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いち。飲み会は必須ですか?

これ、前後編の予定でした。あえて言うなら短編の予定でした。予定は未定。桜月マジックで桜月クオリティー(笑)

 今夜は憂鬱な飲み会がある。

 会社の同じ部署での集まりは、最低でも月イチで行われているものだ。もちろん強制ではないけど、欠席の理由が正当なものでなければ、後が辛いものになる。


羽鳥(はとり)さん、今日の飲み会行きますよね?」


 後輩の、清楚系を装う肉食獣な金崎(かなさき)ちゃんがウキウキと聞いてきた。


「残業にならなければね」


 私楽しみです! な彼女とはあきらかにテンションが違うのに気づいてほしい。私は行きたくないんだよ。


「えー、お仕事なんてすぐ終わらせて行きましょうよぅ」


 簡単に言わないでほしい。自分の分だけじゃないんだよ。主にあなたのフォローが終わらないのが最たる理由なんだけど?

 この金崎ちゃん、会社に玉の輿な結婚相手探しに来てますと(のたま)う大物なのだ。なら受付か秘書課に移動願いを出してくれ。そしたら私は幸せになれる。マジで。



 羽鳥湖都(こと)26歳。仕事は好きだが量にもよるだろうとしみじみ思う、冬の一日の始まりだった。春は色んな意味で遠そうだ。



 朝から夜のことしか頭にない金崎ちゃんのお花畑トークを、はいはいとスルーしつつ仕事をこなす。同情の視線をくれた同僚である友人にお昼はおごってもらおうと決めた。


「あーあ、藤沼さんとお近づきになりたーい」


 両手をお祈りポーズに組んでうっとりとつぶやく。仕事をしなさいよ給料ドロボー。いや、やり直しの方が面倒か。

 ……ん、藤沼? 藤沼って私の同期の奴のことだろうか。


「金崎ちゃん、藤沼さんが好きなの?」

「えー、だってカッコイイしぃ」


 カッコイイ? 誰が? 私にとっての奴は鬼門だ。同期とはいえ、私は短大卒向こうは大卒。2歳差で同期なのがプライドを刺激してしまったのか、藤沼はことあるごとに私に突っかかってくる。


 仕事をしてれば要領が悪い。休憩してればまともに仕事もできないくせに。お昼におしゃれなカフェに行けば似合わない。なにをしても否定される毎日に、入社してすぐ配属された部署にはなじめず移動願いを出した。


 移動した部署では友人もできて、ようやく仕事が楽しくなってきた3年目。奴はやってきた。

 ごり押しの移動だと聞いた。なぜ、とパニックになったのは記憶から消えない。「そこまでとはねぇ」と訳知り顔でつぶやいた友人は、理由を教えてはくれなかった。


 それから1年。金崎ちゃんのフォローをしつつ、奴からの嫌味その他をやり過ごすのは精神的に辛かった。味方がいなければ潰れていた。奴は仕事はとても優秀であられるので、上司は多少のことには目を瞑るのだ。


 平凡な私ごときの訴えなどなかったことにするくらいには。


「藤沼さんと話したいなら、私のそばにいるといいよ」

「えー、なんでですかぁ?」

「まぁ、ものはためしで」


 奴は必ず私に絡んできて、そして隣にいる女子を褒めるのだ。自他共に認める女子力の少ない私にわざわざ可愛いげがないと言いに来るのはなぜだろう。無駄な努力はしないタイプじゃなかったのか。


「はぁい! やってみますぅ!」

「はい。じゃ、仕事しようね」

「えー」


 えーじゃありません。



 お昼は同僚でもある友人におごってもらった。同情よりも現物支給。気持ちでお腹はふくれないのである。


 適度なやる気で進む仕事は、金崎ちゃんのもの以外はスムーズだ。ちょっとは仕事にやる気が欲しい。男漁る気力の10分の1でもいい。そしたら私は楽になる。切実に。


「羽鳥、俺終わったから手伝う。今日の急ぎよこして」


 ありがたい天の声がきこえた。年上だが同期の三春平(みはるたいら)がフォローにきてくれた。彼は、藤沼と違い優しい人だ。敬語なしでも怒らない、むしろそっちがいいと微笑む紳士だ。なんつぅジェントル。


「助かるー。これよろしくです」

「了解、他にも声かけたから」


 神だ! 神がいる!


「仕事もひとりでできないのかよ」


 そこに投下されるイヤミ。言わずと知れた藤沼である。ふん、と鼻息荒く去っていくなら来なきゃいいのに。私のデスク一番遠いよね? 


「気にするな。羽鳥のせいじゃないことはわかってるから」

「ん。ありがと」


 その元凶の金崎ちゃんは経理におつかいに行かせている。正直いない方がはかどる。いると男性社員の仕事の邪魔になるのはなぜだろう。


 金崎ちゃんや、君藤沼にだけまとわりついてくれないものかね?


「飲み会も隣にいなよ。フォローしてやるから」

「いいの? 感謝ー、今度おごる」

「あ、じゃデートでよろしく」


 ん? デート? デートってお礼にするもの? なるの?




 わいわいガヤガヤな居酒屋で飲み会はスタートした。三春、私、金崎ちゃんの並びだ。角をとりたかったのに一歩遅かった。ちなみに藤沼は反対側のど真ん中、主役席にて肉食系捕獲型獣女子に周りを固められている。そのまま喰われてしまえ。


 ほんと、意味ない飲み会だと思うのは私だけだろうか。この時間とお金を他のものに費やしたい。そしたらもう少し心に余裕ができるんじゃなかろうか。


「羽鳥さん飲んでますぅ?」

「飲んでますー」


 男がいると語尾が伸びたり跳ねたりする金崎ちゃんは、藤沼の側に近寄る隙もないので内心不機嫌そうだ。まぁ、もう少し待ってみ? あれ? そういや、なんで三春には言い寄らないんだろ。


「羽鳥、唐揚げ食べる?」

「食べる」


 三春が取り皿にいれてくれた唐揚げをもぐもぐしてると、じぃっと三春に見られていた。首をかしげると同じ向きにかしげられた。なにがしたいんだ?


「なに?」

「可愛いなあと思って」

「……は?」


「もう! ふたりの世界に入らないてくださいよぅ~~!」


 私達が見つめあってると勘違いした金崎ちゃんが叫んだ。うるさい。


「羽鳥なんかとふたりきりになりたいわけないだろ」


 不機嫌な声は金崎ちゃんの隣から聞こえた。座り込んだ藤沼が毒を吐く。


「まったく、こんな奴」

「藤沼さぁん、三春さんは羽鳥さんしか見えてないんですよぅ!」


 金崎ちゃん、それ逆効果だから。火に油だから。地雷だから!


「っは! こんな奴に」


 案の定、藤沼はバカにした笑いをこぼし、蔑んだ目で私を罵倒し始めた。聞くに耐えないので割愛しよう。ちなみに、上司には報告済みであり連絡済みであり相談済みである。社会のホウレンソウは大事だよね。


 なんとかしてくれるため頑張ってくれているらしい上司は、来月寿退社予定の女性に絡み酒アタックを受けている。入社以来の片想いはとうとう実らず、別の相手と決めた結婚を祝福されてぶちギレてしまったらしい。


 余談だが、その彼女の旦那様になるお相手は、今上司と一緒に彼女をなだめてる彼である。シュールだよねぇ。


「……い、ーーおい! 聞いているのか!」


 意識をおもいっきり明後日の斜め上にすっ飛ばしていた私は、怒鳴り声で我にかえった。あまりにうるさすぎた。


「おい! 聞いているのかと言ってる!」


 あまりにうるさすぎて、私の我慢も限界だったみたいだ。


「おい! ふざけーー」

「……それ、聞く意味あるの?」

「は?」

「その罵詈雑言は聞く意味あるの? そこまで(けな)して(おとし)めたいの? 私と藤沼さんは赤の他人なのに? いい加減にしないと訴えるよ?」

「な、」

「大体、大人の発言じゃないよね。低俗な内容はともかく、大勢の人の前での暴言は証人がたくさんいるし。パワハラでもモラハラでもどっちでもいいけど」


 どうする? と、藤沼に答えを求めた私は、後から聞いた話だけどとてもいい笑顔だったらしい。ただし目は笑うどころか冷たく凍っていたそうだ。


 ぽかん、と周りが静かになった。三角な修羅場だった上司達すら口を開けたままこっちを見ている。


「羽鳥、帰ろうか」

「うん」


 答えない藤沼。しんとした場。場所を選ぶべきだったとは思っても後悔はない。私は我慢した。えらいぞ私。そんな開き直りで真っ直ぐ藤沼を見ていた私を、三春が促した。いいタイミングだ。さすが三春。


 あいさつをして居酒屋を出た私は、なんだかすっきりしていた。こんなことならさっさと反論するべきだったとさえ思う。悔しさであんなに泣いたのはなんだったのか。ちくしょう、帰って飲み直そうか。


「飲み直そうか? 羽鳥」

「いいねぇ。あっちは気まずかろうけど」

「気にすることないだろ。誰も彼も自業自得だ」

「そっか」


 誘われるまま、三春の隣を歩き出した時だった。


「ま、待て!!」


 言わずと知れた奴である。ここは一言。


「うざっ」




メイン三人の名前はモデルがあります。わかった方がいたらネタばらしをしたいと思います。

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