さんてんご。ありえない自己中男に制裁は必須です
なんか、ぐだぐだになった感が……。
金崎ちゃん視点です。
私の先輩であり教育係の羽鳥さんは、とてもよくできた人だ。
どのへんがとてもよくなのかは、見てるとわかる。
羽鳥さんは仕事を中途半端にしない。きちんと最後まで責任を持ってる。だから、仕事のできない私にも諦めずに教えてくれる。
もっとも、最近は諦めなのか呆れなのか、忙しい時にはよその課におつかいに出されているけど。まぁ、1年すぎても使えないからしょうがないかもしれないけど。
羽鳥さんはそれでも優しいから好きだ。
だって、こんないかにも結婚相手を探しにきましたな私にも態度がかわらないのだもの。今どき珍しい人だ。
だからかな? 社内のイケメンふたりにアプローチを受けてるのに気づかない羽鳥さん、かわいい。
まぁ、そのうちのひとり、藤沼さんのはアプローチとはいえないなぁ。どう見てもあれ、モラハラだもの。もうひとり、三春さんのは正しくアプローチ。もうべた惚れがまるわかり。気づかない羽鳥さん、すごくかわいい。
あの三人は昔読んだ話に似てる。北風と太陽に服を脱がされちゃう旅人の話。もちろん、旅人が羽鳥さんで太陽が三春さん、勘違いで俺様な北風が藤沼さん。
三人は同期入社らしくて、ずっとあんな感じですごしてきたみたい。見てるこっちがあきれちゃうくらいに一方通行なのよね。
藤沼さんは羽鳥さんに振り向いてほしくて、でも素直に言えなくてつい悪口になっちゃうんだろうけど、わかってるかなぁ? 羽鳥さん、一度も藤沼さんの目を見たことないんだよ。
つまり、恋愛をする相手として見られてない。なにそれ受けるー(棒読み)。
怖いもんねぇ、あんなにらまれて笑えるわけないじゃない。あれのおかげで羽鳥さんのスルースキルは上限突破中まだまだ限界はありませんなのよ。
今夜の飲み会だって、私と三春さんに挟まれてちっちゃくなってるし。なのに三春さんに餌付けされてるし。構ってほしくて口を挟んだら、来たのは勘違いモラハラ俺様だった。
え? カッコイイって言ってなかった? そりゃ鑑賞には最適でしょ。彼女とか恋人とか妻とかになるなら中身も見なきゃ。あんなのと結婚したら気が狂うか鬱になるよ、きっと。
始まったいつもの罵声を、けれど羽鳥さんはいつものようにスルーしなかった。ふざけんな? あらやだ、以外と口悪い! でも似合うしかわいい。
あまりにテンポよく繰り出される反論に、藤沼さんは呆気にとられていた。奥で三角な泥沼一歩手前な彼らは、とっさに彼女を上司がかばって、恋人の彼がショックを受けていた。あれ、ちゃんと落ち着くのかしら。
すっきり、とまではいかないけど、言いたいことを言った羽鳥さんは三春さんにエスコートされて出ていった。え、ここどこかのレストラン? 居酒屋じゃなかったっけ? なんかあのふたりの間だけ空気違くない?
ビミョーな雰囲気に固まる中、再起動したのは三角な泥沼の恋人の方。彼女を取り返して上司から離れた。まだ続くの?
それぞれが動き出して、やっと藤沼さんの回路が回復したらしい。お店のサンダルで飛び出して行った。やっとか、と私も後に続く。え、野次馬するでしょ? 当然。
まぁ、そこでもさらに言葉のサンドバッグにあってたんだけど。ほんとマジ受けるんですけどー(超棒読み)。
藤沼さんを見る三春さんのあの冷たい眼差しを見た? もう、人を見る目じゃないよ。こわっ! 私は向けられたくない。だって三春さん怒らせちゃいけない人ナンバーワンだもの。羽鳥さんにはあんな優しい眼差しなのに。
そもそも立ち位置見たらわかるよね、羽鳥さんの隣にいるのは誰なのかって話よ。他人が見たってわかるわよ、これ。あ、羽鳥さんは気づいてないかも。ニブニブの果物食べたっぽいもの。
「てか、マジありえなーい。モラハラしてる方が無意識なんてマジ非常識ー。羽鳥さんのためだなんて、本音は超自分のためじゃないの」
思わず口に出して止めを刺してしまった。
膝から崩れ落ちる藤沼さんは、ほんとに気づいてなかったのかしら。羽鳥さんが恥ずかしがってると思ってた? あらやだその目は腐ってるのかしら。
「俺はずっと両想いだと……」
うめくみたいに言うけど、辛いのは辛かったのは羽鳥さんであってあなたじゃないから。
「デートとかしたことあります? 飲みに誘ったことは? 誘われたことは? 休日を一緒にすごしたことは? キスは? それ以上は?」
「…………」
「ちなみに、三春さんは首尾よく誘って断られたことはないですよ。羽鳥さんの好み知りつくしてるもの、あの人」
「三春、が」
「顔だけイケメンは今時モテないですよー? 男は中身もイケメンじゃなきゃ。そもそも、お見合結婚を否定するわけじゃないけど、女は男の3歩後ろを歩け、なんて時代錯誤もいいとこだし、女性をバカにするのも大概にしてほしいわ。てか、羽鳥さんをバカにするのもいい加減にして。あの人は仕事に対してちゃんと責任持ってるの、できない私の面倒を見ながらそれでも自分のノルマは時間内に終わらせてるのよ。なにも見てないくせに、わかったようなことを言わないで」
ふんむ、と鼻息荒く宣った私に、藤沼さんだけでなく野次馬していた課の人達もポカンとした。
「金崎ちゃんがまともに見える……」
ぽつりとこぼされた言葉にうなずく人達。あ、しまった。おバカ設定吹っ飛ばしちゃった。仕方ないか、ミッションも終了だろうし問題はないだろう。
「まぁ、あれは演技ですし。私、社内監査の調査員ですから」
「え?」
藤沼氏のことは、ずっと問題にはなっていたのだ。ただ、後ろ楯が実家だし旧家だしで手を出しにくい相手だった。ので、一年前入社した私に課せられたのは証拠集め。藤沼氏のあれやこれの裏付けのために、また疑われないために仕事のできない腰掛け社員を演じていたわけ。
てか、入社して初めての任務にしては難関だった気がするわ。人手が足りなかったからといっても無理があったと思うのよ。……特別ボーナスを請求しよう、うん。
「証拠は揃いましたし、三春さんも動いてるし、羽鳥さんがどうするかによりますけど、藤沼さんの処分は決定です」
「え?」
なんで疑問符? 呆けてる藤沼氏ならともかく、課長まで……あぁ、同罪ですもんねぇ。
「当たり前でしょう。パワハラにモラハラにお見合い強要まで。社の女子社員全員の納得のいく釈明をしていただいたのち、処分です。もちろん、監督不行き届きとして課長と部長もですが」
なにそんなことまでしなくても、な顔してるのよ。そんなことしたのは自分達だっつうの。
女は自分達に従っていろとでも言いたいの? バカなの? 死ぬの?
結論から言えば、処分は正しく下された。
藤沼氏は減給に戒告に社長のお叱りを受けた上で離れ小島な支社に流されていった。
課長と部長も減給に戒告に社長のお叱りを受けた上で降格、支社に転勤。
私は特別ボーナスをもらった上で、まだ羽鳥さんの補佐にいる。今までとは違ってきちんと仕事をしている。この一年分の役立たずを返上したいから。
そんな私に、今日も羽鳥さんは優しい。
この後、金崎ちゃんには理想の旦那様が現れます(笑)