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に。モラハラは必須ですか?

おバカな藤沼の勇姿(笑)と言葉だけでサンドバッグ&無双の羽鳥さん。

 居酒屋の戸を勢いよく開け放って、怒鳴るように呼び止められた。がしかし、誰とは言われてない。つまり、私じゃないよね? ともとれる。屁理屈だが三春を呼んだのかもしれないし。


 三春を見上げると、呆れたような見下したみたいなとてつもなく冷たい目で笑っていた。寒っ! 三春さん寒いっす! 視線で人が凍るぞそれ!


「なにか用?」


 視線だけじゃなくて声も冷た! 凍る! 私が凍るぞ三春!


「っ、お前じゃない!」

「私は用はない」


 藤沼の言葉にかぶせて言いきる。なんか傷ついた顔したけど、今さらだし自分の方がよっぽど酷いことしたからね?


「俺、俺はっ、お前のために言ってたんだ! お前が苦労しないように!」

「あなたのその暴言に(さら)される日々の、どこが、どれが、私のためだと?」


 ふざけんな。なんだその自分にしか都合がよくない発言は。そんなモラハラは自分の嫁にでもしとけ。そんで逆三行半叩きつけられるといい。そもそも、そんな価値観で恋愛結婚できると思うな。私はゴメンだ。


「うちは所作に厳しいんだ! 嫁に入ってから学ぶよりマシだろう!」

「そんなのは自分の嫁に言ったらいいでしょが」

「だから言ってるだろうが! 頭あるのかお前!」

「は?」

「は?」


 こいつ、なに言ってるの? 誰が誰の嫁だと?


「羽鳥、部長からお見合いの話とかあった?」


 ふむ、と私達のお互い噛み合わない話を聞いていた三春に聞かれた。お見合い?


「あったけど、即お断りしたから相手も知らない」

「なっ!?」


 あの部長のニヤニヤ笑いはキモかった。下品な妄想してますと顔に書いてあったよ。


「うん、納得」

「ひとりで納得してないで教えてよ」

「ああ、うん。話す前に、羽鳥」

「ん?」

「藤沼はあり?」

「ないないないない、あるわけない。私のどこにM属性があると?」


 真剣な目の三春に問われ即答。あんな何様俺様殿様藤沼のバカ野郎と恋なぞするか愚か者。


「ないね。よかった」


 さっきまでのブリザードはいずこ? なキラキラスマイルの三春が語った内容は次の通り。


 曰く。私は藤沼が好きらしい。(ありえないだけど!)


 曰く。藤沼も私が嫌いじゃないらしい。(信じられないんだけど!)


 曰く。じゃ結婚を前提につき合うか。(そんな話されてないんだけど!)


 曰く。藤沼家に嫁入りするのなら所作やら何やらを直さないとならない。(どこのお殿様だよ。やだよそんなの堅苦しい!)


 曰く。羽鳥は注意しても直らない。(注意なんてされてないから直すなんてできないけど!)


 曰く。藤沼の気をひきたいのか、そっけない態度で他の男に色目を使っている。(ひきたいわけあるか。てか、あんな蔑まれて好意的に接しろと?)


 結果。バカじゃね? バカなの? バカだね! 藤沼はバカである。以上、お疲れちゃん。


 三春は根気強く話を進めていく。


「藤沼、部長からの返事は?」

「あ、ああ。返事は待ってほしいと言われたと。まんざらでもない雰囲気だったと」

「羽鳥、真実は?」

「部長から『ぜひ君にと。とってもいい話が来てるよ』と見合い写真をスライドしてきたから、受け取らずにUターンして返してやったわ。超笑顔でお断りします、とつけ足しといたけどなにか」

「うん。だろうね」

「は!?」


 うなずく三春と絶句する藤沼。てか部長よ、後で覚えておけ。なんだそのまんざらでもない雰囲気って。


「帰ろう、三春」


 呆れて脱力。もういいや。お酒買って家飲みしよう。気を使って飲む余力などないわ。三春には悪いが駅で別れよう。


「いいの?」

「いいもなにも。私はモラハラだかパワハラだかされてただけで、藤沼なんてどうでもいいしむしろ一緒にいたくないし顔も見たくない。とりあえず帰ったら移動願い書いて飲み潰れる」

「飲みいかないの?」

「気を使って飲んでられるかね、これ?」

「あー。でも、はっきりしといた方がいいよ? 後々のことがあるからね」


 痴話喧嘩とか言われるの嫌でしょう? と言う三春に違和感。痴話喧嘩とな? それはなにか? 今まで上司以外がまともにとりあってくれなかったのは、そうだと思われていたからだと?


「……ふざけんな」

「だよねぇ」


 きっ、と藤沼を睨み付ける。ビクッ、とたじろいだ藤沼は怯えたように一歩下がったけど、そんなのかまわない。


「告白も自分でできないくせに、外堀埋めんのとかなに考えてんのバカなの死ぬの? 同じ職場で見合いとか断れないとでも思ってんのどんだけ権力あるつもりなの、ありもしない職権濫用で訴えられたいの言っとくけど社内監査じゃないよ警察いくよ?」


 言葉のサンドバッグ。言っても言ってもまだまだ怒りは収まらない。私が言われたのはこんなものじゃないからね。怒りはMAX振り切ってるのですよ。いい加減我慢の限界超しちゃったの、ふふっ。


「そもそも、大嫌いな人間になぜ両想いとか思われてたの、マジ心外。好きだと言った覚えもなければ目を合わせたことも話したこともないのに? 会話なんてあった? ないよね? 初対面から苦手な人を好きになるほどヒマじゃないのよ。今じゃ苦手どころか話したくないし顔も見たくないし声も聞きたくないし同じ空間にいたくないの。そんな人の嫁? なにそれ面白くない冗談ねそんなことするならオールドミスのお局として会社に居座ってやるわよ」

「あ、それは困るなぁ」


 うるさいわ三春。

 ずらずらと思いの丈を吐き出した。まだまだ足りないけどね。まぁ、これくらいにしといた方がいいかと。だってポッカーン、である。藤沼の無駄に美形な顔がポッカーンなのである。顔だけしか(一応仕事もできるらしいけど)取り柄がないのに、3枚目以下のポッカーンなのである。大事なことなので3回言ってみた。サービスね。


「……私が絶滅危惧種の夫の後ろを3歩下がってついてく大和撫子にでも見えてたのかねー」

「うーん。清楚で大人しく見えるからねぇ」


 悪いけど、私は口悪いし大人しくないよ? てか、大和撫子なんて間違いなく絶滅したと思うけどね。いると思う? 今時お嬢様だって好きな男を捕まえるためにはハンターにならないとダメなご時世だというのに?


「そんなわけだから、改めてお見合いはお断りします。これ以後罵声も遠慮させてもらいます」


 返事はなかった。これだからプライドだけはエベレスト並のお坊っちゃまはよぅ。

 藤沼は部長の遠縁にあたるらしい。しかも藤沼が本家の人間。逆らえなかったわけだね、部長。


 居酒屋から離れた私達は、駅に歩き出した。今さらだけど、課の人達や居酒屋のお客さん、野次馬なんかで人があふれてた。スマホ構えてた人もいたので、なにかしらネットに流れてるかもしれない。まぁ、こちとら被害者である。怖いものなんかないがね。


 人がいなくなってから藤沼の裏事情を聞いたんだけどさ。もうマジお坊っちゃまで俺様だった。細かく語る必要はないと思う。想像通りのお育ちだったさ。てか、なんで三春はそんな詳しいの?


「藤沼の暴挙は社長の耳にも入ってるみたいでね。専務直々に調査のお達しがあったんだ。何人かが調べたんだけど、藤沼が羽鳥に執着する理由がわからなくてね、俺にお鉢が回ってきた」

「なにやら話が大事に」

「まぁ、ね。藤沼が実家の権力でバカ殿してるの、社外にも漏れててさ。相手が女子社員だっていうのですら醜聞なのに、それが好きな子をいじめるガキの行動とあっては、もう庇い立てもできなくてね」


 庇われてたのか藤沼。お坊っちゃまには甘いな会社。転職でも考えた方がいいだろうか。


「藤沼の母親から刑事告訴するように進言されたから、モラハラの証拠提出してね」

「なぜに証拠があるの知ってるか、って……え?」


 刑事告訴だと? しかも実の母親から?

 藤沼、あんたなにしちゃったの?






三春、君の出番はいつかね? うん、きっと次話(笑)

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