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第五話:車輪妖怪は人を喰うようです

 バラバラ死体。そして、校舎の壁に付いた車輪が転がった痕。そして、焼け焦げたような黒い血の痕。

 聞けば聞く程に奇妙な事件であった。

 被害者はこの学校の人間ではなく、近所のチンピラらしい。何時も夜になるとコンビニにたむろっているのを目にするが、よもやこんな死に方をするとは彼らも思わなかっただろう。

 

「俺達ゃ何もやってねぇよ信じてくれよ!」

「いや死亡時刻的に君達がやったの有り得ないから」

「殺人事件……」


 刑事が三馬鹿にフォローを入れる傍ら、小さく春輔は呟いた。

 ぞくりぞくり、と背筋に百足が奔る。

 いや、大丈夫だ。バラバラ死体なんて荒んだ世の中だから割とよくあるし、妖怪の仕業とは限らない。見れば見る程、校舎の壁に付いた痕が分からないが。


「しかし、こんな事件が起こるとは……第一発見者の三人にはまだ少し居て貰うけど」

「ええ、俺達まだ居るのかよ!?」

「周囲に何か怪しい人が居なかったか、とか知りたいからね」



「犯人は人じゃない。妖怪の仕業だよっ」



 弾むような声が向こうから聞こえて来る。

 見ると──立ち入り禁止スロープを潜って、ビニールシートの中を覗いている冬月を鑑識達が驚いた表情で見つめていた。


「くぉらァーッ! そこの女の子、現場を荒らすんじゃあ、ないッ! てか、何やっとるんだお前達は、現場に無関係なものを入れるな、子供に死体を見せるなッ!」

「すみません、この子気が付いたら居ましたァ!」

「ちぇー」


 冬月は即行で現場から摘まみだされ、警察から怒られることになった。

 彼女を知らない三馬鹿達は見た事のない可愛い制服姿の女の子を見て口々に話し合う。

 何でお前引っ込んでないの? と春輔は手で顔を覆う。

 一番説明の面倒くさい人物を、一番説明の面倒くさい人物達に完全に見られた。


「おい春輔、この子は誰だ?」

「彼女……じゃねえよな。お前みてえなビビりにカワイイ女が出来る訳がねえし」

「怪しい……怪しいぞ」


 激しく失礼ではあるが、説明に困る。

 だから出てきてほしくなかったのに。

 見ると、騒動の原因である本人が「どうするの?」と言わんばかりに視線を送ってくる。

 ──お前が引っ込まなかった所為だろ!


「こ、こいつは俺の従妹なんだよ! うん! 夏休みの間、うちに来てるんだよ、あははは」

「従妹って、全然似てねえぞ」

「いやーははは、東北生まれの叔母さん似なんだよ、あははは」

「にしては肌白いし、髪の色も薄いような……」

「アッ、間違えた、北欧生まれだった、あはははは」

「北欧ォ!? 飛んだぞ。日本人とはエラい違いだぞ」

「東北も北欧も大して変わらないよ! 人間皆家族、生まれた場所くらい些細な違いだろ!」


 汗だくでついつい口走ってしまったが、春輔は自分でも無理があると重々承知だった。

 ──まあ、そもそも人間じゃないんだけど!

 不自然に引き攣る顔で誤魔化す。後ろでは冬月がうんうん、と肯定するように頷いていた。

 ──いや、お前の所為だよ!

 

「とにかく、俺はもう帰るから。事情聴取頑張れよ」

「あっ、待てこら! 春輔!」

「おぁーっ、何だあの車ァ!」

「テレビ局と警察だ、あいつら面倒なモン全部俺らに押し付けて帰りやがった!」


 応援の警察官、そしてマスコミが後から次々に現場に駆け付ける。

 三人組を取り残し、春輔は冬月を連れてさっさと現場から退散するのだった。



 ※※※



「お前馬鹿ァ!? ちゃんと姿消せって言ったよな!? なぁ!?」

「そんなこと言われても、気になる事あって……」


 家へ逃げるように帰り、春輔は冬月を正座させて説教する。

 テレビを付けると既に朝の事件が大々的に報道されていた。さっさと退散して正解だったようだ。

 被害者は確認されているだけで3人だという。


「だけどっ、あれは多分妖怪の仕業だよ? 妖怪は食うために人間を襲ったのは間違いない。不味い頭だけが残ってたし歯の痕がある。あれは、相当人肉に飢えている妖怪がやったことだよ」

「分かってるよ! 校舎に車輪の痕が付いている時点で普通じゃない。しかもかなり痕がデカかったしな」


 彼は本を広げてみせる。

 家から持ってきた座学の教本。所謂妖怪に関する記録だ。

 使い古されていてボロボロだったが、その分何処に何が書かれているかは把握している。


「車輪の痕から見ても、牛車の車輪が付いた妖怪だな。車輪の妖怪はそう多くない。思い当たる限りでは、片輪車と輪入道だ」

「片輪車と輪入道……どっちなのかなっ? 名前が二つあるけど」

「ヒクイドリと波山みたいなものだよ。発見された場所によって同じ妖怪でも名前が違うなんてのはよくあることさ。妖怪が名乗ってる時もあれば、所詮は人間が付けた名前ってこともあるしな」

「ふーん、春輔って怖がりのくせに妖怪には詳しいんだね」

「直接見さえしなければ大丈夫だ。お前を見ると……正直動悸がまだ止まらない」

「ドキドキするの?」

「動悸だ馬鹿! 誰の所為だと思ってるんだよ!」

「ハイハイ、馬鹿やってないで車輪妖怪の話に戻すでありますよ」


 トウジローが呆れた顔をしながら、器用に尻尾でページをめくる。

 車輪に顔が付いた妖怪、燃える車輪を従える妖怪。

 大きく分けて、この二つで車輪妖怪の姿は伝わっている。


「最も出現事例が少ないと、それぞれが同一の妖怪か、はたまた違う妖怪かも分からないのでありますが」

「いずれにせよ車輪の妖怪は人に害をなす伝承を持つ。……今度は明確に人を襲う奴と戦わなきゃいけないのか。勿論、放ってはおけないけど……」


 既に3人、人が死んでいる以上身震いがする話である。

 伝承によれば、いずれも火のついた車輪を操る妖怪だ。姿かたちは様々だがそこだけは変わらない。そして深夜を徘徊し、出会った人間の魂や体を喰らうと記されている。

 つまり、また夜になったら人が襲われる。となれば、夜回りをするしかない。

 放っておけば、夜中に外に出ていた誰かが襲われることになる。


「それと、もう一つ気になる点がある。冬月が言っていた、炎の妖怪統の件」

「まさか、灼薬鬼の奴が噛んでる……!?」

「ヒクイドリが灼薬鬼の差し向けた刺客なら、あの妖怪が死んだことも知られているはずだ」

「車輪妖怪も五行に於ける火属性の妖怪でありますな……妖怪統の手先である可能性は大でありますか」

「もしかして、もしかしなくても灼薬鬼の、罠ってこと?」

「少なくとも無関係とはいえないだろうな……うーむ」


 そうなれば、慎重に動く必要がある。

 外出している人間の数は報道で流石に少なくなってはいるが、妖怪はそこを狙ってくるはずだ。


「トウジロー、傷は大丈夫か?」

「手当の甲斐あってか、もう大丈夫でありますよ。本領はまだ発揮できないかもしれないでありますが……やっぱり、今晩仕掛けるでありますな?」

「……ああ。冬月も居るからな」

「ってことは行くんだねっ」

「怖いけど、陰陽師として……父さんに誓って放置は出来ない」


 春輔は頷く。

 いずれにせよ早めに動かなければ街が危ない。


「でも、どうやって車輪妖怪を見つけ出すの?」

「こういう時こそ、トウジローの出番だ」

「え?」


 微妙そうな顔で冬月はトウジローの方を見やる。


「……大丈夫なの?」

「失礼な! 大丈夫であります! 相手が夜間に人を狙うなら、それを逆手に取るのでありますよ!」

「おお、見直したよ。式神らしいところあるじゃん」


 作戦を考えたのは俺だけど、と胸を張るトウジローの前でとてもではないが春輔は言えなかった。

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