第2話:告白
辰弥の顔が近づいてきて、唇が触れるまで僅か1cm程という距離に迫った時、突然辰弥の目が開いた。
「びっくりした?キスされると思ったでしょ?」
呆然として何の反応も出来ない由菜を見て辰弥はニコリと笑った。その笑顔は確かに昔良く遊んでいた従兄弟の顔であるように思えたが、しかしどこか全く違う男の人を見ているような気さえした。
「何するのよ。悪ふざけはやめてよね。」
やっと我に帰った由菜は辰弥に抗議した。しかしその後言った辰弥の言葉は私をさらに驚かせた。
「悪ふざけじゃないよ。俺、由菜の事好きだから。それに由菜もすぐに俺の事好きになると思うな。」
そう言う辰弥の自信満々な顔、由菜を見る優しげな目、静かに微笑む男っぽい口。それらは由菜の知っている子供の辰弥ではもはやなかった。由菜はただ呆然と辰弥を見る事しか出来なかった。
夕食の時間、由菜の隣には辰弥、辰弥の前に父、由菜の前には母が座っていた。
「辰弥君は、今の学校にここから通うんだろう?」
父の問いに辰弥は礼儀正しく答える。
「はい、通えないわけじゃないし、中学も残り僅かですから。」
「そうよねぇ、それが良いわね。恵子に聞いたけど、辰弥君は由菜と同じ高校を受験するのよね?だったら出来は悪いけど由菜に勉強見てもらうと良いわよ。」
母のとんでもない言葉に、
「ちょっと・・・」
「是非そうして貰えると嬉しいです。よろしくお願いします、由菜さん。」
私の意見も聞かずに、とびきりの笑顔を由菜に向ける。由菜は何も言えず(というよりは何も言わせてもらえず)、結局辰弥の家庭教師をする事になってしまった。