第1話:従兄弟
「由菜、今日から辰弥君家に泊まるからね。」
と母が言った。辰弥とは私の従兄弟だ。会うのは5年ぶり位になるだろう。由菜は高校2年生、確か辰弥は中学3年生だったと思う。
「え・・・、なんで?」
「恵子、孝さんの御母さんが入院しちゃったから看病に行くことになったのよ。」
恵子とは母のお姉さんである。夫の孝さんは単身赴任中で家にいないので、辰弥を家で預かることになったのだ。
「お姉ちゃんの部屋で寝てもらうからあんた片しといて。」
「え〜なんであたしが。」
「四の五の言わずにさっさとやる。」
渋々由菜は片付けを始めた。掃除をしていると背後で人の気配がした。
「せいが出るなぁ。頑張って。」
後ろを振り返ると辰弥が立っていた。5年前に会ったときは、小学生で可愛らしかったのに、今は背が高くなって由菜のクラスにいる男供と変わらない。そして、声変わりをしたせいか今までに聞いたことのない声だった。立ち上がると由菜は辰弥を見上げる形になった。
「ちょっと、頑張ってじゃなくて手伝ってよ。」
由菜は突っ立ったまま何もしようとしない辰弥にそう言った。
「残念。俺今忙しいんだ。」
「どこが・・・」
「辰弥君、お茶入ったわよ。」
由菜が辰弥に詰め寄ろうとした所で下から母のお呼びがかかった。
「ほら、ね。」
と笑顔言った。多少ムッとしたが、無視して掃除を再開する事にした。母からのお呼びがかかったにもかかわらず辰弥はまだ由菜の背後にいるようだった。
「もう、何よ。呼ばれてんだから、早く行き・・・」
由菜が勢い良く振り返ると、辰弥の顔が近づいてきていた。