幽閉された少女は前世の記憶を活用しました
ベルツァー王国という国がある。
その王国のとある領地のとある屋敷に、幽閉されている少女が居た。
彼女の名前はリヒャルダ・フュルスティン・フォン・ヴェルツェル。ヴェルツェル侯爵家の次女にあたる。
彼女は少々特別な人間であった。
彼女はこの国が辿る運命というものを知っているのだ。
それは彼女が神に愛された、未来を見通す目があるからーーではなく。
彼女には前世の記憶があったからである。
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約2年前、リヒャルダは決意した。
幽閉され、屋敷から出ることが出来なくなった14歳の少女は追い詰められていたのだ。
だから彼女は、決意した。
前世の、漫画であったこの世界の記憶を活用し人々を崇拝させ利用させ、この屋敷から出て伯爵を陥れてやるのだと。
だからこそ神になるのだと。
勿論そこまでする必要はないのだが、「1度やるなら徹底的に」がヴェルツェル家の家訓である。何よりも中途半端に終わらせてしまえば、またボロがでてしまうのではないかとリヒャルダは危惧していた。
そしてリヒャルダには恐れていることがある。
世界が辻褄を合わせるために、ーー所詮、修正力というものだーー全てがご破算になってしまうことだ。
前世の記憶にある漫画のヒーローであった第二王子は、リヒャルダの姉と婚約していた。まあそのことでリヒャルダの姉は悪役と化してしまうのだが……そこにリヒャルダという少女は居なかった。
否、正確にはリヒャルダという名が出て来たことはなかったのだ。
「床に伏せている病弱な妹」という表記が出て来たことはあった。遠い地で療養中であり、第三王子の初恋の相手であると。その第三王子を可愛がっている第一王子の口添えによりヴェルツェル家の長女以外の処遇は軽減されたとされている。
ヴェルツェル家の運命を握った存在であるにも関わらず、名前が出て来たことはなかった。勿論悪役のその後に興味がないと言われれば仕方が無いのだが。
リヒャルダに姉妹は姉しか居ない。
そしてリヒャルダは病弱ではなかった。否、その昔ベッドから出られなかった時期もあったが、前世の記憶を駆使して健康な子供へとなったのだ。
つまり、漫画に存在した「病弱な妹」が居なくなってしまったためにその代わりとして自分は幽閉されているのではないかとリヒャルダは思ったのである。
うっかり内乱のことを口にだしてしまったとはいえ、たかだか一令嬢如きを警戒するなど考え難い。
そちらのほうがまだ納得がいくとリヒャルダは考え直した。
ーーもし、またこのようなことが起きてしまえば?
神と名乗る上では都合がいいのは確かである。
しかしながら神とさえ名乗れなくなれば意味がない。
けれど他に道がないのも事実だ。
世界を恐れ国の動向を警戒しながらしていくしかないと、改めてリヒャルダは決意した。
そして自らにしか解らない言語でノートに漫画のことを纏めあげ、その上でこれから起きるであろうことを考察し、どの順序で言葉を紡げば良いのかを考え抜いた。
ファンブックまで購入していた前世の自分に感謝の意を表しつつーーそしてリヒャルダはついに行動にでた。
最初の標的は侍女である。
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ーー随分、上手く進んだわ。
リヒャルダはそう思っていた。
調子に乗ってやり過ぎた、とさえ思っていた。
最初は疑っていた侍女だったが、実際に言った通りの出来事が起こると掌を返したように態度が変わった。
次はリヒャルダが幽閉されていた屋敷の従者達。
そしてその家族、家族の友人、上司、などと言った具合に、どんどん広がって行った。
流石に隣国の信者まで出来てしまったのは予想外であったが。
結局幽閉されていた理由はとある子爵家の子息に一目惚れし、家出同然で相手方の家に住んでいるーーということになっていた。リヒャルダの実家は国王派であり子爵家は教会派であったために結婚ということにはなっていなかったーー尤も、今はその子爵家はリヒャルダの信者であるーーが。
勿論そんな事実はなかった為に即刻屋敷を出た。しかしこのような状態では前のような家族関係を築くことは不可能だろうと思い、新たな屋敷に住んでいる。
国の重鎮の数名も信者と化しているリヒャルダに、もはや敵など居なかった。
そこを利用し国の環境を改善、設備を整えさせたりと色々なことをして日々を過ごしていた。
最終的に国王すらもリヒャルダを崇拝し、国教となり内乱どころではなくなるのだがーーそれはもう少し、先のお話。
ここで主人公しか登場していないことに気付く