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イン・ディヴァインマスター 銀河の救世主  作者: 夢野楽人
エリスと光太郎

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神機と大和ラボ

 王女に追っ手が、差し向けられた。

 多数の追っ手は国中をくまなく捜し始め、見つかるのは時間の問題。

 馬に乗った王女は森の中を移動中。監視衛星に見つからないように、道なき道を駆ける。

 曇り空なのが幸いし、いまだ発見されずにいた。

 晴天ならば木漏れ日の中、鳥たちが歌声を競い合う美しい森だ。

 今は木々のざわめきと、馬蹄の音が不気味に響く。何かを暗示するかのように、動物たちは恐れ逃げまどう。

 

 馬に乗った王女は、うつむいたままだった。

(優しい叔母様が何故? 私が我が儘を言ったから怒った……いつもなら許してくれるのに、なぜ?……恐い、恐い、恐いよー母様、助けて!)

 助けてくれる母親はもういない。王女は現実から目をそらすように、ふさぎ込むしかなかった。

 王女が悩み苦しんでる間も馬は勝手に走り続け、やがて山小屋にたどり着く。

 木造の避難小屋には、戦闘に備えて武器や補給品が隠してあった。

 速度を緩めながら、馬は小屋の前に止まる。


「何があったエリス?」

 馬がしゃべった。馬は馬でも機械の馬。

 白銀の装甲で身を包み、体高は二メートルを超える。

 青色光眼の巨馬が、口内スピーカーから音声を出していた。


 メタル・ディヴァイン――神機。


 銃弾を弾きレーザーにも耐え、高速移動からの攻撃で敵を粉砕する機動兵器。

 馬の名は<エクリプス>、亡くなった女王の愛機であった。

「…………」

 王女は黙ったままで、答えない。

「エリス、母の言葉を思い出せ」

「『たとえ私が消えたとしても、あなたの心に私は残る』……うっ、ううー」

 エリスは泣き出し、しばらく嗚咽が止まらなかった。

 涙が収まると、叔母との出来事をぽつりぽつりと話す。

 黙って聞き終えたエクリプスは言った。

「ひとまず遠くへ逃げるぞ、他国に入れば追ってはこられん。小屋から緊急バックを取って我に積め、今は生き延びることを考えるんだ」

「……わかったわ」

 エリスは言われるままに、小屋の中から二つのバックを持ち出す。

 一つをエクリプスの背に積み、もう一つを腹のハッチを開けて入れた。生活用品と修理道具である。

「むっ!」

 エクリプスが耳を立て反応した。

「震動音感知……数三機、距離約三千五百、追っ手だ!」

「……遺跡へ」

「承知!」

 エクリプスは嘶きをあげ、駈けだした。

 行き先は王国の外れにある、神殿遺跡。


    ◇


 文吾は学園につくと関係者専用通路を通り、研究室へと向かった。

 途中すれ違った研究員達は、道を空けて頭を下げる。

 文吾は会釈しつつ歩いて研究室に入り、ロッカーから白衣を取り出し着込む。

 そそくさと、奥にある部屋へと向かった。

 光太郎が開けられなかった扉を、横にスライドさせて開けた。

 単なる引き戸で鍵はかかっていない。しかも中は空っぽ、照明があるだけだった。

 文吾は部屋に入りつぶやく。


「大和ラボへ」

《了解しました。文吾様》

<撫子>が返事をすると、内扉がしまり部屋が下がり始める。

 部屋はリニアモーター式のエレベーターで、移動装置にすぎなかった。

 途中でエレベーターは向きを変えて横に移動する。秘密の地下道を通り、陸奥学園の裏山まで進む。

《ラボに到着しました。扉が開きます》

 開いた扉の先には広い空間があり、大がかりな実験装置やら研究室が幾つもある。

 多くの研究員達がせわしなく動き回り、忙しそうに見えた。

 暇そうにしてるのは、ラボ最高責任者でもある藤原英雄。

 机の前で椅子に座り、腕を組んでいた。


 ラボの床は透明な板が敷かれており、その下には木の年輪のようなものが、ラボ全体に広がっていた。

 それこそが大和の本体で、箱を連ねたスパコンとは明らかに違う。大和は量子コンピュータだった。

 大和が設計された本当の理由は、学園裏山地下で発見された、ある物を解析する為だった。

 ラボの奥に空中に浮かんでいる光り輝く金属柱と、その周りを囲む赤い六角水晶がある。

 それらはオリハルコン、ファイヤークリスタルと名付けられた。

 その二つを中心に、未知の装置が上へ下へと広がっていた。それは人工遺物アーティファクト、作られたのはおよそ一万二千年前にもなる。

 文吾の目的は、この装置を起動させる事だった。

 

 喜久子が文吾のそばに近づき、情報タブレットを手渡す。

「どうぞ先生」

「……反応は一瞬だけか、センサーの誤作動の可能性は?」

「撫子は『あり得ない』との回答です」

「だろうな……十五年いじりまくって、うんともすんとも反応しなかったからな」

 ~♪


「ともかく監視警戒強化だ。二十四時間一ミリ秒も見逃すな」

「はい」

「学園の裏山は立ち入り禁止措置を取ってくれ、もしかしたら被害がでるかもしれん」

「広報およびネットで、注意を呼びかけます」

 ~♪~♪


「あと他にやるべき事は……」

「ふん~ふん~ふーん♪」

 文吾のこめかみに血管が浮き出た。

 頭にきて理事長を怒鳴りつける。

「英雄ー! さっきからやかましい! その音楽を止めろ!」

「えー! せっかく乗ってきたのにー」

 英雄はCDを止めた。最大ボリュームで流していたのは、アニメのBGM。

 やかましい音を立てられては、文吾でなくても文句を言いたくなるだろう。

「大体お前のその格好、どこの司令官服だ? ここはコスプレ会場じゃない!」

「昔からアニメを見てたから、なりきりたかったんだよー。あ、もう一回発進シーンBGM鳴らしていい?」

「だ・か・ら、うるさいから駄目だ」

「うー……じゃー代わりに文吾はこの服を着てくれ」

「なんだそりゃ!?」

「副官用の衣装、こっちも気に入ってるんだ。一緒に写真を撮ろう」

「……頭いてえー」

 文吾は片手でこめかみを押さえる。英雄は非常識なとこもあり、説教するのは無駄だった。

 英雄は喜久子にも絡み始める。ようは、かまってちゃんなのだ。


「喜久ちゃんも着替えてー、女性指揮官服もあるよー」

「嫌です、駄目です、絶対お断り!」

「えー! この前は着てくれたじゃん」

「あ、あれは学園のPRポスター撮影で仕方なく……光くんに頼まれなかったら着ませんわ! あんな恥ずかしい服。体のラインが出まくりじゃないですか!」

「今度は違うから大丈夫、ほれほれ」

 喜久子はいやいや服を受け取り、調べて見るとわなわなと震え始めた。

 服を英雄に投げつけて返す。

「どこがですか! 前より薄くて、透け透けのセクハラ変態衣装!」

「ちっ! ばれたか」


「……どうしようもねえな、この親父。でも喜久子さんの衣装姿、また見たいな」

「うん、プロポーション抜群だからねー」

「撮影会、開いてくれないかなあー」

 研究員達はひそひそ話で盛り上がっていた。


「いい加減、理事長は黙って仕事をしてください!」

「うー、もう少しつきあってくれても……ひっ!」

「い・い・ですわね?」

 喜久子に怖い顔で凄まれ、英雄はびびる。

「……はい」

 仕方なく英雄は書類を取り出し、机の上に置いた。

 ついでにヘッドホンをつけて、CDプレーヤーにつなぎ一人で聞き始める。

 ふてくされながら、仕事を始めた。

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