女王対決 序盤
ドーム内で空中戦が始まる。
ルカの武器は三叉戟、輝夜は騎士槍を持っていた。
本来であれば手裏剣や苦無で輝夜は戦うが、王の力が使えないルールでは、飛び道具は牽制にしかならない。
いいとこ、風船を割るくらいだろう。
それで輝夜が不利かと問われれば、むしろ逆だ。ルカを突いて押しまくっている。
あらゆる武器に精通しており、無手でも強い。これはイザベルに匹敵する。
戦法を見れば隙がない。
突いてくるように見せかけては、機体ごと下がって間合いをとり、カウンターを狙う。
フェイントを多用しながら、無理には攻め込まない。
両利きなのか、武器の持ち替えを頻繁にして、左右から攻撃を繰り出す。
変幻自在の変則攻撃だ。それでいて狙いは正確、突きは鋭い。
並の星騎士では、一分も持たないだろう。
その攻めをしのぐルカも、ある意味大したものだった。
こちらは野生の勘で戦っている。
危うくなると穂先や細い柄の部分で、受けるのだから曲芸だ。
槍さばきも負けてはいない。素早く振り回して、輝夜を攻撃していた。
防御一辺倒では勝負にはならず、反撃してこそ対抗できる。
何度かの応酬を繰り返して、二人は間合いを取った。
「ルカ、今まで何回やりあったでしょうね? 私達」
「いちいち、数えてないわよ」
「そうよねー。まあ、勝率は私が八割よ」
「七割だ――――!」
割合を下げて言い、ルカは突っ込む。
幼い頃から二人は何度も勝負をしており、大抵はルカの負けだ。
「今日は調子が悪かっただけよ、次は勝つわ!」
同じ捨て台詞を言っては負け続ける。反省と進歩がなかった。
しかし今日のルカは、ひと味違っていた。
今までのような一本調子はやめて、攻めのバリエーションが増えていた。
「卑怯よ」と嫌っていたフェイントも使い出す。攻めのスピード・威力ともにあがっていた。
輝夜は幼なじみの変化を肌で感じる。
「ルカ、ずいぶん強くなりましたね。慢心なく修練を積んだ成果が現れてますよ。何か心境の変化がありましたか? 私が何度忠告しても聞かなかったのに……ああ、光様の影響ね」
「そうなのよ輝夜姫、ルカったら真面目に特訓するようになったのよ。光さんに負けてからは、それはもう必死でね。男は女を変えるって本当ねー」
「おほほほほほ! そうでしたか、オルフェウス。何ていじらしい」
オルフェウスが口を挟み、当人を乗せたまま冷やかす。
まるで、おばさん達の井戸端会議だ。
「う、うっさいわね! 光太郎は関係ないわよ、いいから勝負しなさい! オルフェも黙ってなさい!」
「そういうことにしておきますか」
実際ルカは、光太郎に再挑戦したいと思っていた。
勝つのが目的ではない。ただ、光太郎に自分を認めてもらいたいのだ。
「女王として、星騎士として、何より女として、あたしを意識させてやる!」
ここまで変わるとは、ルカ自身思っても見なかっただろう。
ルカが光太郎を初めて見たのは、テレビだった。
その時は、さほど興味は湧かなかった。自分に自信があり、周りの者を見下していたせいだ。
「何、この珍獣? 貧相な体つきね、異星人の男?」
「そうですよ、姫様」
「隕石の迎撃に一役買ったようです」
「ふーん」
パウラとカイラに説明されても、「大した男じゃない」と決めつける。
ところが毎日のように放送されて、光太郎を見る機会が増えると考え方も変わっていく。
時を同じくして、陸奥市からアヴァロンに入ってきた、少女漫画にルカは毒されてしまう。
異国からのカステラや金平糖を喜んだ、戦国武将のようなものだ。
特に恋愛物にハマり、いつしか自分と重ねるようになる。
ヒロインは自分、そして恋人役は異国からやってきた光太郎。
寝ても覚めても、光太郎の顔が浮かぶようになってしまう。
「どうして、あいつの顔が浮かぶのよ!」
女だらけの環境で育ち、男と接触する機会がほぼゼロだったせいだ。
刷り込みになってしまったのは、他の女王達も同じ。
どうしても、光太郎を気にかけるようになってしまう。
光太郎がパシフィスを訪れた時には、舞い上がってしまい「劇的出会い作戦」は失敗した。
勝負を挑むも、粉だらけにされて負けた。
「悔しい!」と心底思うが、自分より強い男に会って一気に惹かれる。
渡されたプレゼントは駄目押しとなり、乙女心は撃墜された。
「このままじゃ、あたしは駄目ね。あいつに相応しくない」
輝夜との対決はマンネリ化し、負けても気にしなくなっていた。
両親がおらず叱るべき者がいないので、何事もおざなりだった。
ここにきて一念発起し、ルカは発憤する。人生の目標もできた。
「マゲイアを滅ぼして、光太郎と幸せな家庭を築くのよ!」
◇
エリスと有香の戦いも始まっていた。
ハイペリオンには早紀が搭乗し、基本の操縦はAIに任せていた。
ここぞと言うときには自ら動かし、鋭い反射神経で攻撃を上手く躱す。
エリスは猛攻を加え、有香は防戦一方。
やはり、実力的にはエリスの方が上だ。経験の差は埋めようもない。
攻めをしのいでいるだけでも、有香は十分健闘している。
さて、エリスが乗っている機体は――
本邦初公開! 新型メタル・ディヴァイン、地上汎用型、重量九〇〇kg。
機体モデルは馬でさほど変わっていないが、エリスの体型に合わせて作られている。
操縦室も光太郎に合わせて作られ、改良が施されていた。
臀部にあった可変スラスターは強化され、内蔵のスラスター数も増えた。
短時間であれば、飛行特化型にもひけをとらない。
額には短い角が突き出ていた。ユニコーン・ホーンだ。
ルドルフと戦った時は、角を伸ばして突っ込んだが、それが角打ち機に変わる。
爆薬カートリッジ式を採用し、敵の装甲を軽々と撃ち抜く秘密兵器。
鋲打機の応用で、零距離では切り札になる。
ペガサスウィングは四枚羽に変わり、機動性を上げている。
その翼からつけられた名は――
エクリプス・ダブルウィング!
……断っておくが、決して草草ではない。
「――なんということでしょう。更に軽量化にも成功しているではありませんか!」
「……お兄ちゃん、さっきから何をぶつぶつ言ってるの?」
「はっ! 脳内でプレゼンテーションやってたつもりが、口に出ていた。新車発表のセールストーク風にね。一応技術屋だから、作った物の自慢はしたいんだよ」
「そっかー、お兄ちゃんの作ったメタル・ディヴァインは凄いもんね」
「ありがとう、ヒナちゃん」
今日はお披露目されないが、エクリプスにはまだ秘密があり、聞いたヒナは唸る。
ヒナの反応に、光太郎は笑顔を浮かべて満足した。
楽しそうな二人を見て、エリスと有香はムカムカさせられる。
エリスは我慢出来ず、試合そっちのけで近寄った。




