空中機雷
由々しき事態に、ハサンは焦り始めていた。ある程度覚悟していた損害は、予定を超えており、責任がのしかかる。
最初の作戦が失敗したので、早急に別の策を講じる必要があった。
かと言って自分では何も思いつかず、レムリアを罵りながら幕僚にあたる。
「陣なぞに引きこもりおって、でてきて正々堂々戦わんか! おい! 何か策はないのか?」
参謀は感情をこめずに答えた。
「恐れながら、撤退を進言いたします。シールドが張られたあの陣を、破れそうにもありません。退くのが賢明と、具申いたします」
「其に尻尾を巻いて、逃げ帰れと言うのか!? ふざけるな貴様!」
ハサンは怒り、参謀の胸ぐらをつかんで詰め寄る。
背が低く手が辛うじて届く程度なので、恐くもなんともない。
参謀は冷静に指摘する。
「これ以上の無人機を失えば、司令官代理はタダではすみませんぞ。今ならまだ弁明すれば、許されると思います」
「ちっ!」
参謀の意見は一理あったが、鵜呑みにはしたくなかった。
単にハサンは面子にこだわっていて、負けたとは認めたくないのだ。
撤退するにしても、戦果の一つもあげねばと意地になる。
敵陣を忌々しく見ながら、陣の急所を見つけた。
「――ん? まてよ、上空から攻めればいいのではないか? 奴らの陣の真上は、ガラ空きじゃないか!」
円筒陣を上から下まで見回して、改めてハサンは気づいた。
確かにちくわの形状なので、真上と真下には穴が開いている。
ハリセンボンの陣上空には、無人機も星騎士も配備されてはいない。
その代わりにあるのは……
「いけません司令官代理! 上空には空中機雷が、大量に敷設されております。近寄ったら最後、破壊されてしまいます! 多大な被害が予想されますので、どうか御一考ください!」
「ええい、構うものか! 逆にこちらから、無人機を突っ込ませて自爆させてしまえ! そうすれば、周りの機雷を巻き込んで吹き飛ばせる。損害が出ても、あの空域を通り抜けてしまえば、敵陣内部までまっしぐらだ。そうなれば、我らの勝利だ!」
「しかし! それでは被害が……」
「えーい黙れ! 他に策があるなら言って見ろ! 貴様らは某の言うことを、黙って聞いておればよいのだ!」
参謀の助言は聞き入れられず、またもや愚劣な作戦が決行される。
自爆するのが奴隷兵ではなく、無人機であることが唯一の救いだ。
もはや指揮は泥縄で、良い結果が出るわけもなかった。
ベスパが機雷に向かってぶつかり、爆音を立てて空に散る。
次々と空中機雷が爆発しては、消えてゆく。
盛大な自爆花火はやかましく、轟音が鳴り止まない。
星騎士達は耳栓をして、上を見上げていた。
それをモニターで見ていた、光太郎は怒る。
無意味に機械が壊れていくのは、メカオタクとしては腹立たしい。
「機械がもったいねー! 二回も罠穴に入りこむし、今度は自爆攻撃かよ。やること、おかしいだろ!」
「いや、マゲイアは元々おかしい。私から見れば至極当然で、真っ当なマゲイアなぞいるものか!」
「左様ですか……」
小玉にそう言い切られては返す言葉もない。まさに身も蓋もなかった。
とはいえ、光太郎も言い足りず、感情に収まりが付かない。
「とにかく無茶というか、無謀というか、やけくそというか……僕だったら、絶対にしない戦法だ」
「単にバカなだけだろう。最初からゴリ押しするだけで、考え無しだ。であれば、レムリア軍にとっては有り難い。AIにも劣る奴なら楽勝だ」
「うん。敵を侮るつもりはなかったけど、僕より軍事のド素人だ。計算より感情で指揮してるようにしか見えない。敵の指揮官は愚将か……」
「間違いないな。またもや、罠にはまってくれたぞ、これは感謝すべきか? くくくくく!」
「上空からの突破は出来ないように、仕掛けがあるんだけどねー……まあ、気づかないとは思うけど……それにしても、アホ過ぎる」
無人機の自爆攻撃は、あまり効果がなかった。
もともと誘爆を防ぐために機雷間の距離は離れており、さほど爆風は広がらなかった。
他の機雷を巻き込むには至らない。それでも自爆作戦は継続され、多大な被害を出す。
「こうなったら、機雷の数だけ自爆しろ! 全部なくしてしまえ!」
「無茶です、司令官代理! 損害が馬鹿になりません!」
幕僚は必死で止めるが、ハサンは言っても聞かない。
自分のミスを認めたくなくて、引っ込みがつかないのだ。プライドが許さない。
「多少の損害は無視だ! 何としてでも、突破さえすればいいのだ!」
結局、大多数の無人機を無駄に失うことになり、多少どころではなかった。
それでも空中機雷を減らすことには成功し、縦長のトンネルが出来る。
レムリア陣内への通り道だ。
あとは突撃するのみ。マゲイア無人機は上空に集結し、突撃部隊を編成する。
部隊は上空から急降下を開始し、機雷のあった空域を通り抜けて、レムリア陣内まであと少し。
「よし行けえー! 今度こそ根絶やしにしてくれる! 惨殺せよ!――なに!」
ハサンが勝利を確信した瞬間、マゲイア無人機が爆発した。
後続部隊も次々と爆散し、空の藻屑となる。
何の兆候もなしに、勝手に自爆してるようにしか見えず、原因不明。
攻撃を受けているのは確かでも、その攻撃手段が全く分からない。
またもや、ハサンは困惑するのみ。
「何が、一体どうなってる!?」
その質問に答えられる者は、ハサンの近くにはいなかった。
答えを知っている、光太郎は遠くにいた。
「敷設機雷を抜けてきたとこ悪いけど、まだ誘導機雷があるんだなー、これが。まあ、肉眼じゃー見えないけどね。残念でした」
「光学迷彩で姿を消し、AIによる自動追尾機能で敵にぶつかる。名付けて『サフィリナ機雷』か。光太郎は恐ろしいな」
「いやいや、作ったのは小玉だろ? 僕はアイデアを出しただけだ。機雷の推進力に圧縮ヘリウムガスを、採用したのは小玉だ。スラスターとは違って火がでないから、熱源計測装置でも、発見されにくくなったから凄いよ」
「いや、兵器が優れていても、運用方法が悪ければ使えない。私が褒めてるのはその点だ。光太郎お得意の二段構え作戦があってこそ、機雷は効果を上げたのだ。最初からサフィリナ機雷を使っていたら、レーダーには捕捉されて破壊されただろう。又はカラーボール爆弾で染められたら丸見えだ」
「ありがとう。富士吉博士も言ってたけど、完璧な兵器なんて存在しないからね。欠点や弱点を補う工夫をしないと無駄になる」
マゲイア軍は見えない機雷で攻撃されていたのだ。透明人間を相手にして勝ち目はない。
ステルス機能はなくとも、すでに有効射程に入ったマゲイア無人機に、逃れる術はなかった。
逃げ惑う無人機はただやられていくだけで、昼の花火となって派手に爆発する。
「…………」
見ているハサンと幕僚らは、何も出来ず声を失っていた。
光太郎はこの戦果にはしゃぎもせず、顔色を変えずにモニターを見ていた。
戦局に一喜一憂するハサンとは大違い。大局観に差がありすぎる。
ハサンが近視眼的な攻撃にこだわっているのに対し、光太郎は戦争の行く末を案じていた。
いくらマゲイアに兵力があっても、無能な指揮官の下では、武力を生かすことはできないのだ。
小玉は、光太郎の顔をみつめながら思う。
(少しくらい喜んでもいいと思うが、これだけの戦果を上げても威張りもしない。まあだからこそ、こいつを好きになった。しかし、寄ってくる女が多すぎて困りものだが……)
「それにしても、退却命令が遅すぎる。見てる限り、引き際も悪い。命令伝達が上手くいってないのかな?」
光太郎はマゲイアの動向を冷静に観察し、指摘する。自分だったらどうするか、逆の立場で考えていた。
一寸先は闇、今は優勢でも形勢が逆転する可能性もある。光太郎は最後まで気を抜かない。
「思いつきの作戦にこだわって、未練がましいだけだろう」
「そっか、指揮官が意固地になってるんだな」
小玉も光太郎に合わせて、表向きは平静さを装う。感情を露わにして、嫌われたくはなかった。
(ざまーみやがれ、糞ゴミどもめ! 貴様ら一人残らず、地獄界に送ってやる!)
もっとも心の中では激しい怒りを、マゲイアにぶつけていた。
ルカにも負けないくらい、小玉もマゲイアを恨む理由があった。




