公園での出会い
「結局、見つからなかったなー」
昨日、夜まで探しても手掛かりは無し。
迎えが来て、有香が名残惜しそうな顔をしたので、光太郎は探索の継続を約束した。
今日も朝から地下室を漁って見たが……出てきたのは、ろくでもない物ばかりだった。
とても有香には見せられない。気づかれないうちに帰ってもらって、正解といえる。
光太郎はひとまず探索を止めて、店を開けた。
気分転換を兼ねて、カウンターに座り込む。
「文吾さんも、嘘を言ったわけじゃないだろう……となると」
もう一度メールを確認し、気づく。
「『……かもしれない』と言うことは、文吾さんの部屋か店の中にあるかも」
光太郎は机の引き出しを、全部開けていった。
「やっぱり無いか――うっ、何か引っかかった」
引き出しを強引に引っ張りだして、奥にあった物を手に取る。
「……手帳だ」
古びた革のカバーがしてある、大きめの手帳だ。
「日記?」
光太郎は中を開いて読んでみる。
[DA12000・6・12
戦が始まってから、もう半年が過ぎた。
あいつらは狂っている! 味方が何人倒れようと助けもしない!
犠牲者すら盾にして退こうとはしない。死ぬまで戦い続ける。
交渉すらしない、野蛮人共め!]
[DA12000・9・3
……もう限界だ。無人機だけでは戦線を支えきれない。
王都にも被害が及んできた。
メタル・ディヴァインを製作しても乗り手がいない。
もはや計画を実行するしかないのか……]
[DA12000・12・25
とうとう頼まれた。祖先と同じ道を歩むのは、何の因果だろう。
ここに帰ってこられる保証はない。どこへ行くのかもわからない。
それでも、この転移装置を使って逃げるしかない。
この子らの未来のために]
「…………」
光太郎は驚いて、しばらく放心していた。
最初は創作日記かと疑ったが、内容が緻密で矛盾点は見当たらなかった。
最後の方には、藤原理事長との出会いが書いてあった。
(戦争、そして転移装置……文吾さんって別世界から逃げて来たのか……そうすると有香さんも……この日記、渡していいのだろうか?)
光太郎は困った。日記を読んだ有香がショックを受けて、取り乱すのを恐れた。
しばらく悩んだが、約束を果たすべく渡すことにする。
「有香さんに渡す前に説明すれば、ショックは和らぐと思う。さて、急ぎ渡したいとこだが……追っかけはまだ店を見張ってるしなー……裏山で会うか」
立ち入り禁止なのは知っていたが、人払いにはちょうど良い。
「少しの時間なら大丈夫だろう」
光太郎は店の紙袋に手帳をいれて、有香にメールを送る。返信はすぐにきた。
[公園でお待ちしてます]
「よし、店を閉めてから行こう――うっ! 腹の調子が――こんな時に!」
光太郎は顔をゆがめ、駆け足でトイレに向かう。
急ぎたいとこではあったが、腹痛では仕方ない。
誰もいなくなった店内に、清原武がこっそりと入ってきた。
「店員君には悪いが、有香は私の物なんでね……金づるだがな、くっくく」
武は人の悪い笑顔を浮かべながら、店に仕掛けていた盗聴器を回収した。
三十分後、光太郎は大慌てで店を閉め、マウンテンバイクで全力疾走中。
手帳を入れた紙袋は、フロントラックにしっかり括り付けたので、微動だにしない。
ただ運が悪く、赤信号やら道路工事で足止めを食らってしまう。
移動は遅れに遅れることとなる。
「急がば回れか……でも焦る」
光太郎は冷静さを失っており、「早く届けてあげたい」と思うばかりで、注意や配慮がかけていた。
何とか安全運転に努め、事故に合わずにはすんだ。
裏山の入り口に入り、並木通りを登る。桜が開花するのはもう少し先。
仮に咲いていたとしても、今の光太郎に桜を愛でてる余裕はない。
待ち合わせの時間はとうに過ぎており、遅れを気にしている。
勾配がきつくなると、立ち漕ぎで速度を上げた。
「はあ、はあ……」
力をだしきり、ようやく頂上にたどり着いた。
陸奥展望公園――市内を見渡せる場所で、デートスポット。
辺り一面は枯れ芝が、若芝へと替わろうとしていた。
光太郎はマウンテンバイクを降りて、周りを見渡す。
ベンチに腰掛けていた有香を見つけて、呼吸を整えながらバイクを押して歩く。
有香も気づき立ち上がる。人気はなく、公園内は静かだった。
「すみません、遅れました」
「お気になさらず、急いで来てくださったのですよね?」
「はい」
有香は光太郎の息が荒いのを見て察した。
光太郎はマウンテンバイクから紙袋を取り、中から革の手帳を出す。
手帳を有香に差し出して、説明した。
「中身は文吾さんの日記で、先に読ませてもらいました……ただ、有香さんにはショックな内容かもしれません……ですので……」
「……御心配してくださって、ありがとうございます。ある程度は覚悟しています」
受け取った有香はベンチに再び腰掛け、光太郎も隣に座る。
有香はなかなか手帳を開こうとはしなかった。
気丈に振る舞っても、自分の秘密を知ることに、ためらいが出るのは仕方がない。
光太郎は優しく提案した。
「……やはり家に戻って落ち着いてから、読まれた方が良いのでは?」
「いえ、大丈夫です。す――」
有香は深呼吸して、ついに手帳を開く――!
「なっ!」
二人の目に映ったのは、女性の裸写真だった。有香は癖で一気に速読してしまう。
どう見ても、先ほど光太郎が読んだ日記ではない。写真集だ。
「きゃあああああ――――!」
手帳、いやエロ本を放り投げ、有香は逃げ出した。
「待っ……」
光太郎は手を伸ばし追いかけようとしたが、目の前に早紀が現れて視界が一回転する。
柔道技で、芝生に投げ飛ばされたのだ。
「二度とお嬢様に近づくな!」
捨て台詞を残して、早紀もその場を去る。光太郎は痛みと疲れで動けず、芝生に倒れたままだった。
「何でこんなことに……」
光太郎の頭の中は、グルグル回り止まらない。いくら考えても、訳が分からなかった。
手帳の中身を清原武がすり替えたとは、知る由もなかった。
時間だけが過ぎて、空腹を覚えた頃に痛みが引く。空を見れば太陽は南の位置。
「気を悪くさせちゃったな……後で謝罪メールだけでも送ろう」
光太郎は起き上がり、マウンテンバイクに向かって歩く。
トボトボと家に帰ろうとした矢先、突然景色が変わる。周りの色が全て消えたのだ。
白黒写真のように、空も芝生も、光太郎自身も灰色と化した。
馬の嘶きが微かに聞こえてくる。
光太郎の前に白い球体が現れ、中から何かがでてきた。
黒いシルエットが、馬蹄の音とともに近づいてくる。
「馬? ……まさか夢で見たあの死に神!」
(逃げなきゃ死ぬ!)
光太郎は恐怖に駆られて走り出すが、足がもつれて転んでしまう。
馬は目の前まで迫っていた。恐くて声すら上げられない。
(もう駄目だ!)
光太郎は目を閉じるが、衝撃や痛みはやってこない。馬は直前で止まったのだ。
目を開けた光太郎の前には、白銀の機械馬と輝く甲冑を纏った女の子がいた。
金髪碧眼、白磁肌の美少女。ややつり目で髪はポニーテール、唇は桜色。
光太郎とエリスは出会った。
◇
二人が出会う前、エリスは追っ手に発見されていた。
神殿遺跡に入り込んだまでは良かった。
入り組んだ地形を利用し、隠れてやり過ごす作戦が、あと一歩のところで失敗したのだ。
エリスは息を殺し、エクリプスは休止状態でしゃがみ、物陰に隠れる。
追っ手は無人機「ケンタウル」。
全身の色は黒、上半身は人型で、下半身は馬型のロボット。
頭部には丸いセンサーがついており、赤く光る一つ目のようだった。
ケンタウル達は槍を構え、動き回ってエリス達を探す。
石壁のおかげで、センサーには引っかからず見つからない。
やがてケンタウル達は階段を上り、エリス達から離れていった。
(ほっ――あっ!)
エリスは岩壁が剥がれ落ちるのを見た。落ちてくる瓦礫は小さく、避けるのは雑作もない。
しかし、エクリプスに瓦礫が当たってしまい、甲高い金属音を立ててしまう。
ケンタウル達はそれを聞き逃さなかった。エリス達はその場を離れて逃げ出す。
「もう戦うしかない!」
「無茶だ! 三機もいるんだぞ!」
言い争いしてる間もなく、ケンタウル達は襲ってきた。
連続で繰り出される槍を、エクリプスは障害物を利用しながら避ける。
三機はエリス達を取り囲むように動く。
あっという間に壁際に追い詰められ、退路がなくなる。
同時攻撃を辛うじて躱し、ケンタウルの槍は背後の石壁に当たった。
すると、壁がガラガラと音を立てて崩れ、大穴が開く。
「逃げ込むぞ!」
エクリプスは叫んで、大穴に飛び込む。ケンタウル達も追ってくる。
中は狭い通路になっており、左右には光る石柱が等間隔で並んでいた。
「ここは一体?」
「秘密の岩窟墓かも知れん。もしくは……始まりの地」
エリス達は最奥までたどり着くと、巨大なオリハルコンを円状に囲む、水晶群を見つけた。
水晶はリズムを刻むように点滅を始め、オリハルコンも呼応し輝きだす。
空中に小さな黒球が現れ、段々と大きくなっていった。
「やはりここは!」
エリスが着ていた、ボロボロの喪服が飛び散った。
黒球がエリスとエクリプスを覆う。
後を追ってきたケンタウルも黒球に包まれ、その場から消えた。
そして大和ラボでは、大騒ぎになっていた。
「転移装置の発動を確認!」
「非ユークリッド空間発生!」
「ついに来たか」
「先生、これは向こうが発動させたと見るべきでしょうか?」
「あるいは、こちらの転移装置との相互干渉……特異点共振かもしれん」
「はい」
「原因は後から調べるとして、何が出てくるかが問題だ」
「開球体でました!」
ラボにいる全員が固唾をのんで、状況モニターを見る。
ただ一人、空気を読まない英雄は布団で簀巻きにされ、別室に放り込まれていた。
「あれは――エクリプスか!」
文吾が名前を知っているのは、自分が設計したメタル・ディヴァインだからだ。
「近くに民間人がいます!」
「あれは光くん!」
「なぜそこに光太郎がいる!」
文吾は腹を立て怒鳴った。




