表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒ヒゲ襲来! ~ドワーフ大江戸、じゃじゃ馬娘と大捕り物~  作者: Biz
2章 ぶつかり合う意地と欲とシマ争い
14/30

13話 成敗

 翌朝。お鈴はヴィフトールに変わって調査へ。

 言葉が通じないと分かれば、畳の上であぐらをかく権六も居心地が悪そうだ。……が、昨晩描いた人相書きを見るたび、スケベな笑みを浮かべている。

 なるほど。ヴィフトールは持ち、紙に筆を走らせた。


「こんなのはどうだ?」

「――」


 さらさらと描くは、四つん這いに尻を向ける女の絵で、権六は見るなり鼻の下を伸ばした。

 続けてよがり顔やあらゆる痴態を描いてゆけば、


「ほれ、こんなこともしたぞ」


 こりゃいけねえ、と言っているのだろうか。

 権六はニヤけながら、パチンと頭を叩くのだった。


(絵であれば伝えられるだろう)


 地図を描けば、察した権六は箪笥(たんす)の引き出しを――中ではなく裏底から、一枚の地図を取り出す。

 口元に立て指を置いたところからして、お鈴を巻き込むな、との意味だろう。

 ヴィフトールは頷いて応え、立ち上がった。


 地図には横川の西部。ため池に朱丸が記されている。

 字は読めないが、方角さえ分かればいい。

 道中、人に方向を示してもらいながら、閑散とした地に足を踏み入れていた。


(あのオカマのようなのが多いな。ここが、お鈴が言っていた〈武家屋敷〉とやらか?)


 江戸城が大きく見え、顎髭を撫でる。


(あれがこの国を統べる王の城か。……オークの軍を相手にすれば、即座に陥落するなこれは)


 通りを賑やかす立ち売りや屋台はない。代わりに辻番と呼ばれる、一帯を警護する者たちが各所に立ち、道行くものに目を光らせる。

 近寄りがたい雰囲気を醸しているも、大きなヴィフトールがずいと迫り、地図に記された場所を指差せば、顔を引きつらせながら素直に道を教えてくれた。


 ――親玉・福蔵の隠れ家


 目明かしは、武家の家に入ることは出来ない。

 またその建物が多い地での騒動は、大ごとにも繋がる。父・権六は隠れ家を知りつつ黙っていたのは、向こう見ずな娘を性格を考えてのことだろう。


(悪人の悪知恵には舌を巻く。うまい隠れ場所だ)


 地図が指す場所は、町場のとある建物った。

 ここならば見知らぬ者が出入りしていても、そう不審がられることはないだろう。

 戸板は立てられたまま。裏に回れば、縁側の客間に女が一人――記憶に新しいその横顔に、ヴィフトールは顔を好色に歪めた。

 家を守るのは彼女のみ。

 そうだと分かれば、やることは一つである。


「ウワッハッハッハーッ!」


 戸を破り乗り込んでみれば、お文が目を瞠ったまま言葉を失う。

 驚き、逃げることを忘れたように。なすがまま、畳に押し倒されるのだった――。


 ◇


 その一週間後のこと――。

 ため池にある福蔵一家の隠れ家は、物々しい夜明けを迎えていた。


「――お文っ、待て、待ってくれえ……っ」


 親分・福蔵は這う這うの体で、風呂敷を背負ったお文を追う。

 見るからに醜悪な強面。膨れた下顎はそれをより強調しているのだが、今回ばかりはそれをより惨めに見せている。

 やっと追いつき、お文の腰にしがみつくのだが、身をよじってこれを振り払うのみである。


「触るんじゃないよ。アタシはね、もうアンタといられないんだ」

「何故だ、何故だっ、理由を教えてくれえっ」


 お文はしばらく目を伏せ、そして小さく、


「……成敗されちまったのさ」


 と洩らし、そしてそのまま、振り返らず町場を離れてゆくのだった。

 残された福蔵は乾いた土の上にへたりこんだまま。若い衆・仁と吉助が駆けつけるまで、呆然と愛妾が消えた方を見つめていた。


「お文は、お文は何をされたんだ……ッ!」


 仁と吉助を見るなり、鬼の形相で胸ぐらを掴み上げた。

 鰹漁船と段取りを確かめに相模まで。戻った翌日の三行半。

 その間に、愛妾に何があったのか。

 実は……と、二人が切れ切れに語った内容は、福蔵には、とうてい信じられるものではなかった。


「――ま、まさか、見え透いた嘘を言うんじゃねえ!」

「う、嘘じゃねえッす!?」「ほ、本当っす!」

「そんなことあるわけねえだろ! よ、よりにもよって、お文が、お文が……」


 愛妾・お文は自ら股を開いた。

 この言葉は、福蔵に立ちくらみを覚えさせるほどであった。


「襲撃に失敗してヤられたにしちゃ惚けていて。ここに戻ってからも『岡場所で楽しんでこい』と、あっしが奪った銀粒を渡したでやんす。思えばあれは、用心棒を誘うための人払いだったのでは、と……」

「お文がそんな……」


 福蔵はよろよろと二歩、三歩、後ずさった。

 思い当たるフシはある。

 相模から戻ってきた昨晩、お文を抱いても、いつもと様子が違っていた。いつもの甘い喘ぎがなかったのだ。


「む、無理もねえでさ。あの仁王とやら、とんでもねえイチモツで」

「馬鹿言うんじゃねえ! お文はなあ、この俺のイチモツに惚れて、俺のところにきたんだ。俺のもの以外じゃ満足しねえんだッ!」


 見やがれ、と福蔵はふんどしを下ろし、腕を組んで自慢のイチモツを披露する。

 ……しかし、それを見た仁と吉助の反応は薄く、


「親分、申し訳ねえんですが……」

「仁王のと比べると、白髪が生えまさあ……」


 白()る――仁が両手で大きさを示してみれば、福蔵は瞠目したまま膝から崩れてしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ