決着
「どうして、私の位置が!? まさか心眼!?」
パウラはびっくり仰天。
今までに高速回転移動を見切ったのは、ルカのみ。
しかも目を閉じて、自分の正確な位置を捉えられては、驚く他はない。
楓はいかにして、パウラの位置を知ったのか? 答えはブエナビスタの移動音だった。
前にいれば大きく聞こえ、後にいれば音は小さくなる。
目をつむって移動音を聞くことに集中し、攻撃のタイミングを計っていたのだ。
ブエナビスタが同じ速度で回転移動していたのも、まずかったと言える。
ウオッカが目の前に迫る!
「くっ!」
「ガッデム!」
ブエナビスタも負けてはいない。とっさに垂直に立ち上がり、翼を広げた。
パウラを庇うのに、自分を盾にしたのだ。
ウオッカはそのままぶつかり、ブエナビスタは翼で包みこむようにして、ウオッカをつかむ。
二機は一緒に吹っ飛んで、もつれるように地面を激しく転がっていく。
パウラと楓は空中に飛んでいた。二人ともぶつかる前に、自機を踏み台にしてジャンプ。
お互いに攻撃の間合いに入る。
「うっ!」
パウラは一瞬だけ迷う。楓は騎士槍を軸にして、自ら回転していたのだ。
これでは当てづらい。
お株を奪われるような形となるが、パウラは見極めてランスを突き出す。
楓もランスを繰り出した。
「ドリャ――――!」
「せりゃ――――!」
二人のランスが交差してすれ違い、お互いに相手の胸を突く。
相打ちとなって地面に落下し、両者ともに倒れ伏したまま動かなくなる。
輝夜は目を見開き、ルカは口を開けたまま固まってしまう。
闘技場内は静まりかえり、誰もが動けずにいた。
貴賓席のモニターから二人の生命徴候を見て、光太郎は叫ぶ。
マイクからスピーカーを通して、闘技場内に声が響く。
「二人とも生きてます! アンジェラさん! カウントを!」
「は、はい!」
アンジェラは慌てて、一〇カウントを数え始めた。
いかなる形であれ、勝負の決着はつけねばならない。
「ワン!」
「ツー!」
これに観客達も我にかえり、再び大声援を送る。
「立て――――!」
「立ち上がれ――――!」
「ファイト――――!」
皆が声を振り絞って、パウラと楓コールの大合唱。
「セブン!」
両者ともピクリとも動かない。
「エイト!」
「楓――――――――!」
「パウラ――――――――!」
ルカと輝夜も立ち上がり、大声で叫んだ。伏している両者の指が動く。
「ナイン!」
一瞬の空白、そして……
「テン!」
立ったのは楓だった。
「武闘大会優勝、楓!」
「うおおおおおぉ――――――――――――!」
大歓声があがる!
アヴァロン中の人々が盛大な拍手をおくり、楓の勝利に沸き立つ。
楓本人は勝ったことも分からず、何も聞こえてはいなかった。
目の焦点は定まっていない。
何せ地面に倒れた後は気絶したままで、立ち上がったのは無意識の行動。
勝利への執念と輝夜に対する忠誠心が、動けない体を突き動かしたのだ。
たまらずルカと輝夜は貴賓席から飛びだし、二人に駆け寄る。
輝夜は立ったままの楓を抱きかかえて、そっと担架に乗せた。
ルカも同じようにパウラを担架に乗せると、パウラは気がつく。
「……すみませんルカ様。どうやら負けたみたいですね」
「馬鹿ね、あんたが無事ならそれでいいのよ」
それぞれ相棒の霞とカイラに付き添われ、二人は医務室へ運ばれていった。
二人に対しての拍手はいつまでも鳴り止まなかった。
「はっ! ここは! 試合は!」
試合から三時間後、楓は目を覚ました。
ベットから飛び起きたところで、見舞いにきていた輝夜に声をかけられる。
「もう少し寝てなさい。治療は無事におわりましたが、安静が必要です」
「は、はい……」
恐縮しながら言うとおりにして、楓はベットに横になる。
騎士甲冑は外され、病衣に着せ替えられていた。顔や体は拭かれて綺麗になっている。
下着をつけていないので体の線が浮き出ていた。見る限り、筋肉質ではあるがプロポーションは非常に良い。
化粧っ気がない素顔でも、見劣りするものではなかった。着飾れば女王にもひけはとらない。
ただ愛嬌を振りまけるタイプではないので、その辺は残念である。
女である前に、戦う星騎士なのだ。輝夜は楓に告げた。
「優勝は楓、あなたよ」
「……どうも実感がわきません。最後に飛んだことだけしか、覚えてませんので……」
「お互いに相打ちになって倒れ、楓が先に立ち上がったのよ」
「そうでしたか」
「おめでとう楓、貴女の戦いぶりに見る者すべてが勇気づけられました。武闘大会を開いた甲斐がありました。この功績を持って、貴女を星騎士に戻します」
「感謝いたします、輝夜様。それと一つだけ、お願いの儀がございます」
「かまいません。望みの物を言いなさい」
「報奨金も優勝杯も、何もいりません。光太郎様に謝罪させていただきたいのです」
罪悪感というのは心に刺さったトゲだ。寝ても覚めてもそれがつきまとう。
光太郎がアトランティスを去った後、楓は自分の行為を激しく後悔した。
三度も命を狙ったにもかかわらず、光太郎は自分を雷から救おうとした事を聞きつけた。
それと命乞いされなかったら、既にこの世にはおらず、不名誉だけが残っただろう。
光太郎の優しさと慈悲深さを、楓は後から思い知る。
楓は裁かれはしなかったが、殺人未遂に変わりなく監視対象とされた。
何とかお詫びしたいと思うものの、勝手な行動は許されない。
すべては後の祭り、楓は己の愚かさを悔いる日々が続く。
そんな折、運良く敗者復活戦に抽選で選ばれ、楓は喜ぶ。
「勝って、光太郎様に詫びる機会をいただこう」
それだけを願い、必死に勝ち続けたのだ。
しでかした罪は消えない。けれども、改心した楓は許しを求めていた。
「表彰を受けるまでが試合です。優勝杯は受け取りなさい、楓。次に続く者のためにも、必要なことです」
「……はい」
「さて、貴女の願いは――光様!」
輝夜が後ろのカーテンをいきなり開ける。
「それでルカ様、また転んじゃって……」
「あははははは! そうでしたか――あっ、はい!」
隣のベットにはパウラが寝ており、光太郎と談笑していた。
防音カーテンで仕切られていたので、楓は全く気づかなかった。
いきなり会えるとは思ってもおらず、驚いて起き上がってしまう。
「こ、光、太郎様、ど、どうして、ここに!?」
「楓さん、気づかれたんですね。じゃーパウラさん、またー」
「はい、お見舞いありがとうございました。今度はデートしてくださいね」
光太郎は手を振ってカーテンを閉め、楓のベットに近づいた。
「それでは光様、お先に失礼します」
「はい」
輝夜は会釈して医務室から出て行った。輝夜の座っていた椅子に、光太郎が座る。
「よっと。お二人のお見舞いに来てました。御無事で何よりです」
「あ、あの、その、光太郎様、この前は大変なことをしでかしてしまい、本当に申し訳御座いませんでした!」
心の準備も、詫び台詞も用意できていなかった。しどろもどろに謝るのが精一杯。
ベットの上では土下座もできず、ひたすら頭をペコペコ下げた。
「あー、気にしなくていいですよ。それよりも素晴らしい試合で感動しました。パウラさんも強かったですが、楓さんの強さにも驚かされました。輝夜さんの側近だっただけのことはある」
「あー、いえ、たいしたことでは……」
罵倒されるのを覚悟していたのに、光太郎は何事も無かったかのように話しかけてくる。
日々の忙しさで光太郎は忘れかけており、気にもしていなかった。
楓は肩すかしをくらって戸惑うのみ。
「目を閉じられた時は、『おおっ!』って思わず叫んで興奮しましたよ。あそこで音を聞く戦法は、大胆で凄く良かった。時間をおかずに攻撃したのも、お見事です!」
「え、ええ……」
「ウオッカは良い機体ですね。今度じっくり見せて……あーまた僕の悪い癖だ。どうも機械を見ると、我慢できなくなる性質なもので、すみません」
「いえいえ、そんな! 謝らないでください!」
人を責めるどころか、自分を褒めまくる男が目の前にいる。これで惚れない女はいない。
目を潤ませて、楓は思う。
(ああ……やっぱりこの方は魔法使いだ。私は恋の魔法にかかりました)
前に楓は光太郎に言いがかりをつけたが、全て間違っていたわけではない。
女たらしであるのは、紛れもない事実なのだから。




