戦闘そして任命
「…………」
光太郎は、へたり込んだまま動かない。
突然の出来事に頭が追いつかず、ただ茫然とエリスを見ていた。
「そこの者、ここはどこだ?」
エリスが光太郎に問いかけるが、反応はしない。
再度、問おうとする前にエクリプスが警告を発した。
「まてエリス! やつらも追ってきている!」
白い球体から、ケンタウル達も続々と姿を現す。
どこであろうと、どんな状況であろうが、王女捕殺の命令は変わらない。
AIには感情も善悪もなく、指示通りに動くのみ。
ケンタウルはエリスを視認すると、槍を向けて突進してきた。
光太郎のマウンテンバイクが馬蹄に踏み潰され、一瞬でスクラップになる。
攻撃の間合いに入ると、三本の槍が突き出された。
エクリプスはエリスをかばい、槍で刺される。胴体に三つの穴があいた。
「逃げろエリス!」
エリスはうなずき、鞍を踏み台にして飛んだ。着地して間髪入れずに走り出す。
ほんの数秒で、百メートル以上その場から移動していた。
エリスは人間離れした跳躍力と足の速さで、あっという間に林の中へと逃げ込む。
エクリプスの方は、音をたてて倒れた。
ケンタウルはエクリプスには目もくれず、エリスの後を追う。
「動力信号オンライン……命令伝達信号オフライン……自律制御不能、直接操縦可能」
倒れたエクリプスは自己分析を開始、修復を試みる。
自力では不可能と分かり、助けを求める。
「人による修理が必要か……そこの少年、助けてほしい」
エクリプスは、光太郎に声をかけた。
「…………」
光太郎はパニックにおちいったまま、虚脱状態が続いていた。視点が定まっていない。
エクリプスは懇願する。
「このままではエリスは殺されてしまう。どうか娘を救ってくれ! 頼む!」
光太郎の目に生気が戻る。「頼む」と言われれば、心がうずく。
お人好しの性分が目覚め、頭が回り体が動き始めた。
「――わかった。でも、どうすればいいんだ?」
「我の腹の中に修理道具がある。中から取りだしてくれ」
光太郎はエクリプスに近づき、ハッチを開ける。
小荷物を引っ張り出すと、そこは操縦室になっていた。
「操縦桿にペダル……君に乗って動かせばいいの?」
「ああ、その前に応急修理が必要だ」
修理道具を袋から出して見たものの、光太郎の知らない道具だらけ。
また、修理の仕方も知らなかった。
「うーん、どうすれば……まてよ!」
光太郎はスマートグラスを取り出し、かけて起動する。
文吾が修理方法を、データ入力してる気がしたのだ。
「やっぱり! これなら何とかやれそうだ」
スマートグラスに道具の使い方から修理方法まで、詳細に表示される。
光太郎はエクリプスの修理を始める。
最初の内はおっかなびっくり、ゆっくりしていたが、すぐに慣れて手さばきが早くなった。
応急修理を、わずかな時間で完了させる。エクリプスは言った。
「では、我に乗ってくれ!」
ケンタウル達はエリスを見失い、林の中をウロウロしていた。
エリスは地上にはおらず、木に登って隠れている。
いずれは感づかれる。上から様子をうかがい、攻撃の機会を狙っていた。
背負っていた剣を抜き、汗ばんだ手で握り続ける。
やがてケンタウル達は、闇雲に動き回るのを止めた。
頭を上げて木の上を見回すと、パチッという音と共に頭部が外れる。
三つの頭は宙に浮かび、上昇してエリスを探し始めた。
「隠れてるのもここまでね、でも死ぬもんですか!」
エリスは幹を蹴りながら自ら飛び降り、ケンタウルに剣を突き立てようとする。
剣が当たる寸前、ケンタウルはしゃがみこみ、エリスの攻撃をよける。
そして別の一体が、後ろ足でエリスを蹴飛ばす。
頭部はモニターカメラでエリスを捉えており、遠隔操作で本体を動かしたのだ。
「あうっ!」
飛ばされたエリスは受け身を取って、すぐに立ち上がった。
その間にケンタウルの頭は、胴体に戻る。
「や――!」
ひるまずにエリスは斬りかかるも、今度は横から体当たりされ倒される。
三機の連携につけいる隙がなかった。
地面に倒れたエリスに槍が向けられ、突き出されようとしていた。
「くっ!」
もはやこれまで、エリスは母親の顔を思い出す。
(母様!)
「うおおお――――!」
そこにエクリプスが、駆け付けてくる。
光太郎は雄叫びを上げながら、ケンタウル達の中に突っ込んだ。
ケンタウル達が気を取られてる隙に、エリスは立ち上がって飛び上がる。
「乗れ!」
エリスは鞍に着地して、跨がった。
「中に乗っているのは誰?」
「話は後だ。今はあいつらを倒す」
「わかったわ、ナイトランス!」
エリスはエクリプス内部から、槍頭と柄を取り出して組み合わせた。
鍛造されたオリハルコンの槍、円錐状の先端は反射光を放ち、鋭く尖っていた。
ナイトランスは、ダイヤモンドよりも硬く強い。
武器は良いとして、三対一の不利な状況には変わりない。
光太郎はどう立ち向かうのか?
「えっ!」
驚いたのはエリス、エクリプスが後ろ走りを始めたからだ。
馬首をケンタウルに向けたまま、後ろに進んでいく。
木々の間を縫うよう動いて、ケンタウル達を分断した。
光太郎はまず一対一にもちこみ、わざと動きを止めて、ケンタウルの攻撃を誘った。
攻撃を一歩下がってかわす。絶妙な間合いだった。
「今だ、突けー!」
「やー!」
光太郎の合図で、エリスは騎士槍で攻撃する。
エクリプスの踏み込みもよく、ケンタウルに穴が空いた。
追い打ちはせずに、すぐに走り出す。
ヒットアンドウェイ――一撃離脱戦法を光太郎は繰り返した。
時には相撃ちを誘い、上手く動く。
ケンタウル達は為す術もなく、ボロボロになっていった。
「条件反射で攻撃してくるだけなら楽勝。ようはワンパターンなんだよな――おっ! 動きが変わった」
ケンタウルのAIは想定外の動きに翻弄され、対処できずにいた。
ここにきて行動パターンを変えたが、やけくそにしか見えない。
手当たり次第に、邪魔な木々を倒し始めたのだ。
「でも、それだと隙だらけ、森林荒らしは止めましょう」
エクリプスは回りこみ、エリスは横撃を繰り出す。
三機のケンタウルは火花を散らし、動きは鈍くなっていった。
「そろそろ、終わりだな」
光太郎は林を抜けて広場へ向かう。
(少しレクチャーしただけで、ここまで我を乗りこなすとは……この少年は一体、何者?)
エクリプスは不思議がっていた。
広場に着くと、距離を取って待ち構える。
「ここらでいいだろう。やれるな?」
「問題なし」
「決めるわ!」
ケンタウルが一直線に並んで走ってくる。光太郎は叫ぶ!
「ギャロップ・ブースト!」
エクリプスの臀部脇にあるスラスターが作動し、急加速する。
一瞬でケンタウルは目の前。
「ぶち抜けえ――――!」
裂帛の気合いとともに、エリスは槍を繰り出す。
破壊音が三連続で木霊し、ケンタウル達に大穴を開ける。
エクリプスが駆け抜けると、頭部センサーは光を失い、ケンタウル達は倒れた。
最高出力加速により、エクリプスは超高速で動ける。
ただし、機体負荷が大きいので稼働時間は短い。
「動力停止を確認、もう大丈夫だ」
エクリプスが戦闘の終わりを告げた。
エリスは鞍から降りて、光太郎も中から出てくる。
二人は改めて、顔を合わせた。
「やっぱり操縦室は少し狭いや、僕が小さくてよかった」
「そなた名前は?」
「神山光太郎だけど……」
「そうか、では光太郎、そこへ直れ」
「ええー!」
エリスは剣を抜き、地面を指した。
「ちょっと待って!」
「待たない、いいから跪け!」
光太郎は脅されるような形で、嫌々言う通りにする。
エリスは剣を正面に構え、ゆっくりと振り下ろした。
(もしかして騎士叙任ってやつ?)
エリスは光太郎の肩に刃をおいて宣言した。
「これより、エリス・P・レムリアの名において神山光太郎を……」
続く言葉に光太郎は耳を疑った。
「馬に任ずる」
「うま――――!」




