トーナメント 一回戦
そのプレイヤー名は「スモール・ボール」。
ゲームのリリース直後から、対人戦で圧倒的に勝ちまくっていた。
リプレイを見るとユニットの配置や動かし方が上手く、戦術が素晴らしくて僕は唸った。
「是非、彼?と対戦したい」
と思ったものの、一度もその機会に恵まれなかったのだ。
忙しい子育てのせいもあるが、なぜかゲームにログインしてる時間が合わなかった。
休日も同様で、恐らく生活のリズムが僕とは真逆なのだろう。
こうなってくると意地でも戦いたくなってくる。人は手に入らない物ほど執着してしまう。
「……と言うわけで僕はゲーム大会を開いたのさ」
「でも、光太郎が参加するのはズルくない?」
「そうだね僕が開発したことは秘密にしてるし、ゲームの細かい設定も分かってる。だけど、どうしても戦いたくて我慢できなかった。その分賞金は多めにして、参加者の旅費も負担することにした。彼はオンラインでの参加だけどね」
「なら光太郎の望みは叶いそうね」
「でも、トーナメントで決勝まで進まないと戦えないんだ。参加者はバベルが選抜した強豪ぞろいで、展開によっては苦戦しそう。それでも負けるわけにはいかない」
その夜、僕はシルキーを練習相手にデッキ編成を何度も考えた。
――そして当日。
会場には数千人が集まっていた……どうしてこうなった。
予想以上の観客である。これは地方惑星で娯楽イベントに目がなかったことと、七五三ゲームが僕が思ってた以上に流行っていたからだった。
それでもヘンゼルに前もって準備を頼んでいたので、ゲーム大会は支障なく運営される。
スタッフを雇い、ボランティアロボットが案内や誘導を行っていた。
地域の活性化イベントも兼ねてるので、露店や展示会なども開かれていた。
やがて開始時間となり、メインステージに司会者が現れる。
シルクハットを被りド派手な格好をしていて、否が応でも目立っていた。司会は大仰な手振りをしながらマイクで叫ぶ。
「レディース・アンド・ジェントルマン! 全宇宙のプレイヤーとファンのみなさん、お待たせしました! これより七五三バトルトーナメントを開催いたします!」
「うおおおおおおー!」
怒号が耳朶を打つ。僕からすれば異様な盛り上がりだ。
もともとインドア派だったし、家庭を持って歳を食ったから若者のノリについていけないのだろう。
困ったものだな、何とか場に合わせよう。
「それでは選手の入場です。尚オンラインでの参加者は、アバターを大型スクリーンに映します」
僕と選手達は順番にゲートをくぐって進んで行く。
選手も負けず劣らず奇抜な出で立ちで、僕だけがジャージ姿で地味だった。
ちなみに伊達眼鏡をかけて一応変装はしている。これだけでも気づく者はいないだろう。
メインステージに並ぶと選手紹介が始まり、一言述べてから観客に応えていた。
そして僕の番となり当たり障りのないように言った。
「ベストをつくします」
そしてまばらに拍手が鳴る。まあこんなもんだろ。
なにせ他の選手に比べたら戦歴は少なく、運営者特権で参加したようなものだから、応募で落選した人達からすれば納得できないだろう。ごめんね。
紹介が終わり司会者はゲーム開始を告げる。
「激戦を勝ち抜き、16名の頂点に立つのは誰か!? 優勝候補のスモール・ボールか? はたまた天才女子のルミナスか? ダークホースのコウタローも見逃せない! どうぞ最後までお楽しみください!」
「わああああああ!」
歓声の中、選手達はゲーム筐体の中に入っていく。外界とは遮断されゲーム音以外は聞こえなくなり外の様子は見えない。
僕は椅子に座りデッキデータをセットすると、ユニットがモニター画面に現れた。
あとはタッチパネルで初期配置を決めて待機。
大会ルールは七対七のユニットで、最終ターンまでに多くのポイントをとった方が勝ちだ。
1ターンの持ち時間は六分。ユニットは撃破してもポイントは低く、自陣から復活できるので戦略が勝敗を分ける。
MAP上の都市を多く占領するか、敵の補給路を断ったり、見える範囲を増やすことでポイントが多く貰えるようになっていた。
かなり頭をつかいます。優劣はモニターの上部に表示されてる。
カウントダウンが始まり、00:00になってゲーム開始だ。
僕は決めた作戦どおりにユニットを動かす。
接敵するのは大体3ターン後だが、僕の忍者ユニットは2ターン目で敵を発見していた。
もともと視界範囲が広いユニットで、さらに移動力+のバフアイテムを持たせているからだ。
まだ相手には見えていない。ここは奇襲をかけるとこだが、生憎とこの忍者は☆☆☆☆なので星5に挑むのは自殺行為だ。戦闘では役に立たない。
あくまでも役目は索敵、僕は忍者を左右に動かして敵の陣容を探る。本隊は少ししか進めない。
敵情報が集まる頃には、相手も忍者の存在に気づいて追いかけてくるが、それが狙いだ。
次のターン忍者はあっさり撃破されるが、これは囲碁でいうところの捨て石。
「よし、これでデータはそろった」
敵の位置とユニット情報が分かったので反撃だ。忍者を追ったせいで相手ユニットはバラバラになり、これは各個撃破のチャンス。
2対1で戦えば楽に倒せる。僕はこうして試合を有利に進めた。
後は知識の差で、どのユニットがどう動くかは予想できた。すみません開発者なもので。
対戦相手は劣勢を挽回できないまま勝負がつく。僕の勝ちだ。
筐体から出るとざわめきが起きる。僕は対戦相手と握手をしたあとステージの前に出た。
司会が声をあげる。
「まずは、一回戦突破おめでとう! どれも素晴らしい戦いだった。勝者に拍手を!」
拍手は少なく観客の反応はイマイチ、その理由は分かっている。僕の戦い方が問題なのだ。
普通は星5のユニットしか使わないので、戦闘力重視のプレイヤーから見たら卑怯に見えただろう。
「星4を使うなんてありえねー。あんなの邪道だろ?」
「いやいや理にかなった見事な戦法だ。そもそも戦いに卑怯もクソもない!」
観客は否定派と賛成派に分かれて言い争っていた。そんな中、次の対戦相手が僕に近づいてくる。
プレイヤー名は知らないが、侍コスプレをしていた。
「ふっふふふ、奇策を用いて勝ったようだが拙者には通用せん。この重武装デッキの前では小細工は無意味、其方のユニットを蹴散らしてくれよう!」
「はあー、そうですか。御手柔らかにおねがいします」
(いやいや、手の内バラしてどないすんねん)
「おおっ! 中々言うじゃん」
「やれ、やれえー!」
僕の態度が煽ってるように見られ、相手と火花を散らしたように映ったようだ。
そんなつもりは毛頭ないんだが……。
こうして一回戦が終わり、休憩を挟んで午後から二回戦が行われる。