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さん。告訴は必須ですか?

マダム藤沼暴走、息子どうした。

 刑事告訴とは穏やかではないなぁ。てか、藤沼母最強説浮上。ん? 最凶? いやいや、はて。


「ちょと待て? 藤沼はなにやらかしたの」


 確かに、私へのパワハラ含むモラハラは訴えられるレベルだ。けど、母親の独断なのか実家の判断なのか、刑事告訴に踏み切るのはただ事じゃない気がする。


「藤沼家はね、息子が嫁を迎えるってすごく喜んでたらしいよ。嫁ぎ先の仕来たりを教えたいから早めに連れてくるように言われてたみたいでね」

「うわー、仕来たり。いかにも名家って感じ。てか思い込みもそこまでくれば妄想だね」

「部長からはいい返事を期待するように言われるだけで、実際話は先に進まない。実家からはせっつかれるし、羽鳥には近づけもしない。焦ってたようだよ」


 焦ろうがなんだろうが、つき合ってた事実はないもの。

 三春を見ると、まぁそうだよね、とうなずいた。

 しかし部長。暗い夜道は気をつけてね? ふふふ。


「藤沼からなんの進展も聞かされない母親が会社に電話したんだ。息子の婚約者の羽鳥さんを、ってね」

「……はぁ!?」


 ちょおっっっと待て!! いつ誰がどこでどのようにしてあの愚か者の婚約者になったんだ!!



 三春の話をまとめると、こんな感じになった。


 藤沼、部長にお見合いの橋渡し&仲人の依頼。

 藤沼、実家へ結婚報告。

 部長、私への縁談話を出す前に断られる、むしろ拒絶。

 部長、藤沼へ事実を告げず。告げられず?

 藤沼、事実を知らず、私を恋人扱い。

 部長、打開を試みるも失敗。なにしたんだよ。

 藤沼、話が進まないことに苛立つ。

 実家、話が進まないことに疑問。会社に電話。藤沼の暴走が明らかになる。母激怒、と。


 ……つかさぁ、いい年した大人が告白もできんの? と本人にも言ってやったが、実家もさ、結婚報告にふたりでこない時点で疑問を持とうよ。なんなの藤沼家。


 まぁ、それで藤沼母からの電話をとった三春によって(電話受けたのが三春でほんとよかった。他の人なら私に回してきたはず、間違いなく)事実の食い違いを正した結果、藤沼母がブチキレたらしい。


 そこで刑事告訴になるのか。うーん、だけどなぁ。告訴とか本気かなぁ。それによってこっちのもろもろも説明とか説得とかしとかないといけないとことかあるんだけど。メンドーだなぁ。


 うん、よし。


「わかった。告訴しよう」

「え、するの」

「うん、する」


 あとは出方を見て臨機応変に対応、それでいいか。


 結局その日は三春と軽く飲んで帰った。




 次の日、私は三春とふたりで呼び出しをくらった。相手は藤沼母。

 昨日の今日とは、こっちに対策打たせない気だろうか。そうだろうな。うむ。まぁ、打てる手は全て打った後なんだけど。ニヤリ。


 場所はどこぞの高級料亭。あれだ、やんごとなき方々御用達のちょっと内緒なお話をしても、秘密厳守は基本です絶体ですなとこ。


 堀ごたつ的テーブルでよかった。正座なんてもたないし話に集中できない。目の前のマダムは和服で正座してるけどね。


「急にお呼びだてしてごめんなさいね」


 ちっともそう思ってなさげな口調であり態度である。謝罪する側なのに余裕なのは、大人だからか、それとも。


 私が返事をしないので、マダム藤沼はあてがはずれたのだろう。渋々自分から口をひらいた。大方、社交辞令的会話から自分のペースに持ち込みたかったのだろう。


「……うちの息子がご迷惑をかけたみたいで」


 はい、ものすごくかけられましたよ。てか、現在進行形ですがなにか。あー、いやいや。待て待て、仕掛けるのは私からだ、落ち着け。


「あー、謝罪は不用です」

「あら、それじゃ」


 思い通りになったのだろう、笑いかけたマダムに私もにっこりと笑って言った。


「告訴いたしましたので、謝罪は不用です。謝られても取り下げる気はありません」

「早いねー」

「え?」


 親子だなぁ。藤沼母のポカーン、藤沼にそっくりだ。あ、逆か? まぁ、いいや。


「仰られた通り、刑事告訴いたしました。それだけでは私の苦痛をわかってはいただけないとアドバイスをうけて、民事訴訟も起こしました。詳細はそろそろご自宅に弁護士が伺うかと」


 そうなのだ。仕掛けるのはこちらからだから、今日で間に合うだろうと思ってたのに、まさかのマダム藤沼がフライング。そりゃもう華麗に斜め上に。彼女が丸め込まなきゃいけないのはもう私じゃない。なにせ私の手を離れてしまった。


 大体さぁ、我を忘れるほど怒ったとしても、息子を訴えろなんていう親いないじゃん? いや、いるとこはいるよ? でも名家なんでしょ? そんなとこのマダムが家名を傷つけるような真似するかな? いや、しないよね。


 だとしたら、強気でふっかけてこっちが「いや、そこまでは」と、引くのを待ってひっくり返して、はした金な示談金でカタをつけるつもりなんじゃないかと思ったのさ。


 なので、訴えてみようと。私の目的はお金ではない。部長と藤沼への社会的制裁と社内環境の改善である。現時点で藤沼に加害者意識がないようなので、謝罪は期待できない。むしろ相思相愛だと思ってたらしいことにドン引き。


「入社してから今まで、ご子息に蔑まれない日はありませんでした。いわれのない中傷、仕事への圧力。あの四年間が謝罪ひとつで済むのなら、それはご子息もあなたも甘いと言わざるをえません」


 言い終えると、カバンから書類の束とUSBメモリをひとつ出してテーブルに置く。そっとすべらせると、眼差しで問われた。


「ご子息のこれまでの所業と証拠。ご子息と部長の癒着もしくは上司への圧力。取引先での実家の名前を使っての契約強制。全てのデータとご子息の罵声が日付順にはいっております」


 以外と、というかどこが仕事のできるいい男なんだと聞きたくなるくらい、藤沼はやらかしている。実力なんてどこにもない、顔と実家の権力のみで今までやってきたようだし。


 ちょっと調べたら出てくる出てくる。たたいて出るホコリどころの話じゃない。証拠もセットで見つかって、調べがいのないこと、と笑って言われたよ。


 しかし、問題があった。この件、全て藤沼の周りの人間が勝手にやったことで、本人はなにも知らないらしいこと。つまり、藤沼は自分の実力で成果を上げてると思い込んでるが、実際は違うということ。


 社内に藤沼の尻拭い役、げふん、もといフォロー役がいる。誰かは知らないけど。それを探すのは私の仕事じゃないし。


 誰がどのように関与していたとしても、藤沼が私にしたことは変わらない。許すつもりはない、これで終わるわけもない。


「……あなた、藤沼家を敵に回すおつもり?」

「必要とあらば」

「……まあ。ほほほ、おかしなことを仰るのね」

「それほどおかしなことをしたつもりはありませんが」


 私の発言はよほどおかしかったのか。マダム藤沼はくすくすと笑いながらお茶に手を伸ばした。


 優雅だけど、それだけだ。内面から私を蔑む雰囲気が溢れてる時点で残念な人認定は間違いない。家柄だけが全てだとても言うつもりか。


「わたくしね、息子の話を聞いて嬉しかったのよ? たとえ庶民の世間知らずなお嬢さんだろうと、わたくしが仕来たりを教えればいいことですもの。息子が好いた方ならば悪い方ではないだろうとも思いましたの。お互いなにか行き違いがあったのではないかしら、ならば仲を取り持つのも(やぶさ)かではないと。あなたも、なにか思い違いで拗ねてらっしゃるだけなのでしょう? 大丈夫よ、わたくしも息子もそんな狭量ではありませんもの。安心して嫁いでらして?」


 冷たい目で口を歪ませたマダム藤沼は、口と態度が反比例している。気づかないのか、わざとなのか。それを信じる女がいるとでも?


 ぷちん、となにかが切れた音が聞こえたのか、三春があちゃーと天を仰いだ。幻聴が聞こえるとはさすが三春。しかし、上は天井しかないうえに、木目もないからなにもできないぞ。


「ふざけんな」


 本日何度目かわからないにっこり笑顔(ただし、目は笑わない特別仕様)を披露しつつ、吐いた一言はマダム藤沼に届いただろうか。


 子が子なら親も親である。



カエルの子はカエル。そっくり親子。もちろんざまぁ予定。

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