挑発作戦
お互いの距離は約一キロメートル、ルカに動きはない。
待ち構えてるようで、光太郎は探りを入れることにした。
「気を取り直していくか、まずは三機突っ込ませてくれ。正面と左右から同時攻撃」
「了解」
セイレーン――人面鳥の無人機が、銛でルカに襲いかかる。
ルカは片手で三叉戟を握ったまま、両腕を広げた。
迎撃する様子は見られず、攻撃が当たるかに見えた。
「ふふん」
ルカが鼻で笑うと、セイレーンの動きが直前で止まる。
何が起きたか分からなかったので、光太郎はスマートグラスを使い確認した。
双眼鏡モードで見れば、セイレーンは微かに動いてはいた。
必死にルカを攻撃しようとするが、見えない何かに拘束されているようだった。
「時間停止! ……なわけないか、これは空間圧力だな」
「うむ」
「これが、あたしの王の力『水女神の鳥籠』!」
深い海の中へ潜ると、水圧で身動きが取れなくなるのと同じ。
ルカは敵の周りにある気体の水を操り、圧力をかけて動きを止めていた。
見えない檻に閉じ込められたセイレーンは、一歩も進めない。
「えい!」
三叉戟を軽く一振りして、セイレーン三機を同時に倒す。
動けぬマネキンを叩くようなもので、雑作もない。
初撃を防いでルカは気をよくし、観客に手を振っていた。
隙だらけに見えても隙はなく、絶対防御は破れそうもなかった。
「なるほどね、こちらの攻撃は全て止められる。自信たっぷりで余裕があるわけだ。無人機が千機あっても、勝てそうにないな……」
「どうする光太郎? 何か策はあるのか?」
「一応ね。でも、このままじゃー僕の作戦は使えない。だから……」
光太郎はエクリプスに作戦を話す。
「うーむ……心情的には賛成できんが、本当にやるのか? 後々、問題になりそうだが……」
「いいんだよ! どうせ悪者あつかいされてるんだから、悪名を重ねてもかまわない!」
(むくれてるな光太郎。これだけ悪役に仕立て上げられては、腹も立つか)
「よし! やるとしよう。ついでにスピーカーから派手に鳴らそう」
「頼む」
「おーっと! 挑戦者なにやら始めたようです」
縦横に整列したセイレーンが光太郎の前に集まりだした。
ごちゃごちゃと動き回り、絡み合って空中で静止する。
全機の動きが止まった時、皆が理解する。光太郎は人文字を作ったのだ。
ペ チ ャ パ イ
それだけではなく、セイレーン達は作った人文字を読み上げていく。
最大ボリュームで、オペラ歌手のようにビブラートをかけ、言葉はより強調された。
歌声ならぬ、ルカの悪口は全土に轟く。
「なっ!」
ルカは何をされたか、しばらく理解できなかった。
自分の悪口を正面から堂々と言われるとは、思っても見なかったからだ。
それも、ルカが一番気にしている胸のことだ。
光太郎は禁句と分かってやっている。人文字はさらに変化した。
無 い 乳
貧 乳
七〇 センチ
せんたく板 ……も・と・い
えぐれ~ まな板~♪
最後の一言は決定的だった。観客達は非難するよりも、声を失い青ざめる。
「……あー、あいつ死んだな」
「御愁傷様」
「彼の魂に安らぎあれ……」
口々に祈り言葉を唱えている。
「……これは、彼の御冥福をお祈りいたしましょう」
(なかなかやってくれるな彼奴。あとで香典くらいはだしてやろう。くっくくく)
トムはニコニコと笑っていた。
ルカはワナワナと震え、怒りが頂点を超える。
「ふっふふふふ……ヌッコロス! オルフェ!」
「はい、はい、行きますよー」
(これは止めても無駄ね、見事に釣られたわ。あの男やるわね)
怒髪天を衝く。
ルカは何も考えずに、光太郎へめがけて進む。
もはや三叉戟を突き刺すことしか頭にない。
「全軍トンネル陣型を展開! 銛を連続投擲!」
光太郎指揮の下、セイレーンは人文字から陣形に変わる。
ルカの進行方向にそって、半筒状の形で囲む。まさにトンネルだ。
前を塞ぐ壁をつくるようなことはせず、上空から銛の雨を降らせた。
「ちぃ!」
ルカは王の力で防ぐしかなかった。何せ一本でも当たればその時点で負けだ。
ハリネズミのように成りながら、オルフェーヴルは少しずつ前へと進む。
銛がつきると、光太郎は次の指示を出す。
「かごめかごめの陣。時計・反時計まわり!」
上下に分かれ二列になったセイレーン達が、ルカを中心にグルグルと回り出す。
ルカから見れば、目が回るような動きだ。
動体視力が良いのが反って仇となり、目が勝手に追いかけてしまう。
しかも王の力が、及ぶ範囲には入ってこない。かごの中の鳥にされたのはルカだった。
「不規則攻撃! うしろの正面だぁれ?」
セイレーン達は足爪でルカに攻撃する。
一気には攻めこまず二体から三体が、ルカの死角を突いて同時に襲う。
どこからくるか分からない攻撃に、ルカはいらつく。
「あーもう! むかつくわね! 正々堂々きなさいよ!」
「それじゃー僕が負けるんですけどー……スポーツじゃないって言ってたのに、我が儘だよなー」
ルカの理不尽さに、光太郎は呆れる。
ルカは三叉戟をフル回転させ、なんとか身を守る。
一時たりとも気は抜けない。
王の力で防ぐにしても、意識を向けて集中する時間が必要だった。
間断なく攻められては、使うタイミングが難しい。
力を維持できるのは数分、意識が途切れた隙を突かれれば負けだ。
見かねたオルフェーヴルが助言する。
「ここは海に潜りなさい、ルカ」
「いやよ、逃げられるわけないでしょ! みんな見てるのよ!」
正面から打ち破ると言った手前、ルカは退くわけには行かなかった。
「負けたら余計に恥よ」
(また意地を張って……ああ、もう向こうの思うつぼにはまっているのね。容赦なく攻めてくるし、なんて恐ろしい男)
「こうなったら!」
「ルカ! やめな……!」
オルフェーヴルは止められなかった。
「全力開放!」
ルカが叫ぶと、全てのセイレーンの動きが止まった。
王の力を全開にし、鳥籠の範囲を広げたのだ。
ルカは止まったセイレーン達を素早く壊し、残るは光太郎だけとなった。
「ぜーぜー………」
「ほら、無理するからそうなるのよ」
「う、うる……さい……わね」
ルカは肩で息をして、疲労困憊におちいる。
無茶な力の使い方は、体に負担をかけたが、周りに無人機はいなくなる。
光太郎は逃げもせずその場に留まり、じっとルカを見ていた。
「これで終わりよ!」
少し回復したルカは、武器を向けて突っ込む。
光太郎は右手を、下から上へと振る。すると、海中から何かが飛び出た!
「アプサラス!」
人魚型の無人機二体が、ルカの目の前に現れ左右に分かれる。
一瞬気をとられたルカに、漁網が被せられた。
アプサラスは反対方向へ引こうとしたが、あっさり破壊される。
「こんなもので、あたしを止められるわけないでしょうが――――!」
ルカは漁網をつけたまま突き進み、光太郎は目の前。
三叉戟を突きつけて言った。
「あたしの勝ちね、降参しな……って、あんた何やってんのよ!」
光太郎はビーチパラソルを取り出し、前に広げた。
「いや、汚れるからね」
「ルカの負けよ」
「あんたら、なにを言って――!?」
ドカン! ドカン! と連続で爆発音がする。
ルカの周りで爆発が起き、あちこちに染料が飛び散った。
色粉を全身に浴びて、ルカは粉だらけになる。
顔は赤・青・黄色の三色に染められた。信号機のようである。
光太郎は漁網に、カラーボール爆弾を仕掛けていたのだ。
潮風で色粉がビーチへ広がり、観客達も騒ぎ出して逃げ出す。
もはや勝負どころではなくなり、うやむやの内に対決は終わった。




