アヴァロン捜査網
人工島の一角に、数十人の星騎士が集まっていた。
ルカを前にして、全員正座している。基地司令官と各部署の責任者達だ。
司令官はパシフィス出身の星騎士、土下座してルカに謝る。
「此度の失態、まことに申し訳ございませんでした。ルカ様」
「分かったわ、もういいから……」
ルカは咎めるつもりはなく、処分する気もなかった。
責任を問うならば、選んだルカにも任命責任はあるのだ。
ただ、司令官は潔く責任を取ろうとしていた。
宴会ではふざけたが、本来は高潔な星騎士だ。
「そうは参りません。全ての責は私にあります。他の者には寛大なる御沙汰を、お願いします。私は、腹を切ってお詫びします!」
「司令!」
側にいた部下が、慌てて切腹を止めようとしたが、間に合わない。
司令官の抜剣は速く、剣先が腹部に刺しこまれて……いかなかった。
「水女神の鳥籠」
ルカが王の力で、司令官の動きを止めていた。
そのまま近づき、剣を取り上げる。
「ルカ様、責任を取らせてください!」
「死んでる暇があったら、光太郎を捜せ! 勝手に自分を裁くんじゃない!」
「ですが!」
「あんたの為じゃない! 光太郎のためよ! あんたが死んだら、光太郎は責任を感じて苦しむわ! 『僕が捕まったせいで……』って悲しむに決まってる。あたしは、光太郎に辛い顔をさせたくない!」
「……すみません」
ルカに言われて、司令官は浅慮であったことを恥じた。
死なれたら残された者にとっては辛く、残りの人生に影をさすことになる。
部下達もほっとしていた。自分達だけが、責任を逃れるわけにはいかないのだ。
「分かったら、みんな立て! 人手は全然足りないわ!」
「はい!」
全員、駆け足で持ち場に戻り、司令官は寝る間も惜しんで働くことになる。
ルカは歩き出して司令所近くにある、大会議室へ向かった。
そこが、「光太郎捜索本部」であり、そこで女王達は一緒に寝泊まりして、情報収集と指揮に当たっている。
会議室の中央には、巨大なアヴァロン星儀が空中投影され、捜索隊の動きがリアルタイムで分かる。
捜索が終わった場所は、赤く塗りつぶされていた。ただ、それはごくわずかである。
アヴァロン全土から、光太郎一人を捜すとなると途方もなく感じる。
砂漠の中から金一粒を探すようなものだ。かといって、諦めたりはしない。
情報を元に<アーサー>が推察し、潜伏場所は徐々に絞り込まれていく。
こうしてる間にも、各地域へ飛んだ星騎士達から、次々と報告が入ってくる。
「E1区、発見できず」
「R2区、見つかりません」
「O7区、手掛かりなし」
「I0区、腕時計を見つけました。光太郎様の物と思われます」
もっとも、発信されていた位置情報により、腕時計は簡単に見つけられた。
光太郎の足取りには、つながらない。
捕まえた偵察兵から情報を聞き出し、アジトにしていた場所に部隊を急行させたが、もぬけの殻。
立ち寄った跡もなく、全ての資料はとっくに破棄されていた。
予想では、ミウはどこかの島に潜んでると思われた。
マゲイア潜航艇――全長約八メートル 全幅約三.七メートル。
光学迷彩機能があり、短時間の飛行も可能である。
海中にいる敵船を見つけるのは、監視衛星では無理。
そこで、特殊センサーや音響レーダーを積んだ機体が必要である。
パシフィス軍にはあるものの、特殊無人機の数は少なく、とり急ぎ生産中。
ミウも監視が強化されることは分かっており、無人島から動こうとはしない。
こうなると、捜索隊はアヴァロン中の島々を、しらみつぶしに捜す他はなかった。
女王達に焦りはあったが、ひたすら我慢していた。
感情のままに飛び出したところで、徒労に終わるのは目に見えている。
今は耐えて、機会を待つしかないのだ。
「ルカ、サイレンスからの連絡は?」
「朗報はないわ。あいつも怠けずに捜してるけど、小型漁船なみの大きさだと、見つけるのは難しいわ。五十メートル級の潜水艦だったら、楽勝なんだけど……」
「敵船は小さいからね……」
「そう深くは潜れないようだから、浅い水深でソナーを撃ちまくらせてるわ。でも、反応がない……」
「そう……はあー」
エリスとルカは、ため息をつく。
「民間の捜索隊からの連絡もなし……頑張っては、もらってますけど……」
「やっぱり、潜伏した可能性が高いの」
「だとすると厄介ね。手掛かりが掴めない」
「輝夜ちゃん、どうするの?」
現状、お手上げである。
行き詰まったので、ヒナが輝夜の考えを聞く。
「いずれ敵は、こちらに連絡してくるでしょう。それまで待つしかありません。そこで何らかの要求は、してくるはずです」
「交渉に応じるの?」
「ええ、光様の命には代えられません。反対する人は?」
「降伏だけはしないわよ!」
ルカが吼えた。
「流石にそこまではしませんよ。敵も無茶な要求はしないでしょう。恐らくは、捕虜の解放を求めてくると思います」
「問題はあのクソ……女が、約束を守るかどうかよね?」
「そうよね、マゲイアは信用できない」
「交渉しだいですが、光様を救出する作戦は立てておきましょう」
「光太郎さんに危険が及ぶ前に、敵を倒すべきだわ!」
「賛成なの!」
「そうですね。もし敵が姿を見せたら、実行します。私の力で狙撃するのも手ですが、光様を盾にされたら危ないので却下。となれば、こっそり近づいて倒すしかないので……ルカに任せます」
「やるわ! 必ずしとめてやる!」
「確かに、ルカなら適任ね。王の力で敵の動きを止めてしまえば、下手なことはされずに済む。海での交渉になれば、潜って近づくこともできるわね。私に異存はないわ」
全員がうなずき了承する。
「ただし、光様の身の安全が最優先ですよ」
「わかってるわよ」
輝夜はルカに釘を刺しておく。敵への怒りは、判断を誤らせるからだ。
泣いていた女王達は、今は烈火のごとく怒っていた。
憂さ晴らしに、ダーツボードにミウの顔写真を貼って、的にしている。
ミウは賞金首となり、手配書がアヴァロン中に出回っていた。
懸賞金は最高額、デッド・オア・デッドであり、捕縛無用。
捕虜達にはまだ寛容でいられたが、光太郎を撃ったミウを許すつもりはなかった。
「ここらで一旦、全捜索隊を引き上げます。ハリケーンが近づいてますから」
「そうね、星騎士達も疲れ切ってるわ。もう休ませないと」
「焦っても仕方がないわ。それと、捜索方法の見直しも必要だわ」
「夜も近いし、そろそろ限界ね」
「明日、また頑張るの!」
光太郎が誘拐されて、二日目が過ぎようとしていた。
台風が近づく中、帰還命令に従わない者もいる。




