飛行訓練
三人は小玉の部屋に移動する。
本や資料が整然と並べられ、小さな実験室もあり研究室となっていた。
他にあるのは日用品。小物やぬいぐるみの類いは見当たらない。
唯一の装飾品は机にある写真立てのみ、母親らしき人物が写っていた。
整頓された部屋の真ん中には畳が敷かれ、ちゃぶ台と座布団が用意されてあった。
客を招くのは、予想していたのだろう。サンバイザーをとり、座った二人にお茶をだした。
「どうも」
「早速だが始める」
「うん」
「最初にメタル・ディヴァインの、特性を決めなければいけない。飛行・地上・水中などだ」
ちゃぶ台にあるタッチキーボードを指でたたくと、空中に3D画像が浮かびあがる。
プレゼンさながらに、矢印カーソルを使い小玉は説明する。
「速度が出る飛行型が有利には見えるが、短所も存在する」
「スラスター推進剤だね」
「そうだ、加速するには推力がいる。推進剤は大量には積めないし、高速戦闘になればすぐに切れてしまう。長時間の戦闘には不向きだ」
「その辺は地球の戦闘機も同じだ。だから長距離ミサイルで戦うんだけど、メタル・ディヴァイン相手には通用しないね。高運動性能で避けられるし、挙げ句に斥力場シールドで防がれる」
「斥力場シールドを打ち破るには、高出力エネルギーかオリハルコン製武器を使うしかない」
「もしくはシールド発生装置を壊すしかないのよね」
喜久子が言った。うなずいて小玉は続ける。
「都市防衛の要、防御塔があるが、全方位にバリアを張れるわけじゃない。過去の戦では地上から攻め込まれて壊されている。木や障害物を盾に進軍されたら、空中からでは攻撃しにくい。これに対抗するには地上汎用型しかない」
「エルコンドルとルドルフは飛行型。戦力バランスを考えれば地上汎用型がいいんだろうけど、それじゃ前と変わりないからなー……」
光太郎の中では、大体の構想はまとまっていた。
製作するとなってから寝ても覚めても、そればかりを考えてノートを何冊も使った。
しかし、「何かが足りない」という思いが強く悩んでいた。
「変形という手段もあるぞ。短所は機構が複雑になって防御面が弱くなるのと、機体が大型化して重くなってしまうことだ。長所は汎用性の高さだな」
「うむむ、可変機か……」
「とにかく特性を決めないことには作れない。一番重要なことだ」
「小玉、考える時間をくれないか? 女帝戦まで時間もないから、三日以内に結論は出す」
「いいだろ。その間に設計製作の準備はしておく」
「あと、過去のマゲイア戦の映像を、ありったけ見せてくれ。参考にしたい」
「構わないが……ボカシは入ってないぞ。意味はわかるな? それでも見るか?」
「……うん。正直スプラッターは見たくないけど、ヒントは映像の中にあると思う。それと、映像記録は戦死者達の魂の遺産だ。たとえ悲惨な記録でも、役立てるのが供養になると思う」
「!」
(こいつは!……そんなこと、私は考えたこともなかった)
光太郎は「無意味な死はなく、続く者には貴重な宝だ」と言っているのだ。
黄泉に旅だった星騎士が聞いたら、大喜びし満足しただろう。
「私の死は無駄ではなかった」と。
「あーでも、喜久子姉さんは見ない方が……」
「大丈夫よ光君。病理解剖に立ち会ったこともあるから」
「分かった。気分が悪くなったら言ってね」
小玉は記録映像を再生させ、光太郎は見ながら真剣にメモを取った。
その様子に小玉は、少し感心する。
(女たらしと聞いていたが……思ってたよりは真面目な奴か)
小玉は知らなかった。
光太郎は「無自覚系女たらし」で、もはや惹きつけられていたことに……。
約束してから初日。
光太郎は製作のヒントを求めて、彼方此方に顔を出す。
ここはレムリア練兵場。武闘大会に向けて厳しい特訓が行われていた。
「貴様らー! そんな様で他国の星騎士に勝てるかー!」
赤い鬼教官はアンジェラ。
前大戦で主だった星騎士はいなくなり、王族兵団にいるのは実戦経験のない若者だらけである。
新兵と同じで罵詈雑言を浴びせられ、しごかれていた。
「新米騎士がたくさんか……この点も考えないとなー。設計条件が増える一方だ」
「光太郎殿」
「あ、アンジェラさんお忙しいとこすみません。エルコンドルを借りに来ました」
「どうぞ、どうぞ、壊れても構いませんので」
「そりゃーないやろ、アン」
エルコンドルは相棒に不平を鳴らすが、アンジェラは耳を貸さない。
光太郎の歓心を買う方が大事である。
「私は乗らなくてよろしいのですか?」
「はい、騎乗者を気にせず操縦してみたいので……すみません」
「残念。では飛行訓練ルートは、指定通りでお願いします」
「わかりました」
「ほな行こうか、光太郎」
「うん」
光太郎はすぐに乗り込み、エルコンドルは飛び立った。
見送ったアンジェラはため息をつく。
「はあー……切ないですわー」
「愛しの彼が行っちゃいましたねー、アン教官残念でした」
「もう少し一緒にいたか……て、何を言わせるの!」
「キャ! キャ!」
恋バナには目がない女騎士達は、サボって騒いでいた。
「貴女達、走り込み追加!」
「ひえ――――!」
星騎士達への特訓は続く。
「風船を避けて進むわけね」
「せや、赤い風船は空中機雷に見立ててある。触ると白粉が飛び散ってワイにかかる。他の色の風船は割ってもかまへん」
光太郎は訓練内容の説明を聞いていた。
「風船の動きは完全にランダムなの?」
「そやな、風船にくっついとる小型無人機がテケトーに動きよる。ぎょうさんあるんで、全体の動きは読めへん」
「了解。では突っ込むとしますか」
光太郎はペダルを踏み込む。風船群の中に進むと、せわしなく操縦桿を動かし始めた。
一つも赤風船には当たらず、他のも避ける。
「お世辞抜きに、ええ動きや光太郎」
「ありがとう。まあ、星騎士を乗せてないから、無茶苦茶な飛行もできる」
「そういう事態もあるで」
「うん。あっ! 風船の動きが速くなった。これは避けにくい」
「ははん、これはアンの奴が仕組んでたな、無理せんでもゆっくりでええど」
「それじゃー面白くないな、せっかくの訓練だしね。疾風加速!」
「マジかいな! ワイが汚れてまう!」
逆にエルコンドルを加速させて、光太郎は縦横無尽に飛行した。
にもかかわらず、赤風船にはぶつからず全てかわす。
「あれ? おかしいな……」
「どないしたんや?」
「いや、僕の気のせいだと思う」
(たぶん、スピードの出し過ぎだろう。思った通りに飛行しないや)
「おっと!」
ゴール付近で、隠れて近づいてた赤風船に気づき、急停止した。
「ようわかったのー!」
「何となくね」
エルコンドルは地上に降りる。光太郎の訓練はまだ終わらない。
地上で待っていたのは、黒竜ルドルフだった。
「ルドルフよろしくね」
「ええ、光太郎」
今度はルドルフに乗り込む、機体チェックをして武装が追加されてるのに気づく。
「なるほどなー、二度とあんな手は通じないな、確実に反撃される」
「はい、次は負けません」
「もうやらないよ。絶対、勝ち目がない」
光太郎は笑いながらルドルフを発進させた。
今度はチェックポイントラリー、指定された場所に行って空中輪くぐりをする。
タイムアタックなので、操縦テクニックが必要だった。
光太郎は軽々と操ってるように見えた。が、顔を曇らせ時折いらつく。
「ちっ! またか」
数時間後。
一通りの訓練を終えて、光太郎と二機は格納庫へと帰還した。
「うーん。しばらく操縦してなかったから、下手くそになったかなー」
ルドルフを思い通りに動かせず、光太郎はがっかりしていた。
二機に別れを告げて去った。
ルドルフとエルコンドルは話し合う。
「ルドルフの旦那、光太郎は……」
「今、<アーサー>に辿ったルートと、理想ルートの相違を計算させてます。多分、間違いないでしょう。恐らく、彼は……なのに、気づいてない」
「これを皆が知ったら、光太郎の争奪戦が更に過熱するのー、マジで内乱が起きそうや」
「マスターイザベルには報告します。お任せするしかないでしょう」
「せやな、ワイらがどうこう言える話やない。しかし、えらいこっちゃ!」
二機は点検整備に入った。




