にしても、男の俺にとっては遅すぎる。
―――ぎゅっ
と、手を握った。
小さな、女の子の手。
しばらくして
「那音…」
小さな声で名前を呼ばれた。
「ん…?どうした」
いきなりだったから作り笑いをしてしまった。
「別れない…?」
「は……?」
突然の桜羽の言葉に真顔の俺。
いきなり……なに?
動揺を隠すように冷静に問いかける。
「なんで?」
繋いでいた手に力をいれた。
「な、なんで…も…」
目を合わせようとしない桜羽。
それでも俺はしつこく問いかける。
「理由は?言え」
理由がないわけない。
それなのに口を開かない桜羽。
「っ…言えよ!!」
感情がおかしくなりそうだ。
「嫌いになった」
桜羽からの考えもしなかった言葉に言葉を失う。
情けない。
「はっ…?こんな短期間でか?他に理由…」
声が少し震える。
そんな俺をよそに
桜羽は続ける。
「…女好きでバカで人の気持ちもなんも考えない。だから…嫌い」
“嫌い”
言葉が心に刺さる。
「……んで今更…」
俺は自分の前髪をぐしゃっと掴んだ。
ただただ悔しくて歯を食いしばった。
「今まで…こんな私に付き合ってくれてありがと。でももう……」
桜羽はもう俺が嫌い。
だけど俺は
「好きだ」
「私は、嫌い…」
―――……!!
嘘じゃないんなら…
「じゃぁ目合わせろよ!!」
「………ぁ…」
桜羽は完璧におびえている。
それでも
桜羽は目を合わさなかった。
「……嫌いだから目も見たくない…ってか」
ぼそっと俺は呟いた。
「…………」
なにもいわない。
てことは本当に嫌われたかな。
―――気づかなかった。
「わかったよ。…そこまで嫌われてたなんて…思わなかった。今まで付き合わせてごめんな…」
たぶん俺はこのとき
今まで生きてきた中で一番情けない顔をしていただろう。
「……っ…」
―――ダッ…
俺の手を振りほどいて桜羽は走りだした。
「っ……くそっ…!!!」
桜羽…
ごめんな。
俺
桜羽の気持ちに
気づけなかった
気づこうとしなかった
今になって
後悔の波が押し寄せる