はち。いちゃいちゃを見せつけるのは必須ですか?
お久しぶりです。約3ヶ月ぶりに羽鳥さんを捕獲できましたので更新です。
「それに、私好きな人いるし」
一部の人には爆弾発言。私的には予定調和。むしろやっと言えたぞくらいの軽さ。
「あら」
「おや、まぁ」
「おお」
三者三様の反応の中。
「…………はぁ!?」
バカはバカだった。
「は、な、え?」
「だから、好きな人いるの。つき合ってるの。もちろん、あんたじゃない人とね」
おわかり? ……わかってないみたいだな。
呆けた奴はぱちぱちと瞬きを繰り返すと、はっ、と鼻で笑おうとして失敗した。心に余裕のない男はなにやっても様にならない。
「お、お前にそんな相手がいるはずな」
「しかもプロポーズされて受けたから、婚約者だ」
「あら、聞いてないわよ?」
「報告しようと思ったらこの騒ぎでした。この後食事しながら顔合わせしましょう」
「近くあちらのご両親ともお会いしないといけないね」
「調整します」
両親が納得してくれたので、続きをと振り向いた所で、身体に巻きつく腕。うん、待てが足りなかったか。
「長かった……」
「あーうん、ごめん? 後もうちょっと待て?」
言わずと知れた三春は、ぎゅうぎゅうと私を締め付けながら、すりすりと頬を寄せる。犬か猫か……本人的には忠犬のつもりだろうけど、どうやら狼だった模様。とりあえず、よしよしと頭を撫でておく。
「そんなわけで、恋人で婚約者の三春平さんです」
いやー、藤沼母とのやり取りの後、宣言通りアプローチが露骨になりすぎてスルーできなくなりまして。最初からいいな、とは思ってたし藤沼の件でフォローしてくれてたあたりで、かなり好感度は上がっていたのだ。私が気づかなかっただけで。
……自分の心自分知らずー。間抜けすぎるわ阿呆!!
「後程式の日取りなど段取りを決めたいのですが」
「あら、早いのね」
「これ以上待ったら、またなにが起こるかわからないので」
「「ああ」」
納得しないでくれるかな父母よ!
「そんなわけだから。慰謝料一括で払ったら、私の前から存在ごと消えてくれる? マジうざ」
呆けて真っ白になってるバカと、私を見比べた外野が、ふふんと鼻で笑った。
「ちょっとぉ、藤沼さんがあなたなんて相手にするわけないじゃないのぉ。そちらのステキな方もなにかの気の迷いよねぇ。お気の毒に、脅されたのかしらぁ」
わぁ、テンプレ。てか、小者臭半端ないな。
「そちらこそ、ストーカーの恋人乙? てか、早いとこ引き取ってもらえる? 暇じゃないんだよね」
おじ様の手配が済めば、藤沼のサインで終わるし、そこに私はいなくても問題ないし。社長は会社役員と話し合うとかでさっきお帰りになったし。
「ああ、そういやここ、あなたの恋人が予約した部屋だったわ。私達帰るから、どうぞごゆっくり」
スウィートのリビングにいた私達。察した両親はにこやかに退出。おじ様はバカに書類できしだいまた来ることを念押し(またくるから勝手に帰んじゃねぇぞ?)してからさくっと退出。そして私達。
「こ、湖都!」
この期に及んですがりついてくるバカを睨みつける。ビクッと怯えるくらいならするなよ。
「名前で呼ぶな、と言ったはずだが? むしろ呼ぶなとも言ったと思ったが? お前の記憶から私の名前を消してやりたいくらいだが、なにしたら記憶から消えるんだろうな?」
物覚え悪いくせに、必要ないものは忘れないなんて、なんてバカなおつむだろうか。
「何度だって言うけどな。私はお前が大嫌いだ。2度とその顔見せんな」
「もういっそ社会的に抹殺とかでいいんじゃない? ご両親とその相談してもいい?」
「いや待て、それ冗談に聞こえない。田崎と和泉がタッグを組んだらそら無敵じゃないか」
「だからいいんだろう? やるなら徹底的に潰さないと」
怖っ! 三春マジ怖っ! てか激おこでした。うん、気持ちはわかるが落ち着け。
どうどう、と三春を宥めてると、一言目以来沈黙を保っていた藤沼父が立ち上がった。無表情である。怒りも憎しみもない、凪いだ瞳が藤沼を映した。
「父さん! なんとかしてくれよ! 湖都は恥ずかしがってるんだ! 俺が藤沼に戻れば湖都も、っ!?」
ガツッと音がして、3度藤沼が吹っ飛んだ。あや、藤沼父もなかなかに激しいお人だったようだ。てか、恥ずかしがってなどいないわ阿呆。本気で大嫌いだと言ったのに、通じない不思議。きっと生きてる世界が違うんだな。
「お前の父ではない。2度と呼ぶな。そしてお前が藤沼に戻ることは永遠にない」
吐き捨てるように、藤沼父は言った。瞳は相変わらず凪いだまま、無関心ここに極まれり。
「は、な、なに、を……」
「お前とは遺伝子上親子ではないことが証明された。誰の子なのかは知らん、あれに聞くといい。この事は広く通達する。金輪際藤沼を巻き込むな」
わぉ、更なる衝撃。元藤沼母なにやってんの。藤沼家はほんととばっちりというか運が悪いというか。
「羽鳥嬢、三春君。お二方には本当に申し訳ないことをした。これは藤沼が責任を持って監視することになった。2度と会わせないと誓おう」
深く深く、私達に頭を下げて、藤沼父は私達を送り出してくれた。責任をとらなくても誰も責めないだろうに、彼は自分へのけじめと戒めとして、最後まで見届けると決めたようだ。なら、私達はなにも言うことはない。
どうやら、元藤沼母の過激なアプローチで押し掛け女房的に一服盛られたらしい。憐れだな藤沼父。若気の至りとは恐ろしいものだよ、と苦笑した三春。てか、どこからその情報拾ってきたのさ!? 三春、恐ろしい子!
「藤沼家は和泉の傘下に入ったよ。膿を出しきったからもう大丈夫だろうって」
「これから後継者選び大変だね」
「元々の婚約者との間に男女男で3人いるから、大丈夫でしょ。認知済みだし、後妻として籍入ってるし」
「日陰の妻いたし。昼ドラー」
「はいはい、もうおしまい」
ところで、どこで私が三春に落ちたのかというとだね。
とある日。
「羽鳥、ここなんだけど」
「ん? ああ、資料別添付だね。こっち」
「ああ、ありがとう。(小声で)……湖都」
「うひゃっ」
名前呼びは反則です! (アプローチ的には正しい)
またとある日。
「羽鳥、今日ご飯行こう」
「いいねー、中華食べたい」
「……(小声で)俺は湖都が食べたい」
「ひぃっ」
下ネタ禁止です! (アプローチ的には以下略)
またまたとある日。
「湖都、今度の休み空いてたら映画行かないか?」
「あ、それ観たかったやつ! 行く!」
「じゃ、泊まりの準備しといてね」
「うん。…………ん?」
とまぁ、その夜だね。なし崩しというより、用意周到な外堀の埋まり具合だったよ。認めましたよ、恋心。そうして始まったつきあいの中、来たのがあのバカの手紙だったのさ。
やっとあのバカと無関係になれる、と受かれた私は知らない。
三春がうちの両親とタッグを組んで、藤沼撲滅作戦を繰り広げていることを。
そこにおじ様と社長も参戦してのローラー作戦で根絶やしを狙っていることを。
そんな最強で最凶な人達の本気の前に、あのバカは一月もたなかったことを。
知らない私は、その半年後。
幸せな花嫁になることを。
まだ、なにも知らないのだ。
本編は落ち着いたので、羽鳥母を説得して出会いなどをインタビューしてこようかと。