2人の思惑
「じゃ、行ってくる」
マリからもらった服を着た桃太郎は腰にきびだんごを入れた巾着袋をつけ、そう言ってドアを開け出て行こうとしたが、立ち止まって一言、
「図鑑完成を目指して」
そう言ってからドアを閉めた。
「お前は何年旅する気でいるんだよ!」
多分聞こえていないだろうとは思いつつ、陽太はそう叫んだ。
「ふう、やれやれ…。声が枯れそうだよちくしょう…」
「お疲れ様、はー●みっつきん●んのど飴♪ でもなめる?」
マリはそう言ってのど飴を差し出してきた。
「気遣いはありがたいけどこれ以上俺に突っ込ませないでくれ、しかもそれ龍角散だし」
陽太はぐったりしながらもそう答える。事実、マリが持っていたのは龍角散だった。
「そこは黙ってスルーするのが男の優しさってものじゃない? 突っ込むだけが全てじゃないわよ? せっかくあなたの彼女が気遣ってあげてるんだから」
「……ああ、ありがとな。あいつのせいでツッコミが癖になっちまったんだよ。 ……なぁ、あいつちゃんと財宝探し当ててくんのかな?」
陽太は心配そうな目でマリを見るが、
「……実際どうなのかしらね。何か童話で見た桃太郎とは全然違うし、多分あの子が連れてくる家来も元の話とは全然違うものになるんじゃないかしら? そもそも、いない鬼をどうやって退治しに行くのか、見物よね」
「おい! じゃあ何であいつに協力しようと思ったんだよ?」
あれだけ協力的だったマリでさえも桃太郎を信用していた訳ではなかったようである。ふふふ、と怪しげな笑みを浮かべるマリに疑問を思うままにぶつける陽太。すると、
「えっ、だって面白そうじゃない、あの子。結局きびだんごさえ作ってあげればいったんはこの家から出てってくれる訳だし、そのくらいならいいかなって」
「お前なぁ……」
「てへぺろっ」
大抵のことは許される、ということで噂のその言葉ですべてをなかったことにしようとするマリ。いわば彼女の武器2とも呼べるべきものだ。
「それに、もしかしたら、あいつが戻ってくるかもって、ちょっと思ったのよ。あたしたちの家から出てったあいつがね」
今度は一転真面目な顔になってマリは言った。
「……それは都合の良すぎる解釈だと思うけどな。しかし元気にしてんのかな、あいつは?」
陽太は窓の外を見上げる。空はわずかに曇っていて、雨が降りそうな天気となっていた。
(とにかく、あの胡散臭い童話の主人公の帰りを待つっきゃねーか……。何も起きなきゃいいんだがな……)




