奮い立つ女王
「……これが、その時の状況だ……」
小玉は被っていたサンバイザーを外し、内蔵カメラに記録された映像を見せる。
空中に投影された映像は、女王達に更なる衝撃を与えた。
一旦は泣くのを止めて小玉の話を聞いていたのだが、光太郎が撃たれる瞬間を目の当たりにして、再び泣き始める。
「うわあぁ――――――――ん!」
「こ、光様が撃たれた……」
輝夜はビデオを見た途端によろめくが、気力を振り絞って踏ん張った。
一度目を閉じてから、声を張り上げる!
「いい加減、泣くのを止めなさい! みんな!」
輝夜の怒鳴り声で、泣き声はピタと止まる。
ルカでさえ、ここまで声を荒げた輝夜を見たことはなかった。
「光様は生きてます! 絶対に! みんなで取り戻すのよ!」
この言葉で女王達は我に返り、顔を上げて涙をぬぐう。
全員、立ち上がった。
「そうだ! そう簡単に光太郎が死ぬはずはない!」
「ヒナが、お兄ちゃんを助けるの!」
「海の底、地の果てまでも、捜すわ!」
「私のすべてをかけて、必ず見つけるわ!」
女王達は奮起する。
これを見て輝夜はうなずき、兜に内蔵されてるインカムで話す。
「イザベル様、あとは……お願いします……」
『ええ、輝夜さん。会話の内容はオープン回線で、全兵団に伝達しました。すでに星騎士達は動き出してます。あなたは、少しお休みなさい』
「……はい」
小玉の話が始まる前に、輝夜はイザベルに連絡していた。
報告する二度手間を避けるため、そのままマイクで会話を中継する。
光太郎誘拐事件は、全兵団および全国民が知ることとなり、心を痛める。
祝勝気分はすっかり抜けて、誰もが動き出す。思いは一つ!
「光太郎を、みんなで捜そう!」
一仕事をやり終えた輝夜は、よろめいて倒れかかり、小玉が何とか支える
「みんな……あとはお願い……光様……」
「輝夜――――!」
完全に倒れる前に有香が走り、気を失った輝夜を抱きかかえた。
張り詰めていた糸も、とうとう切れる。
人は衝撃を受けると、泣いたり騒いだりするものだ。
それは脳に致命的なダメージを与えないための、防衛機制というやつである。
ストレスを緩和せずに受け止めれば、精神が崩壊する。
輝夜の精神耐久力は、とっくに限界を超えていた。
気丈に振る舞っても、光太郎を心配する気持ちに嘘はない。
ルカも介抱に動こうとしたが思い留まり、少し考えてから動く。
「やることが違う! 今しなくちゃいけないことは……」
ルカは海の近くまで寄って、指で口笛を吹いた。高い音はどこまでも届く。
しばらくすると、海上に背びれが見えた。
その数はドンドン増えていき、ルカの近くに集まってくる。
一匹のイルカが海面に顔を出し、近づいてくる。ルカは額に十字傷のあるイルカを撫でた。
海のお友達である。
「お願いレモン、光太郎を見つけて」
レモンと呼ばれたイルカは分かったと言わんばかりに、顔を上下に動かして鳴く。
ルカは胸元から、光太郎の写真を取り出して放り投げた。
数十枚はあるだろう。それを惜しげもなくばらまく。
イルカ達はジャンプして写真を咥えた後、そのまま四方へ散らばっていく。
ヒナが森の動物達と対話できるように、ルカもイルカ達と通じ合える。
光太郎の捜索に力を借りることにしたのだ。賢くて海に精通した協力な助っ人だ。
ルカは次に通信機を使い、側近のパウラと連絡を取る。
「状況は分かってるわね、パウラ」
『はい、姫様!』
「パシフィスの全兵力、全無人機を投入しなさい。予備役や民間人にも協力を求めて、海という海を隈無く探しなさい。光太郎の捜索に死力をつくすのよ! いいわね!」
『御意!』
冷静かつ的確に指示するルカは、別人のようだった。
いつもは気ままに振る舞い、まわりに迷惑をかけているのが常だ。
それが女王らしく立派な行動をしたので、他の女王達は目を見張る。
(アホに負けてられない!)
ライバル心を燃やし、女王達は同じように自国に連絡する。
海はルカに任せるとしても、海岸線付近や内陸部での捜索はできる。
泣いても喚いても解決はしない。とにかく、今やれることを何でもやるのだ。
輝夜が倒れたことにより、皆が目を覚ましたと言える。
リーダーに甘えきっていたのを反省し、自分達でやるしかない。
「輝夜が目を覚ました時に、何もしてなかったら怒られるわよ」
「そうね」
一段落してから、みんなで輝夜を医務室へ運び、ついでに喧嘩傷の治療を受けた。
ここに来て気が抜け、忘れていた痛みを思い出す。
「いたた! あんたら、少しは手加減しなさいよ」
「それは、こっちの台詞なの!」
「ホント、ホント」
◇
レムリア城、ブリーフィングルーム。
輝夜から連絡を受けて、イザベルとアンジェラは光太郎誘拐事件を知る。
二人は泣いたりはしなかったが、アンジェラはかなり動揺した。
「あ、あ、姉上! こ、光太郎殿が――――!」
「見苦しい! 落ち着きなさいアンジェラ!」
「は、はい! すみません!」
イザベルが拳をテーブルに叩きつけると、分厚いテーブルは音を立てて壊れた。
アンジェラは息をのむ。見れば、イザベルは憤怒の形相。
いつもは冷静で、感情を出すことは滅多にないのだが、今は激しい怒りをあらわにしている。
(ここまで怒ったイザベル姉様は、生まれて初めて見たわ。怖い……)
女王達だけでなく、イザベルにとっても光太郎は、特別で大事な存在だった。




