桃太郎の鬼退治② 桃太郎にとっての鬼
「クロはねぇ、あたしたちが一緒に住み始めた時に飼い始めた黒猫だったの」
家に上げてもらった一行はそんな話をマリから聞いた。黒猫はバツの悪そうな顔で部屋の隅に座っている。
「いつもあたしたちは優しく接していたつもりだった。でも、それが嫌だったのかな、一か月くらい前に急にいなくなっちゃったの」
「俺たちはいくら探してもそいつに出会うことはなかった。だから諦めてたんだが……」
「……そうなのか?」
陽太とマリの発言を聞いて、桃太郎は黒猫に尋ねる。
「……ああ、俺は確かに何不自由ない生活を送ってた。でも、そんな毎日に嫌気がさした。だから刺激を求めて外へ出てった、それだけのことさ」
「クロ……」
桃太郎はマリが落ち込むのかと思っていたが、
「やっぱり喋るのね」
「そっちかよ!」
そんな第一声を聞いた陽太は思わず突っ込んだ。
「いや、だって戻ってきてくれたんだもん、それで十分じゃない。顔が見られただけでもすごく嬉しいわ」
「……それもそうだな」
陽太はホッとしたような顔をしてから、今度は桃太郎の方へと向き直る。
「で、今度はお前か。家来集めは終わったんだろ? 鬼退治には行ってきたのか?」
ところが、桃太郎はそんな感動のシーンなどなかったかのように、邪悪な笑みを浮かべてこう言った。
「鬼? それはお前のことだよ! かかれお前たち! 思いっきりやっていいぞ!」
すると先ほどまで黙っていた鳥四羽が一斉に陽太に飛び掛かり、陽太の全身をつつき始めた。
「い、いてててててて! おい桃太郎、これどういうことだよ!?」
「簡単な話さ。お前だって鬼の居ぬ間に洗濯ってことわざくらいは聞いたことあるだろ? あのことわざでは鬼って言うのは自分にとって目の上のたんこぶである奴のことを指す。俺にとってのそれはお前だから、家来たちにお前をやっつけてもらう、それだけのことさ」
「くそっ、確かに鬼は倒したことになるが……。これじゃあ財宝なんか手に入らないぞ!」
桃太郎の説明には一応納得できる点がなくもない。この桃太郎はそもそも元の桃太郎の話の概要をなぞっているだけにすぎないのだ。生まれた場所は平屋ではなくマンションだし、犬猿雉の家来は猫鳩鴉に変わってしまっている。しかし、これでは宝が見つからないはずなのだが……。




