ご。溺愛は必須ですか?
終わらせるつもりが終わらなかったよ! なぜかはラストで!
「まさか羽鳥が勝俣家の血筋だとはね」
「言うほどのことじゃないし。それに知ってたでしょ」
「気づいてたか。まあ、羽鳥は羽鳥だし」
そんなこと言うのは三春くらいだよ。
そこそこ家格のある男なんかは、勝俣と聞くと目の色変えたりするよ? 勝俣の後ろにいる田崎グループと縁をつくりたいんだろうね。ま、そういう輩は母が笑顔であしらってるし父(だけじゃないけど知るのは怖い。多分どこぞの副社長あたり)がなにやら暗躍してたけど。
完全に余談だけど、その副社長、実母と嫁と私の母に頭が上がらない。てか、完全に楽しんで尻に敷かれている模様。腹黒策士系ダンディおじさまはぶれないお人である。
私達は高級な料亭を出て駅に向かっていた。藤沼夫人は置いてきた。てか、呆然としてて話にならなかった。まぁねぇ、とるに足らんと思ってた小娘に手痛いしっぺ返しくらったわけだし。けどまぁ、挫折に弱いっていうか、自分が負けることも想定しとこうよ。
てか、まだまだこんなんじゃ終わらない予定だけど。手加減してやる義理はないし優しも持ってないから、叩き潰したが正解かもしれないけど。小娘を侮るからこんなことになるんだよ、私はおとなしく三歩下がってついては行かないぞ?
「これである程度は片付いたかな」
「うん、多分ね。事後処理がてんこ盛りだろうけど」
さぁて、事後処理ついでに藤沼(息子)を再起不能にしておくか。バッキバキに折ってやればあの傲慢な性格も矯正されないかな。と、これからに思考を飛ばした私の隣に、黒塗りの高級車が音もなく止まった。ハイブリットでもここまで無音ですか!? なレベルだ。さすが乗り心地にうるさい日本車。しかしそれをここまで乗りこなす運転手さん、ブラボー!
そして気づいたら後部座席とか、スムーズな拉致とかそれ誰得ですか? 目的地は天国か地獄か。てか三春よ。犯人はお前か。なにさらっと運転手さんに犯罪の片棒担がせてるんだよ。運転手さんも止めようよ、訴えられたらどうするのさ。……ああ、もみ消すんですねわかりますー。
「これは一体どうゆうことかね、三春さんや」
「うん? あまりに鈍すぎる羽鳥にもう手加減いらないよね? と」
「鈍すぎ? 手加減?」
なんのことか。私はにぶにぶの実など食べた覚えはない。
「あのね。俺が羽鳥のこと好きだって、羽鳥以外はみんな知ってるよ? 言ってもアピールしても完璧にスルーしてくれたの羽鳥だからね?」
私以外はみんな知ってる? なにを? ハトリノコトスキダッテ? ………………はあぁぁぁぁ!?
「は!? な! うえぇえ!?」
「はいはい、落ち着いて」
落ち着けるかぁ!!
なんなのそれ!? 知らないしありえないし!!
「俺好きでもない人の仕事フォローしたりしないし、飲みに誘ったりしないよ? 勘違いされたら面倒じゃん」
じゃぁ、なぜに私とは飲みに行ったりしたのさ。しかも全部誘われたしおごりだったじゃん。
「勘違いしてほしいからに決まってるだろ? 飲みに行くのも休みに遊びに行くのもふたりきりだったの、周りから見たら立派なデートたからね?」
立派なデートってなんだよ。てか私デートしてたのか。立派なリア充じゃないか。爆ぜろ私、いやだよ。
「……で、どこ行くの?」
「俺の愛を受け取ってもらいに、と言いたいとこだけど、とりあえずご飯食べよう。送るから、ご家族にあいさつするよ。説明しなきゃだし、会社への報告もあるし」
確かにお腹はすいた。朝っぱらからあの騒動である。ライフゲージが減るのもうなずける。腹ごしらえしないと、これから家族とのやり取りに耐えられるかどうか。しかも伯父様がくるってことは母と笑顔で氷点下のやりとりするんだろうし。
「なかったことにはしないでね? 俺は本気だから」
「……忘れてなかったか」
「言ったでしょ? もう手加減しないって」
言ってたね。本気ってマジですか。
「溺愛しない自信はないから覚悟してね?」
いや、普通モードはないのかよ?
「覚悟してね?」
「近い近い近いー!!」
いくらそこそこ広い車内とはいえ、ずいっと近づかれたら驚きもするわ! 男にしとくのもったいないくらいのキレイな顔のアップなんて誰得なの!? ちくしょうイケメン爆ぜろ!
「俺の愛をわかってくれた?」
「わかったわかったわかったからー!!」
「そっか、よかった。じゃつき合ってくれるよね?」
「わかったから離れてー!?」
「よし」
キスできるくらいの近さにあった三春の顔が遠退く。ぜぃはぁと荒く息をつく私は、にこにこご機嫌な三春にようやく失言に気づいた。
あれ? 私もしかしなくてもやらかしたんじゃね?
今さら撤回なんてできない許されるわけない、まだまだこんなもんじゃないよ? な本気の三春に落とされて溺愛されるまで後少し。
……少し? 少し!?
いきなりだけど、後日談を少々。
セクハラやらパワハラやらモラハラやらをやり尽くした(本人無自覚なのがなお悪い)藤沼は、親族の部長共々栄転と言う名の島流しにあった。藤沼に関しては国内にすらいないらしい。やるときゃやるのね、判断がとてつもなく遅いけど。
その藤沼に関しては、とどめを刺したのはあの金崎ちゃんらしいことは後で知った。私の出る幕はないくらいにステキにスパッとよく切れる刃物だったようだ。
藤沼の実家は、夫人が離婚された上で藤沼との絶縁。夫人は実家に戻されたそうだが、納得がいかず泥沼化。まぁ、あの怒気のままのご当主相手ではとりつく暇もないだろう。
そもそも、私まだ謝罪うけてないからね? ご当主には謝罪されたら直に連絡くださいと言われてるからね? その状況でいくら夫人が騒いだって無駄な努力ですわー。
まぁ、その夫人だが会社に一度来た。藤沼の婚約者の羽鳥を出せと宣ったらしい。笑顔の警備員につまみ出された。社の入り口前で怒鳴り散らして警察に御用になった。当然である。
そんなわけなので、夫人のことは因果応報自業自得。社交界でも居場所がない、てかあるわけない。田崎グループ前社長夫人である琴子さんがいて社交界で我が物顔でいられるわけがない。きっと戻ることもできずにすぐに忘れられるだろう。プライドズタズタですな。
伯父様はそのあたり抜かりなかった。慰謝料やら名誉毀損やらで私の口座の残金跳ね上げてくれただけではなく、さりげなくそれとなく藤沼家の外堀を埋めると、藤沼元夫人の実家にまで手回しを怠らない。弁護士の鑑だけど、ドSなあれこれが丸見えでした。
会社からは、社長自ら謝罪に来た。その潔い土下座は母の怒りは鎮めたけど、父の怒りを鎮めることはできなかった。普段温厚な人を怒らせると大変厄介である。うちの父は、笑顔で口調も優しく穏やかに和やかに話すその中こそ毒がぎっしり詰まってるのだ。なにそれ怖い。
つまり、侮ってたかをくくってると痛い目を見るのである。
社長は半泣きで帰って行った。こうなるのがわかってた母はちょっとつまらなさそうだった。似た者夫婦め。
そんな母だが、やることはやっていた。
氷のような眼差しで微笑みわが社に来訪。後ろに副社長を従えたその立ち姿はまさに鬼。てか、立ち位置間違ってますがな母よ。
その母は、藤沼を止めるどころか恩恵を受け、にもかかわらず処罰なしもしくは軽い処分な方々を言葉で粉々に打ち砕いた。砂より細かくすり潰された方々は、リアルでオーアールゼーット! を披露。珍妙なものを見た。
そんなこんながあって落ち着いてきた頃。会社に手紙が届いた。ダイレクトメールに混ざったそれは、水色の封筒だった。誰やんと開けて、後悔した。私から詳細を聞いた三春は、ほう、と笑った。
「懲りないね」
まったくだ。
やだなぁ、このあと血が降るんじゃね?