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黒ヒゲ襲来! ~ドワーフ大江戸、じゃじゃ馬娘と大捕り物~  作者: Biz
2章 ぶつかり合う意地と欲とシマ争い
18/30

17話 器の違い

 三日続いた祭りは盛況の内に終えた。

 相撲は子供相撲と、飛び入り参加の女相撲があり、お鈴もこれに参加してどこかの恰幅のいい女将に投げられる。

 同心の左近と交わした“裏取引”は、初鰹が市場に出回るようになった水無月のある日。突如として現れた荷飛脚に、長屋はおろか横川の町は大いに湧いた。


「は、初鰹を振る舞うってえのかいっ?」


 縞模様が走った銀色の身体。

 木桶の中にそれが五匹も。ヴィフトールは口を開いたまま立ちすくむお鈴の横で、


 ――町の者に食わせてやろう


 独りで食う飯よりみなで食う飯の方が美味い。

 それがドワーフなのだ。

 薄い一切れでも、初鰹を口にした事実さえあればいい。

 それが江戸っ子なのだ。


「ほう。これが、タタキとやらか」


 確かに酒が進む、と頷く。

 場所は富田屋を選んだのだが、突然の依頼に『こりゃとんだ大役だ』と店主どころか板長まで汗を拭った。

 店は貸し切りに。〈かつを〉と大きなのれんを掲げる入り口から、深川に繋がる橋の上までの列を作る。一人ひと切れを口にしては去るのだが、みな中にいるヴィフトールに感謝の言葉を述べてから離れた。中には手を合わせ拝む者の姿まであった。


『権六一家の振る舞い鰹でえ。みなの分はあるから、心配するんじゃねえぞお!』


 外ではお鈴が声を張る。

 ヴィフトールの提案に渋ったものの、ちゃっかりと権六一家の手柄にしている。


(あの同心も、上手くやってくれたものだ)


 これらすべて、福蔵一家の目論見を横から掠めたものだ。


 ◇


 権六一家のふるまい鰹。

 そう呼ばれた一件は、横川のみならず浅草まで知れ渡った。話を聞きつけた臥煙の紋次郎がおこぼれをもらいにやってきたが、結局ありつけたのは骨を使ったあら汁のみ。

 しかし当人はそれで満足したらしく、上機嫌で帰っていった。


「お前、よくあんなこと思いつくもんだなあ」


 湯屋の中。

 真っ裸のお鈴は、洗い場の上で腕を組んで頷き続けた。


「どこからか届いた初鰹。それを横川の連中に振る舞うなんてよ」

「ここの連中にも世話になったからな」


 横で聞いていた男たちは、「面目ねえ」と頭を掻く。

 どこかで、とお鈴は言うが、実際は八丁堀からの“裏取引”によるものだと知っていた。

 そして、それは――


『やい、ここに仁王とやらがいるそうだな』


 入り口の方から怒声がし、お鈴はハッと顔を上げた。


「この声は……まさか、福蔵の野郎か!」


 ここ横川のシマを争う、権六一家と福蔵一家。

 番頭と揉めるのをきっかけに、湯屋はざわめき。派手な着物を着たままの、大柄な影がのれんをくぐると、暗闇は一斉に息を詰めた。


「福蔵ッ、ウチのシマに何の用でえ!」

「権六の娘っこも一緒か。今回は小娘に用はねえ、引っ込んでな」

「なにを、アタシだって――ッ!」

「で……そこにいるのが、仁王とやらか」


 いきり立つお鈴を無視し、ジロリとヴィフトールに目を向けた。

 恰幅のいい悪相の男。目はやや垂れ目だが、善人にはない鋭い光を放っている。

 暗闇の中で対峙することしばらく。


「ま、まあ、なんだ……」


 これまでの勢いはどこに。

 突如として福蔵が気勢を欠いたかと思うと、


「こ、今回は手打ちにしてやらあ……! ありがたく思いやがれ……!」


 言うなり、身体を翻し、そそくさと湯屋をあとにしたのである。

 これにはお鈴だけでなく、周りの者たちもぽかんと口を開いたまま。


「なにがあったんでえ……?」


 再び暗くなった湯屋の中。

 ヴィフトールを除き、全員が首を捻るばかりであった。

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