名前
驚きは後からついてきた。ほんの少しだけだが、私の体が倒れかけ、落ちそうになったが、黒髪の少女は私を支えた。
「危ないわ。」
ーしゃべった!
私は少女に抱えられるような姿勢で少女の顔を見た。この時、私は木の下から山田の声を聞いた。何か、叫んでいる。多分、私のことであろう。しかし、なんせ、木は大きい上に高い。山田の声などはっきりと聞こえるわけがない。
私はようやく、少女に声をかける、心の落ち着きを持てた。
「あ、あの。」
もともと私はコミュニケーションの取れる方ではないので明らかに自分より年下の少女相手であろうと戸惑いは隠せなかった。それどころか、まともに喋れもしなかった。
「何よ?まぁ、驚くのも無理はないでしょうね。しかし、君、バランス能力って知っているかしら?まず、バランスから説明するわね。バランスというのはbalanceと書いて、つりあいや均衡を意味するの。それの能力のことを・・・」
「待って待って。何故、バランス能力の話を始めてるのでしょうか。人を見下すより先にするべきことがあるのではないでしょうか。」
思ったより喋れた。本来、回る頭を口に出さない私だが、さすがに年下には頭を使わなくてもできる会話ができそうだ。しかし、この少女、何やら語彙力が大人びいてる気がする。どういうことだろう。バランス能力の説明もサラッとしていたし。私の思考回路も正常に動き始めたようだし、なるべく噛まないように話せばパーフェクトである。
少女は私の目の前に立ち、まて、おかしいだろう。なぜ小枝の上に下駄で微動だにしないで立っている。座るならまだしも、立っているとは恐ろしくバランス能力の高い少女と見た。歳は10歳くらい?だろう。
「なんだろう・・・」
少女は腕を組んで、目を細めて太陽の方を向いていた。きちんと並んだ前髪を揺らし首をしたにする。
「分からないわ。君、教えてくれてもいいわよ。」
「なんで上から目線!?」
「仕方ないじゃないの。お母さんから教わらなかったもの。礼儀なんて。」
「普通はお母さんから教わらなくても、学校で自然と学ぶものなのだが。」
「学校には行かないわ。で、君。教えなさい。」
私は、深くため息をついた。学校には行かない。どういう意味なのかはよく分からないがあえてスルーしておこう。とりあえず、私が知りたいことを質問するのみだ。
「まず、名前だ。その次に君が何者であるかを僕に分かりやすく説明してくれ。」
「なるほど、そういうことかしら。私の名前はないわね。お母さんがいらないって言うから。」
「待て待て、どんな親に育てられたかは知らないが名前が無いのは困る。」
少女は、またもや腕を組み上を見上げた。ひとりで何やらブツブツと話、小枝に腰を下ろした。
「そうね。名前を、つけてくれるかしら。私、名前がないのよ。そうそう、その前に私が何であるかを説明しなくてはならないのね。ふむふむ。分かりましたわ。私、人形ですの。」
少女が何を言ったかは、よく理解出来なかった。人形と言ったのか。まったく、発想が豊かな歳の子の扱いは面倒くさい。
それに、名前をつけろと言われても、私がつけるべきものではないと思うし、本当は名前があるのではないかと思う。ごっこはごめんだ。
けど、よくよく考えてみると、この子は人差し指一つで私をここの場所まで持ち上げた。いや、操った。糸で引っぱるように、私に触れずに、ここまで。また、よく分からなくなってきた。状況の説明のしようがない。しかし、山田の叫び声も、段々と鬱陶しくなってきた。
「名前か。」
「そうですの。名前よ。私を縛るための名前。」
「縛るため。」
「私は人形として、君に絶対服従という契を交わすわ。だから、そのために名前が必要なのよ。私は君に仕えたい。」
「まて、やっぱり意味が分からない。」
「いいから名前をつけるのよ!」
少女は僕の太ももに手を乗せ、顔を近づけてきた。うすい青いろの瞳が真っ直ぐと私を見つめる。困った。少女ではなく、美少女と呼ばなくてはならなくなってしまった。
「青い瞳、か。じゃあ、葵で。」
「面倒くさかったのね。そのままじゃないの。まぁ、いいわ。」
美少女、葵はまた、私の目の前に立ち、膝を曲げ、俗に言う、セバスチャンのようなポーズをとった。多分、全然、俗じゃないし、セバスチャンとは言わないけど。




