表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/32

第十話・真実


蝉の声がとぎれることもなく耳に響いてくる。

汗が額を絶え間なく流れる。


…夏、夏、夏、夏……



…………夏がきた。



「はい!!お疲れさん。応援練習終わり。各自解散していいぞ」

「「「はぁ〜い…」」」

みんな疲れきった声で余計に暑さが増すような気がした。


「桜羽、光奈!!お疲れさんっ♪」

「っ…瑠架…暑い…!!」

瑠架が後ろから抱きしめてきた。

「えーそんな疲れた?」疲れたも何もありません疲れすぎて暑すぎて倒れそう…


「まぁまぁ♪帰ろー」

「うん」

瑠架とは応援団で一緒になってから仲が良くなった。この頃は瑠架と私と光奈で行動することがほとんどだった。


「あ!!あっちに那音いるょ♪」

「…?……あ。まじだ」遠くに那音の姿が見えた。那音とのことはもちろん瑠架も知っている。

瑠架は可愛くてモテるけど好きになれる人がいないらしい。



「あはは!!那音走ってこっち来てるよ」


あ………

本当だ…


な……お、と……が

あたし…の……方に……


――――バタンッ!!



「ちょ…!?桜羽!!大丈夫?桜羽ー?!」


最後に瑠架の声が聞こえた。



**********************

あ……れ…

目を開くと白色の天井がなんとなく眩しかった。

ここ…

保健室?


「あ…倒れたんだっけ……?」

記憶がない…


暑くて、くらっ…てなって…。



まぁ…いっか。

帰んなきゃ。


私は布団から起き上がった。


――――ん?



なんかさっきから足らへんが重いと思ったら……

「…あほか…」


ずっと…私が起きるまでいてくれる気だったの?

「…那音…起きて…」


もう練習終わってから1時間たってる。

1時間もいてくれたんだ…。


「――ん…?」

那音は眠そうに目をこすりながら顔を上げた。


「ごめんね…こんな時間まで…」

「あっ!!寝ちまってた!!具合大丈夫か?」

「大丈夫だよ。ありがとう」


――――ガラッ


「桜羽ー?起きた?」

保健室に入ってきたのは瑠架だった。

「うん、ごめんね。1時間も…」

「大丈夫だよっ♪気にしないでー。帰ろう?」

そう言って瑠架はにこっと笑った。

私は帰る方向が瑠架と同じだった。なかよくなってからはいつも一緒に帰っている。

「うん。帰ろうかぁ」

瑠架の笑顔につられて私も笑顔になる。



「俺のこと忘れてないー?」



「「あ゛っ」」

二人そろって声がでた。そんな二人を見て那音がふっと笑った。

「とりあえず大丈夫そうで良かった!!じゃぁな」そう言うと那音はカバンを持って保健室を出て行った。





「本当にびっくりしたんだからね〜!!」

帰り際に瑠架がいう。

「ごめんてば〜!!今度から気をつける」


気をつけるって言ってもどう気をつければいいかわかんないけど…。


「…瑠架も彼氏ほしいなぁ…」

急に呟かれた一言。

「えっ…瑠架好きな人いないんでしょ?てか、モテるのに…」

私がこう言うと瑠架はにこっと八重歯をだして笑った。

「桜羽と那音見てたら恋したいって思った〜!!」

「そうなんだー…」

瑠架にそう言ってもらえるのがなんだか、嬉しかった。


「彼氏できたらさ、桜羽と那音と光奈と綾斗とトリプルデートしようね」必死な顔で瑠架は私に訴えてくる。


「ぷ…!!瑠架可愛いなぁ。わかった。約束ね!」

「あ…」

なにかを思い出したかのように瑠架は声を出す。

「どうした?」

私は不思議に思い、問いかけた。


「いや…律…の事なんだけど…」

もじもじしながら瑠架がゴニョゴニョと言う。

きっと私が気にする、と考えたのだろう。


「私は気にしないよ?」そう言って笑って見せた。本当はまだ少し気にはなっていたけど…。瑠架に気を遣わせたくない。

「律と瑠架さ仲いいんだ。小学校から親友で」

「うん、なんとなく前にりっちゃんに聞いた」



“りっちゃん”



久々に名前を口にした。

「…よくメールしたり電話したりしてるんだけどさ、やっぱ…桜羽の事ばっかりで…」


瑠架の声が寂しそうに聞こえた。


「わ…私…の事…?」

「うん…桜羽メール返してくんないし、話もできないって。…泣いてたこともあったよ。律はさ…桜羽とまた仲良くしたいんだって……」


りっちゃんがそんな事思ってたなんて…。

だけど…やっぱり簡単に過去は消せないよ…。


「…なんで…那音と付き合ってた事言ってくれなかったんだろう……」


私が、ずっとずっと…気にしてたこと。大好きなりっちゃんがなんで嘘ついたのか……。


ポツリと呟いたつもりだったが瑠架にはハッキリ聞こえていたらしく、思わぬ言葉を口にした。


「っえぇ?!律から聞いてないの?!」

目を見開いて瑠架が私に問う。

「えっ…瑠架…知ってるの!?教えてっ…!!」

私は思わず瑠架に向かって大きな声をだした。


「ちょ…桜羽落ち着いてっ?話するから……」

困ったような声で瑠架が言う。

「ごっ、ごめん…」

「うん…あのね、あんま珍しい理由でもないんだけど………」


瑠架が話してくれた話は私にとって大きな心の揺れにつながった。



―――律ね、那音と付き合って別れて…って何回もやってるんだ。

今回はもう4回目だったと思う…律は那音の事別れてからいつも

“やっぱり好き”ってなって那音も新しい彼女作ってもすぐに別れて律にいつも戻ってきて…。

そんな事いつも繰り返してた。そんな時桜羽が那音を好きになって律がどうしたらいい?って電話してきて、いろいろ話し合った結果、律は

“私は今那音より桜羽が大切なんだ。那音はいつも私の所に戻ってくるけど結局私に甘えてるんだと思う。だから…まだやっぱ好きだけど別れて桜羽を応援したい。これが本当の那音の幸せになるかもしれないから”

って…。その次の日に

“私がもっと早く別れとけば”って泣いてた。

桜羽がキレた日だと思う。その数日後に律が

“那音にフられたよ”

って泣きながら電話してきた。

なんで泣いてるの?って聞いたら

“私…桜羽に両思いになってほしいの。だからこれで良かったんだと思う。だけどやっぱ…まだ好きだなぁ…本当ばかだよね”って。

律は那音より桜羽が大事だったんだよ。

だから言えなくて、苦しかったと思う。それでも応援したかったんだと思う。だから律の事責めないでやって……?

律の分まで那音と幸せになって…――――。





   私は今まで



 何をしていたんだろう


    なんで

 自分のことばっかで


   りっちゃんの事



    ちゃんと

 向き合えなかった?


   私なんかより



    きっと


    ずっと



  りっちゃんの方が



  痛くて苦しくて



 切なかったんだろう




   りっちゃん


   ごめんね


 こんな私のために


   りっちゃんは




  自分の気持ちを



  犠牲にしたんだ




   私のせいで


    今まで


 那音とりっちゃんが


 積み上げてきたものを


 壊してしまったんだ




     私


     が


  恋なんてしなきゃ


  良かったのに








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ