告白
エルコンドルが去った後、入れ替わりにボロボロのルドルフが下に降りてくる。
片翼のみになり頭は半壊、エクリプスの爆発で装甲もズタズタだった。
「ここまでルドルフが壊されるとは思いませんでした。前大戦では、ほぼ無傷でしたのに……」
「光太郎さんの攻撃が絶妙でしたからね。ルドルフ、動けますか?」
「戦闘は無理ですが、お二人を乗せて飛ぶだけなら問題ありません」
「大破したのに流石に頑丈ね。やはり設計者が、あの博士だけのことはある」
アンジェラは感心した。
「はい、中枢が無事なのは創造者のお力です。私は壊されはしましたが、ファーザーは喜ばれると思います」
「やられたのに?」
「博士は失敗を糧に進歩されますからね。ルドルフは更に強くなるでしょう」
「楽しみです。マイマスター」
二人はルドルフの背に乗り、レムリア王城へと向かう。
着くまでの間、意見を交わしながら光太郎の話をする。
「……それが、先ほど光太郎殿が考えた作戦ですか?」
「そうです。私達王族はなまじ力があるせいか、力任せの戦い方になりがちです。搦め手や奇策を軽んじて、見下してる所がありますね。彼はその点、柔軟な発想がある」
「まさに! 姉上に対抗する手段を、見つけた時もそうでした。光太郎殿が思案している姿を見て、ゾクゾクしましたわ」
「ふふふ、惚れましたか?」
「ええ、私の体を見ても嫌な顔もせず、しかもとても優しい」
アンジェラは光太郎をべた褒めする。
「光太郎さんには、運命を変える力がありますね。本当なら私かエリスのどちらかが死んでいたはず、これは奇跡です」
「エリスが覚醒したことよりも、光太郎殿がアヴァロンに来たことが、福音かもしれませんね」
「ディヴァインマスター」
「それは預言の救世主!」
「そして世界の破壊王でもあります」
「……ああ、そう書かれてましたね」
「あくまで預言です。気にしても仕方ないでしょう。未来がどうなるかは、誰にもわかりません」
そう言いながらも、イザベルは光太郎に期待していた。
◇
古戦場跡から離れ、海辺へと向かう。エルコンドルは前面に斥力場シールドを発生させ、空力加熱を防ぎながら高速飛行していた。
飛行速度はマッハ五を超えて、宇宙港にはすぐに着いた。
空から見えたのは湾曲している長い発射台、海から空へ向けられたマスドライバーだった。
そこには、小型宇宙船がある。
航宙管制官が無線で着陸場所を指示してきたので、エルコンドルは誘導灯にめがけて、垂直降下した。
エリスと光太郎が降りると、ヘルメットを被った整備士が近づいて挨拶した。
「ようこそ姫様、整備士長のマイケルです」
「エリスだ。世話になる」
二人は握手を交わした。
「早速ですが、御予定を説明いたします。今からエルコンドルを宇宙用に換装します。この作業は約十二時間後に完了予定で、シャトルへの搬入後に宇宙へと打ち上げます。それまでの間、姫様はお部屋で御休息ください。何か御質問はございますか?」
「特には無いが、父上をシャトルに組み込んでほしい」
「分かりました。お預かりします」
エリスは水晶球を整備士長へ渡した。
その後、案内された部屋で二人は食事をして眠った。
時間が経ち、話し声が聞こえて光太郎は目を覚ます。
部屋カーテンの仕切りから、エリスが部屋から出ていくところが見えた。
「もう時間か、起きないとね」
「神山様、よろしいでしょうか?」
「あ、はい!」
「宇宙服にお召し替えください。どうぞこちらへ」
「分かりました」
別の部屋に案内され、光太郎は宇宙服に着替える。
着てみて、いまいちパッとしない。
「……いつもの青ジャージとあんまり変わらんなー、まあ特殊素材なんだろうけどね」
ジャージとの違いは関節部がふくらんでるのと、背中にバックパックがあるくらいだった。
見てくれは悪いが、宇宙放射線・気圧コントロール・体温調整は万全である。
光太郎は部屋を出てシャトルを眺めた。
Δ型の白銀の巨軀は見る者を圧倒する。
「やっぱり凄い! これを見られただけでも大満足だ。おっ! エルコンドルにブースターが取り付けられてる。全部で四基、使い捨てかな?」
はしゃいでいる光太郎に近寄ってくる人? 物があった。
クラフト色の段ボール箱が動いている。
下にある足に気づかなければ、独りでに動いているようにしか見えない。
箱の中に隠れているわけではなく、抱えている小さな手も見えた。
段ボール箱は、光太郎の前で止まる。
「受け取れ」
「お、重い!」
いきなり手渡され、光太郎は受け取りそこねる。
段ボール箱が落ちそうになるが、とっさに支えられて床に降ろされた。
「ごめん、ごめん」
箱の後ろにいたのは、白衣を着た女の子。
光太郎よりも背は低く百五十センチほどで、サンバイザーを被っていた。
サンバイザーのつばは広く透明で、ヘッドアップディスプレイになっており、様々な情報が表示されている。
女の子は不機嫌そうに言う。
「徹夜で作った。いきなり無茶な物を頼みやがって、感謝しろ!」
「あ、君がエンジニアなんだ。本当にありがとう」
「マニュアルはこれだ。もっとも全自動だから操作は必要ない」
(この声には聞き覚えが……顔も見覚えがあるんだけど……うーん、思い出せん)
「この短時間で作るなんて凄いね。まるで文吾さんみたいだ」
「……あんな奴」
女の子の声は小さくて、光太郎には聞こえなかった。
「今度ちゃんとお礼するね」
「ふん! まずは生きて帰ってこい」
ぶかぶかの白衣を揺らしながら、栗色髪の女の子は去って行った。
「あ! 名前を聞くの忘れた」
聞きそびれたのを後悔してると、後ろから声をかけられる。
「光太郎」
「おおー、格好いいな!」
振り返った先にはエリスがいた
出で立ちは全身鎧を身につけ、長槍を持っている。
宝石が至る所にちりばめられ、エリスは輝いていた。
「その装備は?」
「光星甲冑と神聖槍だ。母様の……いや歴代女王が使ってきた武器で、王の力を増幅してくれるらしい」
「へえー」
「これで護衛ごと隕石を、塵にしてやるわ!」
「おいおい、敵無人機の排除が第一目的だろ」
「そうだったな」
「ただ作戦には懸念があったから、これを頼んだ」
「結構な数があるな」
エリスは段ボール箱の、中身をのぞき込む。
「詳しい話はシャトルの中でしよう。それでエリス……」
「どうした?」
「重くて持てん。手伝ってくれ」
エリスは笑って段ボール箱を片手で持ち上げ、そのまま肩に乗せてシャトルへ運んだ。
それを見て、光太郎は情けない顔をする。
(男としては、立つ瀬がありません)
「発射台、射出角度調整完了。誤差補正」
「電磁加速装置、出力上昇。異常なし」
「シャトル発射準備完了。カウントダウン開始」
「御武運を」
マイケルと整備士達に見送られ、シャトルは宇宙へ飛び立った。
大気圏と重力圏を脱けたところで、シャトルのオリハルコン・エンジンが起動する。
シャトルは推力を得て加速していく。二人は窓から、離れていく星を眺めていた。
「アヴァロン星は本当に美しいな」
「うん、絶対に守らねばならない」
『航行は順調、作戦時間には間に合うだろう。他の宇宙船も無事軌道に乗った』
エクリプスが艦内放送で伝えてきた。
「ちなみに全部で何隻?」
『我らも含めて四隻だ』
「少ない……」
光太郎はがっかりして、顔が曇った。
「光太郎どうしたんだ? 叔母上に提案した作戦があるんだろ?」
「ああ、すまん説明しておく」
「うん」
「落下してくる隕石の配置を大まかに見ると、横一列と縦一列に並んでて同時に落ちてくるんだ。そして隕石ごとに護衛がついてる」
「そうだな」
「仮に最初の護衛を蹴散らして横の隕石に向かった場合、縦に落ちてくる隕石を防ぐことが出来ない。逆に縦の隕石に向かえば、今度は横の隕石の対応が間に合わない。つまり時間差が埋められないんだ。エルコンドルの速さをもってしても無理だ」
「せやな、行ったり来たりでは話にならん。燃料がもたんわ」
「そういうことか、それで光太郎どうするんだ?」
「こちらもメタル・ディヴァインの数が多ければ対処できるんだけど……宇宙に上がったのはたった四隻、はっきり言って戦力不足だ。僕の作戦は敵の隕石ロケットを利用することなんだ」
「利用?」
「エンジニアの女の子にもらったのはハッキングマシン。これを隕石のロケットに取り付けて制御を奪う。あとは他の隕石にぶつけて軌道をそらせば、アヴァロン星には落ちない」
段ボール箱から取り出したハッキングマシンは、手のひら大のテントウ虫の形をしていた。
「なるほど、それなら間に合うな。流石だ光太郎」
エリスは尊敬の眼差しで光太郎を見た。
「ただ他の味方が上手く動いてくれないと、やっぱり間に合わない。そこが心配だ」
「安心していいぞ光太郎。宇宙に上がってきたのは女王達だ。恐らく全員、王の力を持ってる。最悪、私一人でも隕石を壊してみせる」
「そうだな、エリスが隕石ロケットの一部分でも壊せば軌道を変えられる。やるしかない」
『我も全力でサポートする』
「地上でも最終迎撃作戦がある。そんなに気負うなや」
「そっか、一人で背負い込みすぎたね」
皆に言われて、光太郎は肩の力を抜いた。
「見えてきたでー、準備せいやー」
エルコンドルに二人は乗り込む。エアロックの後、格納庫のハッチから発進した。
翼から光の粒子を蒔きながら、流星のごとく宇宙を飛ぶ。
立ちはだかるのは敵の無人機――『ベスパ』。
二メートルほどのスズメバチが、大顎をガチガチと鳴らし、毒針を突き出して群れで襲ってくる。
「喰らえ!」
エリスが神聖槍を突き出すと、尖端から一条の光が発射された。
ベスパは塵になり、光はそのまま広がり敵は次々消えていった。
「凄いな!」
「やるのー!」
「まだまだー!」
敵を蹴散らすのに時間はかからなかった。隕石ごとに分散してるので、もともと数は少ない。
エルコンドルは隕石ロケットの近くに寄って、相対速度を合わせる。
「光太郎、一人で大丈夫か?」
「うん、宇宙服の制御はエクリプスがやってくれてる。エリスは残敵を警戒してくれ」
「分かった」
光太郎はエルコンドルから外にでて、ロケットに近づいていくが――
「くっ!」
「光太郎!」
「ちっ! 隕石が加速しくさりおった。待ってろ、命綱を引き上げる!」
「いや、いい。もう少しで届く」
光太郎は自ら宇宙服のスラスターを噴かして進み、ハッキングマシンを起動させた。
テントウ虫は飛んでロケットに張り付き、触角を長く伸ばして制御盤に侵入する。
背中の紋様が明滅し、ハッキングを始めた。
「よし、引き上げてくれ」
光太郎がエルコンドルの中に戻ると、隕石ロケットは方向を百八十度変えて、他の隕石へと向かう。
「上手くいったな光太郎」
「ああ、あの子の御陰だ。しかし、護衛が倒されると隕石が加速するように、プログラムされていたようだ。嫌なやり口だな」
「仕方ない。次は上手くやろう」
「うん。さて味方はどうかな……」
光太郎はヘルメットの、ヘッドマウントディスプレイで戦況を確認した。
「……僕は勘違いしてた。シャトル四隻は少ないけど、メタル・ディヴァインは四機だけじゃなかった。十人も星騎士がいれば余裕だ」
女王達は精鋭を引き連れて、宇宙に上がっていたのだ。
「早い、強い、手際もいい! これなら余裕で間に合うな」
ヘルメット内の映像には、味方が活躍する姿が映っていた。
「光太郎が新たな作戦を立てたからだ。誇って良いぞ」
「いやいや、女王達だけでも隕石落下は防げたと思う。そう言えばアヴァロン星には、五王国あるんだよね? 一国だけ来てないんだっけ?」
「ああ、ムー王国だな、あそこは仕方ないんだ。現女王は、私の母様と同じく体を病んで、戦場には立てなくなったそうだ」
「……そっか」
「しかも後継者は行方知れずらしい。その分、私達が頑張ろう!」
「ああ、他の味方に負けてられないね」
「光太郎……」
「なに?」
「好きだ!」
「えっ……え――――――――!」
エリスの告白は、アヴァロン全土に発信された。




