強化パーツ
「ブケファロス、推進剤の補給だ! それと強化パーツ!」
「了解であります!」
エリスが指示し、二機は併走を始める。
ブケファロスの臀部脇から伸縮式の円筒がのびて、エクリプスの補給口へと刺さる。
円筒を通して推進剤が高速で送り込まれた。空中補給ならぬ、併せ馬による補給だ。
戦場で動きを止めるような真似はしない。すればタダの的だ。
この間に、ハサンは無人機を集結させる。エリスは敵中に入りすぎていた。
「飛んで火に入る夏の虫だ。女王の首をとれ!」
エリスの周りをスコーピオンが取り囲み、一斉に襲ってくる!
補給が完了するとブケファロスは、エクリプスの前を走り出す。
そして積んである二つのパーツを、後ろに射出する。
空中に飛んだパーツは、引力で引き寄せられ、エクリプスの両脇腹に装着された。
それは太いパイプのようで、色は白い。エクリプスの足が増えて六本足になった。
「モード――スレイプニル!」
エリスが叫ぶなり、一瞬でエクリプスが消える。
丁度、数機のスコーピオンが攻めかかったところで、同時攻撃は空を切る。
「どこだ!?」
エクリプスは空中に飛び上がっていた。スラスターによる上昇ではない。
バッタのように飛び跳ねて移動し、動きが全く読めない。
トリッキーな動きをしながら、エリスは敵機を倒していく。
「ちっ! 左右からはさみこめ!」
敵が迫ると、装着されたパーツが水平になり、パイプが伸びる!
二機のスコーピオンは、弾き飛ばされた。
そしてエクリプスは軽くジャンプして、伸びたパイプを下に向け、地面に押し当てる。
すると伸びた部分が格納され、ガチッという音がした。
敵が近づくと、またもやパイプが伸びてエクリプスが跳躍する。
スコーピオンは動きについていけず、攻撃はかすりもしない。
「何だ、あの動きは!」
ハサンは相も変わらず、わめくのみ。エリスは次々と敵機を倒していった。
パイプの中には「圧縮コイルばね」が内蔵されており、これを地面か壁にぶち当て、その反動でエクリプスは動きまわっていた。
落下による加速力と、自重を使ってバネを縮めれば、連続使用できる。
推進剤を使う必要もない。
パイプの向きや角度を変えることにより、変幻自在な攻めと移動が可能。
ただ、バネがへたるので使い捨てだ。
エリスは残骸の山を築いたあとで、パイプをパージする。もう、敵はいなかった。
「くそー! こうなったら、地上部隊を追加投入しろ! ベスパも空中から援護しろ!」
「司令官代理! 無茶です!」
「黙れ! 某に逆らうな!」
ハサンはやけくそだ。
博打の負けが込んで、更に金をつぎ込むギャンブラーと同じ。
命令違反をして、何も戦果を上げなかったのでは処罰はまぬがれない。
(このままでは、某は殺されてしまう!)
貴族でない以上、処刑もあり得る。ハサンは引くに引けず、身の破産に近づく。
「それと、ムーにいる無人機をレムリアに移動させろ! 五十万だ!」
「それでは戦線を維持できません! すみやかに撤退すべきです!」
「うるさい! 黙れ!」
ハサンは幕僚の意見に耳を貸さない。
軍の半分も移動させれば、包囲は薄くなり攻め込まれる危険性が増す。
しかし、ムー王国軍はこれを見過ごし、防備を固めたまま動こうとはしなかった。
一応、ハサンとしては敵を誘い出す狙いがあったが、釣れなかったのでレムリアへと急がせた。
「ふん、穴倉に引っ込んだ臆病者どもめ。そのまま引きこもってろ!」
ハサンは敵を侮り毒づく。そのまま、ムー王国の方は気にもしなくなった。
ムー王国軍が追撃しなかったのは、作戦が進行中でそれに従ったからだ。勝手な真似は出来ない。
反転攻勢に出るまでは、もう少しかかる。それまでは、会話でもしながら待つ。
「あらあら、これは光太郎さんの作戦が上手くいきそうね。これは勝ったわね」
「うぐぐぐ! ……仕方が無い、あの野郎の武功だけは認めてやる。だが、有香は絶対にやらん! 渡さんぞー!」
「まあ、お父さんが頑張っても、頑張っても無駄ですけどね。有香は絶対、嫁ぐでしょう。私としては、孫の顔が早くみたいわ」
伊知香は勝利を確信していた。
マゲイアの第二波、ベスパ部隊が上空から地上に押し寄せる。
目的がすり変わり、エリスを標的とした攻撃だ。もっとも、エリスには星騎士達が守りについており、近づくことすら出来ない。そして――
「疾風加速!」
「あいよ」
アンジェラ率いる飛行遊撃部隊が、ベスパに攻めかかる。
後背からの奇襲が成功し、ベスパは為す術もなく撃墜されていった。
「ふっ、姉上に獲物はゆずりたくないな」
「おい、エリス」
「ブケファロス、例のパーツだ」
「了解であります。お受け取りを」
「やれやれ」
エリスは好戦的であり、まだまだ戦い足りない。
エクリプスは仕方無く、新たなパーツを装着した。
アンジェラは地上部隊と連携し、戦闘を有利に進めていた。
その一方で、敵に拍子抜けしている。
「……何か、歯ごたえがないですわねー」
「せやなー、弱すぎや」
エルコンドルも同意した。
修練を重ね、新米騎士達をしごき上げた自負はある。皆、戦士としてマシにはなった。
にしても、誰一人としてピンチにならないのは、不思議といえる。
「まあ、エリスも良くやってますしね」
笑う視線の先には、二つの輝く彗星が空を飛んでいた。
それは後ろ足に、強化パーツをつけたエクリプス。
「モード――双子星!」
今度はロケットブースターを装着し、空を駆け巡る。
もはや飛行特化型が相手でも、ひけは取らない。
エクリプスは強化パーツによって、万能型へと進化していた。
「ギャロップ・バースト!」
超高速突撃に反撃する間もなく、ベスパは一掃される。
「強化パーツも上手くいったな、光太郎」
「うん、でも僕一人だけの力じゃないよ。協力してくれたみんなのお陰だ。もちろん小玉もね、『引力式着脱装置』はマジ助かった。お陰で、強化パーツとの合体はスムーズだ。作ってくれてありがとう」
「お、おだてても何もでないぞ!」
顔を真っ赤にして、小玉は顔を背けた。
光太郎に裏はなく素直に感謝してるからこそ、女心に響く。
嬉しい、という気持ちが隠せなくなる。
「今のところ作戦は順調、負傷者はなし――あっ!」
「どうした!」
小玉も気づき、モニタースクリーンの一部を拡大させた。
「陣形が乱れた! 誰か飛び出してる!」
「まずいな……」
一人の星騎士が陣から出て、その後を小隊が追いかけてしまう事態が発生した。




