イザベルの想い
これまでのイザベルの人生は、戦いの連続である。文字通り命がけで、国や民を守ってきた。
両親の思い出はおぼろげで、成長した時には騎士槍を片手に、戦場を駆け巡っていた。
姉のドミニクに従い、戦う日々である。そこには自分の意志も、現状に対する疑問もない。
敵を倒し生き残ることしか道はなかった。両親が亡くなる頃、一つの戦争が終わる。
一時、短い平和がおとずれるが、休む間もなく今度はマゲイアが攻めてくる。
前の戦争のダメージが抜けきっておらず、アヴァロンは苦戦を強いられる。
多大な犠牲を払って、マゲイアを追い払ったものの、今度は復興に尽力せねばならなかった。
長姉のドミニクが動けなくなったので、摂政として女王代理を務める。
国の人材は払底しており、イザベル以外にやれる者はいなかった。
激務をこなす中、イザベルは寂しさと孤独を感じていた。
苦楽を共にした戦友はなくなり、恐れ敬う者はいても気安く相談できる者は、誰一人としていない。
アンジェラはいたが、命を助けられてきた次姉に、黙って従うだけであった。
又、趣味や娯楽といった遊びに縁がなく、興味を持てなかった。
レムリア最強と褒め称えられても、灰色の人生である。生きるのが辛くなる。
「……何のために、私は生きてるの……」
疑問がわきあがる頃、姉のドミニクが亡くなる。マゲイアの再侵攻も迫っていた。
イザベルは決断し、自らを消そうと目論む。
心を鬼にしてエリスを追い込み、刺客を差し向ける。
「私も疲れました。エリスの力を覚醒できれば、ドミニク姉様も許してくれるでしょう。失敗したら、あの世で詫びましょう……」
エリスが王の力に目覚めるかは賭けであり、エリスが死んだら自死するつもりでいた。
ただしそれは、マゲイアを駆逐した後であり、戦死してもかまわなかった。
ところが事態は、イザベルの予想を超えてしまう。
地球とアヴァロンが繋がり、エリスが光太郎というディヴァイナーを得てしまった。
刺客の無人機が倒され、アンジェラまでもが不覚を取る。
驚いたイザベルは光太郎の元へ、直接会いに出向く。
そこには脅しても動ぜず、気さくに話かけてくる少年がいた。
「何だか死ぬ覚悟みたいですね? イザベルさん」
(なんて、鋭い子なんでしょう!)
死にたがってることを見抜かれ、イザベルはドキリとさせられる。
この時は、素知らぬふりをして逃げた。
逆にやり込められて、光太郎を気にかけるようになる。
そして、イザベルは決闘に敗れた。
まさかルドルフが壊されるとは夢にも思わず、光太郎の知略に感動する。
エリスからトドメを刺される寸前に、助けられて心が揺れた。
「強い……そして、優しい」
死に損ねたイザベルは、光太郎を本気で好きになっていく。
最初はからかいながら、ちょっかいをかける程度。
それが、エリスとアンジェラを見てるうちに、対抗心を燃やすこととなる。
「……ああ、私も一人の女なのね。妹や姪に、負けてたまるものですか!」
光太郎の性格も良く、嫌いになる理由がなかった。
「大丈夫ですか? イザベルさん」
時折、自分を気遣う言葉を投げかけられては、愛おしさが止まらない。
年下ゆえに母性本能が刺激され、「守ってあげたい」と常に思うようになる。
灰色の人生に、光が差す。
光太郎はイザベルに、生きがいを与えてくれたのだ。
その大事に思っている光太郎がさらわれて、ブチキレない方がおかしい。
「光太郎さんに手を出して、ただで済むと思ったら大間違いよ! 生まれて来たのをタップリ後悔させてから、殺してやるわ!」
「ヒ――――――――!」
アヴァロン最強騎士は、本気で怒っていた。報復せねば収まりはつかない。
アンジェラは姉に恐怖する。
百万の敵も逃げ出すイザベルに言われては、生きた心地はしなかった。
前にアトランティスの楓が、光太郎を襲った件では、かなり我慢をしたのだ。
ルドルフで乗り込んで、国ごと焼き尽くそうかと思ったほどだ。
光太郎が取りなし、輝夜の正式な謝罪もあったので、事なきを得る。
しかし、今回は譲れない。
やったのは怨敵のマゲイアであり、容赦する気持ちは欠片もない。
それこそ、八つ裂きにしても飽き足らなかった。
怒りを爆発させて少し落ち着くと、イザベルは軽く笑った。
「……ふっ」
「どうしました? 姉上」
「いや、光太郎さんなら『助けてあげて下さい!』と敵でも庇うのでしょうね。そう思うと、笑いがこみ上げてきました。光太郎さんは、誰だろうと優しいから……」
「……そうですね。だからこそ皆がこぞって、惹かれてしまうのでしょう」
「そうね、想い寄せる人が増えすぎて困りものですが……とにかく今は、光太郎さんを捜しましょう」
「はい、全力でやります!」
ただし光太郎が生きていなかったら、イザベルは悪神と化すだろう。
怒りのままに破壊、殺戮し、捕虜の命などは消し飛ぶ。
それはマゲイアを完全消滅させたとしても、収まらないだろう。宇宙すら壊しかねなかった。
本物の魔女となったイザベルを、止められる者はいない。
アンジェラは、姉の気持ちが痛いほどわかる。ゆえに願わずにはいられない!
「私もエリスも暴走してしまうかもしれない。光太郎殿、どうか無事でいて下さい!」
◇
「……うっ!」
光太郎は目を覚ます。慌てて起き上がろうとすると、脇腹に激痛が走る。
「いててて!」
しばし悶え苦しんだ後に落ち着き、無理に体を動かすのを止めた。
横になったまま、辺りを見渡す。
一面は砂浜、やや遠くに岩礁に囲まれた穴が見える。穴を通して波が打ち寄せていた。
ここは波の浸食によってできた洞窟――海食洞。狭い無人島の一部だ。
洞窟とは言っても、暗くジメジメしてるわけではない。
天窓は開いて日光は差し込んでおり、草木が生い茂っていた。
光太郎が寝てる場所にも日は当たる。それでも眩しくないのは、布の日除けがあるからだ。
布に棒を突き刺して作った簡易なものでも、十分役に立っている。
寝床も大量の葉っぱの上にシートが敷かれ、クッションになっていた。
ミウが作った病床である。
あたりに人気はなく、風の音と波の音しか聞こえなかった。
「……ここは異世界か……んなわけあるかい!」
一人で突っ込みを入れる。
「そう簡単に転生なんぞしてたまるか! 僕の物語が変わってしまうじゃないか!? ……まあいい、なろうテンプレの……現状確認をしよう」
体の痛みに苛立ち、声を張り上げて発散する。ようは八つ当たりだ。
光太郎は仰向けになり、記憶を思い出し始める。




