第十二話・決意
どきん
どきん
待ち合わせ時間より10分も早く来たのに…
なんで那音もういるのーーー!?!?
早くない!?
男子ってもっと時間にルーズかと思ってた。
「何してんの桜羽…早く進もうよ!!那音と綾斗いるじゃん」
光奈が呆れたような声で言う。
だって〜…
「へ、変じゃない?浴衣…」
最終チェックを光奈に求めた。
「だぁいじょぶ♪可愛いよ!!」
そう笑って言ってくれた。
光奈は青中心の浴衣。
私はピンク中心の浴衣。
「よしっ!!行くか♪」
「うん」
光奈は私の手をとって那音たちの方へ歩き始めた。
「お待たせー」
光奈が元気良く那音と綾斗に手を振った。
そしてグイグイと私の手を引っ張る。
痛い…痛いよ。光奈さん(汗
「しーっ!!」と、麻樹が口に人差し指を当ててこっちに駆けてきた。
「「??」」
那音に目を向けると電話をしているようだった。
「光奈似合うじゃん♪可愛い」
麻樹が光奈に声をかける。
「あ、りがと…」
光奈は真っ赤になっている。
なんだか光奈はもう付き合って結構長いのに初々しくてすごく可愛い。
「那音のやつ今なんか電話してるから…ちょい待ち?」
「あ、うん…」
…誰と電話してんだろ。
少し気になったけど、そこまで気にすることもないかな…?
―――モヤモヤする。
「ごめん桜羽!!…ぁ…か、わいい……」
「え゛ッ…!!」
なっ…那音、真っ赤です!!ちょぉ可愛いッス…!!
「「あついね〜」」
2人が横目で私たちをみた。
「「……ぷっ」」
私と那音は目を合わせて笑った。
「よし、行くか」
麻樹は光奈の手を握った。
う゛…
こ、これは私たちも繋ぐべきなのでしょうか…?
私が戸惑っていると
「ん」
と那音が私の手の横に手を差し出した。
わっ…わー!!
どうしよう…!!
手……
――〜…。
――――ぎゅ…
軽く那音の手を握った。すると強く握り返してきた。
どきん、どきん
と心臓がリズム良く鳴る。
……那音の手、大きい。
…あたたかい。
やっぱり好きな人の手ってすごい落ち着く。
―――ずっと握ってたい。
「桜羽〜私かき氷食べたいなぁ」
光奈が麻樹じゃなくて私に甘えてくる。
「なーに綾野に甘えてんだよー。俺が買ってやるっての!!」
「え…。まじ?!わーい♪」
光奈は上機嫌(笑
2人は出店の方へ行ってしまった。
「…桜羽はー?何食べる?奢ってやるよ?」
那音が問いかけてきた。
「え…あ、えーと…」
私は人に奢ってもらうのが苦手だ…。
どうしよう。
断るのは悪いかな…?
私がおどおどしていると
「んー…そこ座ってな!!」
そう言って走って行ってしまった。
―――えぇー!?!?
お、おいてけぼりっ…。
光奈たちのとこに行ったのかな…?
…てか、もう7時30分か…。
――――20分後
…なんで?!
どこいった?!早く帰ってきてよぉ…!!
光奈…那音…。
…探しに行こうかな…。
でも入れ違ったら嫌だし…。
「―――桜羽っ…!!」
あっ……
やっと来たっ……!!
「那音ぉ…」
寂しかった。
少しの間側にいないだけですごくすごく不安だった。
「ッて…え!?泣い…どうした?!なんかあった?!!」
慌てふためいている那音。
「ちが…どっか…いっちゃったかと…」
泣いているって自覚はなかった。
ただ熱いものが頬を伝っているという感覚。
「…ごめん。何が好きかわかんなくて…」
那音の手にはいろいろなものがあった。
「…ぷッ。なんで金魚??あッ。ヨーヨーもあるー!!」
「え…あぁ、友達見かけてもらってきた…。本当ごめんな。何食べる?」
いろんなものを差し出された。
かき氷、わたあめ、たこ焼き、リンゴあめ。
「こんなに買ってきてくれたの?…高かったでしょ…」
「ん?よゆーよゆー♪もらったりしてきたから、俺が出したの1000円くらいだよ」
そう言って、私の隣へ座った。
「そういえば、光奈たちは?」
見渡してみてもいない。
「ん?あぁ、足痛いって、公園いるよ。あとで合流するから、食べ終わったら行こっか」
「…うん」
優しい…
優しすぎるよ…
那音の優しさが私の心にヒットする。
「…私、わたあめ食べたい…」
ぽつりと呟いてみた。
でも那音にははっきりと聞こえてたみたいで
「ん」
と、わたあめを渡してくれた。
「ありがとー…」
聞こえてたんだ…。
「…桜羽…?」
「ん…何?」
私はわたあめを開けながらちろっと那音の方を見た。
――――……。
ふっ、と唇が重なった。
「…っ…えっ…!?」
私はいきなりの出来事に気が動転してしまった。
那音は私の目を見て
「…これがちゃんとしたファーストキスな」
って、はにかんだ。
前のデートのキスはキスっぽくなかったからかな?
あれはあれでびっくりしたけど……(汗
「…ぅん」
ちまちまと、わたあめを食べながら那音に笑顔を向けた。
「…俺さぁ…お前の笑顔好きだぁ」
「んぐっ…な、何突然…」
食べていたわたあめを吹き出しそうになった。
い、いきなり何なのさっきからぁ……
「だからさ…ずっと、笑っててな?」
――ずっと笑ってて――
「…ん。大好き…」
大好き…
胸が締まるようなこの感情も
胸が高鳴るこの感情も
きっと
那音にだけなんだろうな…。
「うん…俺も好き」
小さな小さな声で
那音は呟いた…。
**********************
―――公園着
「あっ桜羽ぁー…ごめんね」
光奈と麻樹がの野原の上に座っていた。
「んー…大丈夫大丈夫。足直ったー?」
光奈に那音と手を繋いだまま駆け寄る。
「うん。だいぶ楽になったよ〜♪」
と、笑顔の光奈。
良かった…。
大丈夫そうだ。
「さぁ〜花火見るから、場所変えようぜ。いい穴場あるから♪」
麻樹がそう言って歩き出した。
―――この公園から5分くらい歩いた時からかな…?
那音がそわそわしていた。
―――――……?
なんとも言えない寂しそうな顔をしている。
ずっと那音の顔を見ているといきなり表情が一変した。
何かとても大事なものを見つけたような、
見開いた目……。
その瞬間
―――バッ!!
那音の手が離れた。
「ごめんっ…!!すぐ戻るからっ」
「えっ…ちょ」
「はっ?!那音!?」
私たちはパニック状態。
那音は何をしに
そんなに急いでいるの?
何…………?
なんとも言えない不安で心が押しつぶされそうになった。
―――――やだ…
離れて行っちゃう気がして。
―――ダッ…
「…ちょ!?桜羽っ!!」
気付けば私は走り出していた。
浴衣を着ている事なんて忘れて。
――――那音。
「…っ…どこ……?」
見当たらない。
いないよ。
次第に視界がぼやける。
「…ッ…どこぉ…」
それでも涙を拭って走りつづける。
しばらくきょろきょろしていると、
見慣れた、後ろ姿。
「…ぁ…なぉ…!!」
―――――…
心の中での小さな不安は間違いなんかじゃなかった。
本当は心の端っこで少し気づいていたのかも知れない。
「……ばか…」
見慣れた背中に
見慣れたきれいな女の子
那音と…りっちゃん…
よく見えないけど
りっちゃんは
泣いているようだった。
その
泣いているりっちゃんの頭を撫でている、那音。
私の大好きな温かい手…
何でかわからないけど
―――触らないで、
なんて
思わなかった。
むしろ
なぜか
―――抱きしめてあげて
なんて
意味のわからないことを思った。
“彼女”は“私”
“元カノ”は“友達”
―――こんな恋になるなんて思いもしなかった。
那音は私の手を振り払ってりっちゃんのとこに行ってあげてた。
………那音。
それって
那音は…まだ………
********
私はすぐに光奈の所へ戻った。
「さ、桜羽…?」
下を向きながら歩いてくる私に光奈もいい気はしないだろう。
「…花火…始まるよ!!」
私は笑って、光奈に言う。
「あ…うん、穴場ここからあと5分くらいかな」
そういうと光奈と麻樹と私は穴場に向かって歩いていった。
2人は何かを察したのか那音のことはなにも聞いてこなかった。
―――ドドンッ!!!
「「わぁっ!?!」」
気付けばもう花火は始まっていた。
色とりどりの花火が真っ暗な空にうつる。
――…きれー
だけど
隣には那音がいない。
今頃りっちゃんといるのかな…。
私…フられるんだろうな……。
―――楽しかったなぁ…
「桜羽ー光奈!!綾斗っ…ごめんっ……知り合い見かけて、つい…」
“知り合い”
そんな事言いながらも目が泳いでいる。
……わかりやすいヤツ。
本当にバカだよ…。
「花火、始まっちゃったよー!!バカ」
笑って対応する、私。
「あは…ごめーん♪」
いつもの笑顔で笑いかけてくる那音。
――複雑な、心境。
せめて
すべての花火が空から消えるまで…
……那音の、隣に…。
花火に照らされた
那音の横顔はとても切なかった。
きっと
りっちゃんへの気持ちを押さえつけているのだろう。
那音は
優しいから
……優しすぎるから
私に……いえないのかも知れない。
―――言えないなら
……私から………。
“さよなら”
一回
りっちゃんとのことを聞いたときに
一回私の心は那音とさよならした。
だから
二回目だね。
那音に……さよなら。
『これで第64回…花火大会を終了致します。尚、お帰りの際は混雑が……』
アナウンスが聞こえた。
「早く帰ろっかぁ。すごい混むし……。桜羽、那音また学校でねー♪」
そう言いながら光奈と麻樹は歩いていった。
残された、2人。
何もしゃべらない那音。
「じゃ…帰るかっ」
にこっと私に笑った。
「…うん」
その笑顔に私も笑い返す。
ゆっくりと私の歩幅に合わせてくれている那音。
―――ぎゅっ
強く手を握られた。
―――なんで…?
那音…
自分の気持ちに気づいてないの…?
那音、
那音は―――……
ぎゅっ…と涙がでそうになるのを抑えた。
言わなきゃ
“別れよう”って。
それが
那音にとっての
正しい
―――――答え……
「那音…」
小さな声で名前を呼んだ。
「ん…?どうした」
振り向いた那音の笑顔は
私でもわかるほどの
……作り笑い。
―――ズキン…
今更…胸が痛む。
それでも
私はのどで詰まっていた一言を…声にした。
「別れない…?」
「は……?」
突然の私の言葉に真顔の那音。
「なんで?」
繋いでいた手に力がいれられた。
「な、なんで…も…」
――なんでもなくなんてない。
「理由は?言え」
――那音のため。
「っ…言えよ!!」
初めて私に向かって怒鳴った。
ごめんね…
…那音が私から離れられるように…。
今からいっぱい嘘つくよ。
「嫌いになった」
――――好き。
「はっ…?こんな短期間でか?他に理由…」
「…女好きでバカで人の気持ちもなんも考えない。だから…嫌い」
―――私の気持ちいつも考えてくれた。
「……んで今更…」
那音は自分の前髪をぐしゃっと掴んだ。
歯を食いしばっていた。
「今まで…こんな私に付き合ってくれてありがと。でももう……」
一瞬でも気を抜けば“好き”って言ってしまいそうだ。
「好きだ」
―――ドキン…
「私は、嫌い…」
“嫌い”って言葉を発するたびに涙がでそうになる。
“好き”で溢れてるのに
「じゃぁ目合わせろよ!!」
「………ぁ…」
あまりの那音の真剣さと気迫に声がでなかった。
――――なんで…?
別れてよ。
…沈黙が続いく。
「……嫌いだから目も見たくない…ってか」
ぼそっと那音が呟いた。
「…………」
なにもいえないよ。
「わかったよ。…そこまで嫌われてたなんて…思わなかった。今まで付き合わせてごめんな…」
見たことのない
那音の表情。
―――だめだよ。
那音にはりっちゃんがいるんだよ。
「……っ…」
ダメだ。
涙がでる。
―――ダッ…
那音の手を振りほどいて家に向かって走った。
「ッ好きだよ…!!」
小さな小さな消えそうな声で走りながら呟いた。
ばいばい、那音。
………大好きだよ。