文吾への依頼
(これって合コンだったのか? 男は僕しかいないんですけどー……)
結局、光太郎はエリスと有香の真ん中の席に座り、質問攻めにあう。
もはや合コンというよりは、婚活になっていた。
「将来はどんなとこに住みたい?」
「お嫁さんにしたい人の条件は?」
「お兄ちゃん、子供は何人欲しい?」
光太郎は真面目に考えて返答をした。
いまだに自分に好意が向けられているとは、思っていない。
自分を低く見ているのは、光太郎の短所である。
(モテる男というのは社交性があり、会話が上手な東のような男だ。顔もいいしね。それに比べて、背が低いオタクが好かれる要素はない。喜久子姉は「可愛い」と言ってくれるけど、成長しない童顔なだけだしなー)
隣のエリスや有香が聞いたら「それだけが男の魅力じゃない!」と反論しただろう。
問題は、光太郎はいわゆる「絶食系男子」で恋愛は奥手、美人が寄ってきても手をださない。
何年も餌を食べない、ダイオウグソクムシ並みだった。
好意を持つ女性達にとっては、超難敵と言える。
ゆえに女王達のアピールにも気づかず、女達が猛烈な火花を散らしているのを、光太郎は知らない。ある意味、幸せである。
国としての思惑も混じり、女王達は光太郎を巡って今後も張り合うことになる。
表向き友好、裏では世界大戦の女王会談は終わった。
女帝戦の日取り・その他は輝夜が進めていくことになり、各国も準備に追われることになる。
会談の後、有香はエリスに言った。
「エリス、二人きりで話しましょう」
「わかった。約束だったな」
◇
女王会談が終わった翌日、光太郎とエリスは学校帰りに寄り道する。
二人には早急にやらねばならない事があった。
文吾に仕事を依頼するため、マルチコア竹田店に来ていた。
「新メタル・ディヴァインの設計か……」
「はい、お願いします文吾さん」
文吾は椅子に座り、腕を組んで考え込む。
言うまでもなく、エクリプスは木っ端みじんになり、頭脳回路だけが残った。
現在レムリアの主力はエルコンドルだけで、ルドルフは修理中で戦力は心許ない。
エリス専用の機体が早急に必要だった。
エクリプスの設計者である文吾に頼むのは、当然の流れと言える。
「博士、頼む」
エリスも我慢して頭を下げた。
エリスとしては光太郎を殴った文吾を、快くは思っていない。
今は何とか感情を抑え、顔にださないようにしていた。
「女帝戦やレムリア王国の事情は分かっている」
「じゃー」
「だが断る」
「ガーン!」
「なぜだ? 報酬か? だったらいくらでも……」
エリスは文吾に、食ってかかる。
止めに入る光太郎に、文吾は言った。
「光太郎、お前が作れ」
「ええー! 僕がですか? 経験もないのに……」
文吾はノートとメモリーカードを、店のカウンターに置いた。
「技術の基本はもう教えることはない。だが教科書を読むだけでは、技術屋にはなれん。実際に作らねば何の意味もないのだ。メモリーカードには初期設計の仕方が入っている。ノートには俺流の解釈を書いておいた」
光太郎はノートを手に取りめくった。
メタル・ディヴァインの構造に、様々な注釈がされてある。
光太郎は文吾流、虎の巻を手に入れた。
「あと、こいつを渡しておく」
「封筒……中は手紙ですか?」
「俺の師匠を訪ねて学べ、あのスケベ爺はくたばってないはずだ。紹介状だが、恐らく読まれんだろうな」
文吾は苦笑いをする。光太郎は少し考えてから、エリスに相談した。
「僕が作っていいか? エリス」
「ああ、光太郎も乗るのだから自由に作ってくれ、命は預けた」
「わかった。じゃー文吾さん、やってみます」
「頑張れ。断ったのは悪いが、これから仕事が入る予定なんでな」
「そうなんですか? ではこれで失礼します。どうもでした文吾さん」
「おう」
二人が店を出てから十分後。店の扉が開き、誰かが入ってくる。
「いらっしゃい」
「文吾さんお久しぶりです。今日はお願いがあって来ました」
「ああ、分かっている。嬢ちゃんのメタル・ディヴァインの設計だな」
「はい、お願いします」
有香の依頼に文吾はうなずいた。
エリスと別れ、光太郎は一人で自宅に戻った。
早速、自室でメモリーカードをパソコンに差し込み、中身を見てみる。
光太郎のパソコンは自作、<大和>と直接回線で繋がっており、利用することも出来る。
「説明動画か」
光太郎は動画ファイルをクリックすると、パソコンの画面が切り替わり再生が始まる。
「撫子ちゃんの、猿でも分かるメタル・ディヴァイン製作講座の始まり、始まり!」
「なんじゃこりゃー! 何考えてんだ文吾さん……まあいい」
ふざけたオープニングに、拍子抜けする。
光太郎は気を取り直して、取りあえず動画を見てみることにした。
「パソコンの組み立て方は知ってるよね? それと同じ要領で、パーツを選んで組み合わせるだけなんですよー。頭部・胴体・足・翼を合体させるだけだよん。ほーら簡単だ」
「ざっくりすぎるわい!」
「光太郎君、大雑把すぎると思ったでしょ? じゃー補足するねー」
「動画のくせに、僕の心を読むんじゃねえー!」
「メタル・ディヴァインの部品はナノレベルまで進歩してもう限界。だから用途別に部品が作られるだけになったの。つまり飛行型、地上型、汎用型などに応じて複合部品を選ぶわけよ」
「まてよ――すると!」
「そう、モジュールの種類はたくさんあるの。翼だけでも加速重視か旋回重視によって、ガラリと形が変わってくるわ。その数なんと一万種以上! 組み合わせの数になると、頭一万×胴体一万×足一万としても、一兆パターン以上あるわね」
「どうしろと……」
「用途や条件を絞り込んで、大和に入力すれば最適な組み合わせを選んでくれるわ。で・も、一万くらいにしか絞り込めないけどねー、ちゃんちゃん」
「なめとんのか!」
「いやーん! 怒らないでー、設計士は料理人と同じよ。食材を調理するのと変わりないわ、美味しくできるかは腕次第よ。車だって三万個の部品からできてるわ。自分で部品を選べるだけまだ楽よ」
確かに一から部品を作っていたら、時間だけがかかる。
バレンタインチョコ作りを、カカオ豆の栽培から始めるようなものだった。
光太郎は納得せざるを得ない。
「サンドボックスゲームか、立体ジグソーパズルのようなものか……ただ、ピースが多いな」
「理解したわね? これにて講座は終了。御静聴ありがとうございました。せいぜい苦しみたまえ、わっははははは!」
人をくったような動画は終わった。
「要約すると製作は全然簡単じゃなくて、かなり難しい……ああ、自分でやるのが面倒だから僕に押しつけた訳か、あのおっさん!」
光太郎はしばらく目を閉じて、冷静になることにした。
この日から、また苦悩する日々が始まる。悩みが多すぎる青春だった。




