クラッカー作戦
アバドンに対抗する策は、光太郎がアトランティスに訪れた時に考えられた。
輝夜が、「光様なら、どの国を攻めます?」と問うた際、光太郎は国を選ばず、地図上で海を指した。
「僕なら海ですね、海溝に基地を作ります……いや、降下要塞を落とした方が手っ取り早いな」
「なっ!」
輝夜は驚き顔色を変える。その戦略の恐ろしさを、瞬時に理解したからだ。
「仮に地上に基地を建設しようものなら、良い的です。アヴァロン星の地下トンネル網を使って奇襲をかけてもいいし、ヴィヴィアン衛星からの砲撃で破壊できるでしょう。なので、地上基地建設はまずないでしょう」
「はい」
「そこで深海に拠点を作り、潜水艦隊を展開させてゲリラ攻撃を仕掛けます。浮上して、各地で弾道ミサイルでも撃たれたら、防ぎようがありません。同時に無人機による急襲もかけられると、損害がかなりでるでしょう。同時多発的に攻撃されたら、手の施しようがありません」
「それをされたら堪りませんね。広い海で敵を探すのは困難です。潜水艦や対潜哨戒機を大量に投入しても、隠れる場所はいくらでもありますから」
「ええ、この戦略の恐ろしさは敵の位置が捕捉しづらく、何時でも、何処からでも攻撃されることにあります。一撃離脱を繰り返されたら、かなり厄介ですね」
「……本当に、恐ろしい戦略ですね」
輝夜は戦慄した。
戦略構想にではなく、それを思いついた光太郎に恐れを抱く。
「僕だったら、王都を攻めるふりをしながら隙をうかがい、軍勢が集まったところで降下要塞を、海に落とします。最初は陽動に動くと思います。なので、アヴァロンに落とされる前に、宇宙で迎撃しましょう」
「ええ、早急に対策を錬ります。降下要塞に対しての迎撃手段と、海に落ちてしまった場合の対応も考えないと。海はパシフィス軍の担当なので、ルカに任せましょう」
「はい」
この時、輝夜の光太郎を見る目が変わった。
利用しようとしていた当初の思いは薄れ、何事においても光太郎に「頼る」ようになる。
「私が人にすがるようになるなんて、思いも寄りませんでしたわ……」
輝夜は悲壮な決意を胸に秘めていたが、それが揺らぎ始めていた。
◇
輝夜と有香は自国を離れ、戦が始まる前に小型シャトルで、宇宙に上がっていた。
ヴィヴィアン衛星内で戦況を見守りながら、出番を待っていたのだ。
今は光星甲冑を身に纏い、小惑星の上に立っている。
側には自機のメタル・ディヴァインの、スカーレットとハイペリオンがいた。
小惑星の大きさはアバドンとほぼ同じ。全長一キロメートルで、大型ロケットブースターが取り付けられている。
もちろん、アバドンにぶつけるためだ。
ただし、そのままぶつけるのでは成功確率は低く、失敗する可能性が高い。
そこで、女王の力を加味する作戦を、光太郎は考えつく。
「当初の予想とは違いましたが、結果的には光様が予見した通りになりました」
「ええ、マゲイアの思い通りにはさせません。『クラッカー作戦』開始ね!」
「それにしても光様がいなかったら、前大戦より苦戦していたでしょうね。今回はわずか一日たらずで、マゲイア軍を全滅までに追い込んでいます。これは凄いことです」
「光太郎さんが味方であれば、誰よりも心強い。たとえ幾万の敵が相手でも、負ける気はしません。救世主と騒がれてますが、本当かもしれませんね。そうなると、光太郎さんの奪い合いが……」
「それは仕方ないですわ。でも、今は作戦に集中しましょう」
「ええ」
有香の懸念は、輝夜も感じていた。
(この戦争が終わったらマゲイアはどう出るかしら? また十年以上の時を置かれたら、私の戦略は一からやり直し……平和になれば、光様の取り合いになるのは確実……)
「お嬢様、お時間です!」
早紀が作戦開始を告げる。
「有香、お願い!」
「やるわ! 神樹妖精の硝子細工!」
有香は跪き、両手で小惑星に触れると、形がみるみるうちに変わっていく。
小惑星は円錐の形に変わり、尖端は硬い鉱物が集められ色が変わる。
全体の密度も高くなり、小惑星は頑強な槍頭と化す。まさに玩具のクラッカーに見える。
それと形状には、もう一つ工夫がされていた。
「破壊」の意味をこめた作戦だ。ロケットブースターが火を噴いて加速を始める。
有香の役目はここまで、ハイペリオンが近づく。
「お嬢様、お乗りを!」
「はい。あとは輝夜、任せました!」
「ええ!」
巨大槍となった小惑星に、輝夜とスカーレットは乗ったままで、自分の役割を果たす。
「風女神の息吹!」
輝夜は両足で王の力を使う。対象物に接触してれば、鎧を通しても力は発動する。
巨大槍は更に加速し、アバドンめがけて一直線!
アバドンも気づき加速して、何とか逃げようとする。
そうはさせじと、スカーレットがロケットを遠隔操作し、軌道修正していた。
「これでクラッカー作戦も第二段階、ここまでは順調ね」
「はい、おひいさま。有香様が上手く作られましたので、槍のバランスが良くて制御が楽です」
「やはり女王達の中で、一番強いのは有香ですね」
「なぜですか、おひいさま?」
「王の力をタダ使うだけでしたら、負けません。けれども、私の強さは元々作られたものですから、これ以上伸びしろがありません。その点、有香の力は応用が利きます」
「それは材料さえあれば武器や防具を、いくらでも作り出せるからですか?」
「その通り、敵が武器を使い切っても、有香の手には常にあるということです。それと本来の力の使い方をすれば、有香は無敵です。もっとも、多少条件はありますが」
「なるほど」
「心根も一番恐いですからね。おほほほほほ!」
ヤンデレ気質に、輝夜は気づいていた。
キレたら何をしでかすか分からない。
光太郎がらみであれば、有香はどんなことでもするだろう。
「そろそろ、最終段階ですね」
「はい、離脱の御準備を」
おしゃべりをしてる間に、アバドンは目の前に迫っており、もうすぐぶつかる。
外さない距離まで近づくと、輝夜が動く。
「風女神の息吹! 付加、無限小回転!」
輝夜は巨大槍を蹴り、回転力を加える。有香が小惑星を円錐にした時、螺旋が彫られていた。
巨大槍は螺旋ドリルと化す!
「おほほほ! 加速できるベクトルは一方向だけじゃなくてよ。『ドリルはロマン』でしたわね、光様」
輝夜は天使の羽で、スカーレットに飛び乗った。
クラッカー作戦は、輝夜と有香のコラボレーションだ。
小惑星を変形させ、加速をつけてぶつける。王の力の合体技だ。
螺旋ドリルに多数のプリズムが群がり、突進を止めようとするが全て弾かれる。
象に挑んだ小動物のようで、無謀で無意味だった。
それと、輝夜の力で加速されたドリルの質量は増大中。
わずか数グラムのネジでも、秒速十キロでぶつかれば爆弾だ。だからこそ宇宙ゴミは恐ろしい。
では、秒速百キロで小惑星がぶつかったらどうなるか?
その威力は想像を絶し、惑星すら破壊できるだろう。アバドンはその破壊力を、もろに喰らう。
命中!
螺旋ドリルがアバドンにぶち当たり、互いに激しく壊れていく。
斥力場シールドは薄紙にしかならず、軽く破られた。
あちこちに亀裂が走って割れていき、全体に広がる。
火柱を上げながら、アバドンは粉々になっていき、螺旋ドリルも砕け散る。
アバドンは破壊され、マゲイアの基地降下作戦は失敗に終わった……はずだった。
「あらっ?」
「嘘!」
輝夜と有香は、驚嘆の声を上げていた。




