13話 成敗
翌朝。お鈴はヴィフトールに変わって調査へ。
言葉が通じないと分かれば、畳の上であぐらをかく権六も居心地が悪そうだ。……が、昨晩描いた人相書きを見るたび、スケベな笑みを浮かべている。
なるほど。ヴィフトールは持ち、紙に筆を走らせた。
「こんなのはどうだ?」
「――」
さらさらと描くは、四つん這いに尻を向ける女の絵で、権六は見るなり鼻の下を伸ばした。
続けてよがり顔やあらゆる痴態を描いてゆけば、
「ほれ、こんなこともしたぞ」
こりゃいけねえ、と言っているのだろうか。
権六はニヤけながら、パチンと頭を叩くのだった。
(絵であれば伝えられるだろう)
地図を描けば、察した権六は箪笥の引き出しを――中ではなく裏底から、一枚の地図を取り出す。
口元に立て指を置いたところからして、お鈴を巻き込むな、との意味だろう。
ヴィフトールは頷いて応え、立ち上がった。
地図には横川の西部。ため池に朱丸が記されている。
字は読めないが、方角さえ分かればいい。
道中、人に方向を示してもらいながら、閑散とした地に足を踏み入れていた。
(あのオカマのようなのが多いな。ここが、お鈴が言っていた〈武家屋敷〉とやらか?)
江戸城が大きく見え、顎髭を撫でる。
(あれがこの国を統べる王の城か。……オークの軍を相手にすれば、即座に陥落するなこれは)
通りを賑やかす立ち売りや屋台はない。代わりに辻番と呼ばれる、一帯を警護する者たちが各所に立ち、道行くものに目を光らせる。
近寄りがたい雰囲気を醸しているも、大きなヴィフトールがずいと迫り、地図に記された場所を指差せば、顔を引きつらせながら素直に道を教えてくれた。
――親玉・福蔵の隠れ家
目明かしは、武家の家に入ることは出来ない。
またその建物が多い地での騒動は、大ごとにも繋がる。父・権六は隠れ家を知りつつ黙っていたのは、向こう見ずな娘を性格を考えてのことだろう。
(悪人の悪知恵には舌を巻く。うまい隠れ場所だ)
地図が指す場所は、町場のとある建物った。
ここならば見知らぬ者が出入りしていても、そう不審がられることはないだろう。
戸板は立てられたまま。裏に回れば、縁側の客間に女が一人――記憶に新しいその横顔に、ヴィフトールは顔を好色に歪めた。
家を守るのは彼女のみ。
そうだと分かれば、やることは一つである。
「ウワッハッハッハーッ!」
戸を破り乗り込んでみれば、お文が目を瞠ったまま言葉を失う。
驚き、逃げることを忘れたように。なすがまま、畳に押し倒されるのだった――。
◇
その一週間後のこと――。
ため池にある福蔵一家の隠れ家は、物々しい夜明けを迎えていた。
「――お文っ、待て、待ってくれえ……っ」
親分・福蔵は這う這うの体で、風呂敷を背負ったお文を追う。
見るからに醜悪な強面。膨れた下顎はそれをより強調しているのだが、今回ばかりはそれをより惨めに見せている。
やっと追いつき、お文の腰にしがみつくのだが、身をよじってこれを振り払うのみである。
「触るんじゃないよ。アタシはね、もうアンタといられないんだ」
「何故だ、何故だっ、理由を教えてくれえっ」
お文はしばらく目を伏せ、そして小さく、
「……成敗されちまったのさ」
と洩らし、そしてそのまま、振り返らず町場を離れてゆくのだった。
残された福蔵は乾いた土の上にへたりこんだまま。若い衆・仁と吉助が駆けつけるまで、呆然と愛妾が消えた方を見つめていた。
「お文は、お文は何をされたんだ……ッ!」
仁と吉助を見るなり、鬼の形相で胸ぐらを掴み上げた。
鰹漁船と段取りを確かめに相模まで。戻った翌日の三行半。
その間に、愛妾に何があったのか。
実は……と、二人が切れ切れに語った内容は、福蔵には、とうてい信じられるものではなかった。
「――ま、まさか、見え透いた嘘を言うんじゃねえ!」
「う、嘘じゃねえッす!?」「ほ、本当っす!」
「そんなことあるわけねえだろ! よ、よりにもよって、お文が、お文が……」
愛妾・お文は自ら股を開いた。
この言葉は、福蔵に立ちくらみを覚えさせるほどであった。
「襲撃に失敗してヤられたにしちゃ惚けていて。ここに戻ってからも『岡場所で楽しんでこい』と、あっしが奪った銀粒を渡したでやんす。思えばあれは、用心棒を誘うための人払いだったのでは、と……」
「お文がそんな……」
福蔵はよろよろと二歩、三歩、後ずさった。
思い当たるフシはある。
相模から戻ってきた昨晩、お文を抱いても、いつもと様子が違っていた。いつもの甘い喘ぎがなかったのだ。
「む、無理もねえでさ。あの仁王とやら、とんでもねえイチモツで」
「馬鹿言うんじゃねえ! お文はなあ、この俺のイチモツに惚れて、俺のところにきたんだ。俺のもの以外じゃ満足しねえんだッ!」
見やがれ、と福蔵はふんどしを下ろし、腕を組んで自慢のイチモツを披露する。
……しかし、それを見た仁と吉助の反応は薄く、
「親分、申し訳ねえんですが……」
「仁王のと比べると、白髪が生えまさあ……」
白毛る――仁が両手で大きさを示してみれば、福蔵は瞠目したまま膝から崩れてしまう。




