イザベル来訪
対決してから三日後。
アンジェラは光太郎の家で、養生することになった。
これも喜久子が決めて、光太郎が賛成したのはエリスの時と同じ。
「お世話になります」
「はい」
二人が笑顔を交わすのを見て、エリスはふくれっ面をする。
それを見て、アンジェラは鼻で笑う。嫉妬全開なのは見てとれる。
「ふっ」
「姉上なにか?」
「いや、何でもない」
光太郎は二階の部屋に案内して、ベットに横たわるよう勧めた。
アンジェラの体調は回復しつつあるが、まだ安静が必要。
「何かあったら、撫子に言ってください。僕が対応します」
「でわ、添い寝してください」
「ぶっ!」
「冗談です。何かあったらお頼みします」
「……はい」
光太郎はドアを閉めて、階段を降りていく。
(アンジェラさん、半分以上本気だったな……まあいいか。あれからエリスは少し変わって、かなり素直になった。これで一安心……でも挙動不審になってしまった。何でだろ?)
エリスは光太郎の顔をまともに見なくなり、すぐに目をそらして逃げる。
けれども、付かず離れず様子をうかがう。会話をすると、どもる。
エリス自身も理解不能な状況だった。
(光太郎を見てると恥ずかしい、胸が高鳴る……なぜだ? 今までは平気だったのに……)
「エリス」
「うわ――――!」
「すまん、びっくりさせたか?」
「い、いや、私こそ大声を上げてすまない」
エリスはうつむき、もじもじしていた。
「良かったら、ゲームをしないか? 今度はテレビ二台で、離れて通信対戦」
「う、うん、しよう、しよう。今度こそ私が勝つ」
(なんか調子狂うなー、まあ対戦が終わったらいつも通りに……)
お互い手も顔も見えない状態で、対戦ゲーム「ヴァルキリー・デュエル」を始めた。
そして、三十分後。
「なぜだー! なぜ私が負ける!」
三本勝負のうち一本はエリスがとるので、ボロ負けではない。
だけど最後には、光太郎が勝ってしまうのが解せなかった。
「光太郎、頼むから教えてくれ。今度は何も見てないんだろ?」
「うん、離れてるから見えない。簡単に言うとエリスの攻めが、ワンパターンなんだよ」
「つまり?」
「遠距離だと飛び道具、中距離だと飛び込み、近距離だと下段連打しかしない。他にもあるけど行動パターンが一定だから、CPU戦と変わらない。だから先読みして、技をだしてた」
「…………」
「上級者だとフェイントを入れたり、かく乱したりと、色々戦法は変えてくるので奥が深い。エリスの場合、ガードが甘いのも……」
「ずるい、ずるい、ずるい!」
(ほーら、やっぱり切れた)
光太郎は、ほくそ笑む。
「!」
ゴ――と庭の方で、轟音が聞こえた。
揺れる窓ガラスに慌てて近寄って見れば、漆黒のメタル・ディヴァインが着陸している。
ちなみにエルコンドルも、家の庭にいた。
「……ルドルフ」
「それって、エリスの叔母さんの……」
時を置かず、玄関のチャイムが鳴る。
光太郎は駆け足で向かい、玄関ドアを開けると長身の女性がいた。
「初めまして、イザベル・D・レムリアと申します。お邪魔してよろしいでしょうか?」
「あ、はい、どうぞ」
(この人がイザベルさん。綺麗な人だなー……エリスの家族は美人揃いか)
光太郎が見惚れたイザベルは、濡れ羽色の長髪をまとめていた。
エリスと同じ碧眼、赤い唇と抜群のプロポーションは、男を惹きつけるには十分すぎる。
素肌がのぞく甲冑が、体のラインを際立たせていた。
「どうかしました?」
「すみません、見惚れてました。改めまして、神山光太郎です」
「正直な御方ですね。妹がお世話になってるようで、お礼申し上げます」
「いえいえ、ではアンジェラさんの部屋に御案内します」
(礼儀正しいし、感情で動く人ではないな……あとで聞いてみよう)
「こちらです」
「ありがとう」
「僕はリビングにいますので、お話が終わったら来てください」
「ええ」
光太郎はリビングに戻ると、紅茶の支度を始める。
「後でアンジェラさんにも持って行こう」
カップを用意しながら、エリスに声をかける。
険しい表情のまま、エリスは立ち尽くしていた。胸中は穏やかではない。
「落ち着きなよ」
「大丈夫だ光太郎。もう覚悟は決めている」
エリスに迷いはなかった。
イザベルがリビングに入ると、堂々と正面に座り相対する。
「どうぞ」
「ありがとう。良い香りですね」
光太郎の出した紅茶を、イザベルは優雅に飲んだ。
「何をしにきたのですか、叔母上?」
口火を切ったのはエリス。
「アンジェラの様子を見に。それと貴女に用があります」
「なんでしょう?」
「女王の座をかけて、決闘を申し込みます」
リビングの中だけ、時が止まったかのように静かになる。
それは錯覚、イザベルは話を続けた。
「正直、エリスが生き延びるとは思わなかったわ。こうなると私が直々に倒さないと、王位を継いでも意味がない」
「決着をつけるつもりですね?」
「そうね、場所は古戦場跡。七日後に来なさい、アンジェラも回復するでしょうから」
「一週間後……」
「もし逃げたりしたら……」
エリスの正面にいたはずのイザベルが消えて、一瞬で光太郎の横に座っていた。
「この子を八つ裂きにしようかしら、うふふ、可愛いわ……どんな悲鳴をあげるのか楽しみ」
イザベルは光太郎の顔に両手をあて、自分の顔を寄せる。
互いの口元が、近づく――
「光太郎から離れろ!」
エリスは立ち上がり、大声を張り上げた。
あまりの大声にエリス自身も驚く。
(私は一体どうしてしまったんだ? 見てたら頭が沸騰した)
「ふふふ、これは面白いものが見られました。用事は済みましたので、お暇いたしましょう。紅茶、とても美味しかったです」
「では、お見送りします」
光太郎は脅されたにもかかわらず、平然とイザベルの横を歩く。
エリスへの当てつけで、挑発だと分かっていたので、恐いとは思わなかった。
気軽に質問をぶつける。
「イザベルさん、僕の家ごとエリスを潰さなかったのはなぜですか?」
「アンジェラがいたからです。後事は妹に託しました」
「なんだか、死ぬ覚悟のようですね。でも負けるつもりはないんでしょ?」
「戦いに絶対はありません。もっともエリスがこのままなら、私には勝てない」
「だから、七日も猶予をくれたわけですか?」
「それは、せめてもの慈悲……と言いつくろった所で、光太郎さんは見抜いてらっしゃる。アンジェラが負けたのも、納得しましたわ」
「戦う本当の理由を教えてはもらえませんか?」
「今は言えません。もし私に勝てたらお教えしましょう。エリスをよろしくお願いします」
イザベルは頭を下げて、ルドルフに飛び乗った。
(黒竜……エクリプスやハゲタカより一回り大きいな)
「ルドルフ、帰ります」
「イエス、マイマスター」
ルドルフが飛び去ったあと、光太郎はエルコンドルに話しかける。
「なあ、イザベルさんって相当強いのか?」
「強いもなにもレムリア王国最強や、相手になったのはエリスの母親くらいやで」
「ルドルフは?」
「鬼に金棒やな、わいかてアレには勝てへん。破滅の閃光を吐かれたらおしまいや」
「……プラズマビームだったな」
光太郎はエリスやエクリプスから聞いて、ルドルフの情報を得ていた。
「対抗策……あるかなー」
「無理やろ、倒すのは不可能や」
「まさに倒せないラスボス、無理ゲーかよ」
光太郎は頭を抱えながら、家の中に戻る。
「……ああ、急ですまんがよろしく頼む」
エリスはスマホで通話中、いつになく真剣な表情をしている。
通話が終了すると、エリスは光太郎に向き直って言った。
「光太郎……私は家を出る」




