エピローグ
連日更新最終日。
こうして地球圏に帰りついた雷太はさっそく調査レポートを書きあげ提出した。
余談であるが、このレポートはデジタル媒体とアナログ媒体の両方を残しておく事が義務付けられている。
アナログ媒体は手書きでなくともよく、また何らかの非常時においてデジタルデータが消えてしまった場合に使われるため、極端な話し、金属板に文字を掘り込んだものを提出しても受理されるのだが、そこは一応組織であるため、規格に沿った強化ペーパーに規格に則ったインクを用い、規格に則った文字のサイズで印刷されたものが推奨されている。
レポートとともにスーツに自動記録されていた映像情報を提出すれば、雷太がすることはあとは待つだけだ。
世知辛い話し、組織の中においての雷太の地位はいまだ末端の調査員でしかない。
それも実は、新しい探索体勢の実験として、半ば捨て駒のように単身で送り込まれた人員だったのだから、本来ならば発言権などあってないようなものだ。
それでも今回の、魔法という新技術体系の可能性を見つけ出し、しかも自力でその一端を身につけてしまった時から、現状ではという但し書きはつくものの地球圏で唯一の人材になってしまった。
それに加えて二体のアルフェーイという魔力生命体が懐いている唯一の人物でもあるという事実が、色々な段階をすっ飛ばして上層部にいう事を聞かせるいい材料となった。
いう事を聞かせる、と言えば物騒だが、雷太個人が組織に向けて抱いている要求というものは特にない。
以前にも述べたように、この社会はどんな容姿であれ人格を持つと確認できる者にはとても優しく、易しい構造になっている。世間の風潮も同様だ。
カッシェルフやアルカンコー族は当然の事、アルフェーイにもちゃんと人間扱いして接してくれというのは今更あえて言うべき事ではないのだ。
だからその辺りは、あまり心配していなかった。
そして肝心の魔法技術であるが、地球に帰ってきてからも大きな問題は特になく、何もない所から氷や炎を出現させる事ができた。
その際にイリュートロンが発生する事も、スーツに備え付けられているような簡易的なものではなく、しっかりとした研究室に、しっかりと設置されている、しっかりとした解析装置によって、しっかりと観測できた。
とはいえ、問題が全く出なかったわけではない。
魔法を行使した後の魔力の回復が向こうの世界にいる時よりも極端に遅いのだ。極端に遅いと言っても全く回復しないわけではないためペース配分を考えれば実験に協力するくらいの事は続けられるので、小さな問題だ。
他には、どれだけ雷太が親身になって教えても、さらにジェシカとサザンカが協力しても、新たに魔法技術を習得できる者が現れないという事くらいだろうか。
これについては、もともと雷太にそういった素質があったせいではないかという声も、組織内からはあがっているが、雷太自身は地球側の宇宙にいる限りはおそらく無理だろうと初めから予想できていた事なので楽観視しているし、アルフェーイたちもそのような事を言った。つまり逆に言えば、向こうに行けば誰でも使えるようになる筈なのだ。無論、個人差はあるだろうが。
それでも強いて要望を付け加えると言うならば、今後、本格的に調査と開発が進められるとともに、多く発見されるだろう新物質や既知の物質の新形態などに、できる限りファンタジックなネーミングをしてほしい、というくらいだろうか。この辺りは雷太の完全な趣味であるためさほど強い要望ではなかった。
これらの報告と要望も加味した上で、世界のあり方すら揺るがせかねない世紀の大発見をどう扱うか、開発機構は決断する。
まず、対象の平行宇宙への命名を行った。
マギ宇宙。
実にシンプルで、シンプルすぎて始めは賛否出たものの、後にマギ系宇宙第一号マギなどとも呼ばれるようになって当たり前にになる。
さらに持ち帰られた新技術は、発見者の意向を採り魔法技術と名づけられる事になった。
このマギ宇宙の調査を続行し、開発の目処をつける。これが最優先決定事項となった。
魔法技術は一度習得してしまえば地球側の宇宙でも使用可能になるが、雷太が考えるように習得そのものはマギ宇宙でしか行えない。魔法技術の使用者を増やすためにも、マギ宇宙に安全な拠点を作る事はいち早く進められるべきことだ。
次に、魔法技術の研究ならびに速やかな体系化は最優先と同時に進められるべき命題とし、体系化が確立した場合は「その利益を得る権利」を競売制にて競り勝った出資者に提供する。
ここで重要となるのは、出資者が得るのはあくまで魔法技術によって出た利益であり、技術の占有権は並行宇宙開発機構にあり続けるとういう点だ。この占有権は西暦時代より脈々と続く特許権の制度にのっとって管理され、失効と供に占有権は消滅し、いかなる個人・組織もそれら技術を独占する権利を持ち得ないものとする。
しかし開発機構はこの知識と技術を組織内にとどめ秘密にするつもりはなく、むしろ積極的に広めていこうと考えていた。
それはこの魔法技術がもたらす恩恵は全世界に平等に分配されるべきものであり、それこそが地球人類の更なる躍進を生み出すものである。魔法技術の性質からしても、個人・一組織が狭い規模で独占することは、高い確率で技術体系の分化、多様化を妨げる結果にしかならない。という並行宇宙開発機構の公式見解からのものだった。
そして、
「思いのほか、早く帰ってきたな」
もろもろの健康診断や事務処理などを終え、三日後に雷太は再びマギ宇宙へと帰ってきていた。もちろん、二体のアルフェーイも伴って。スーツも新調されより高機能なものになっていた。
「しっかし、どこだここ」
雷太が地球側の宇宙に帰っている三日間にいくつか観測用の人工衛星が送り込まれたはずだが、まだまだ抜けている部分が多いせいで現在位置がとっさにはわからなかった。
「メンバーともばらけたみたいだし……」
しかも二度目の到来は一人ではなく六人一組のチームだった。
何らかのショックで転送座標が予定よりだいぶ離れてしまったようだが、全員分のシグナルは拾えているので、合流はたやすいだろう。
「ま、なんとかなるだろう」
とくに気負いもなく雷太は空を見上げた。一度目と同じように森の中に転送されたようだったが、こんどは上手いこと昼間の森に飛べたようだ。
木々の枝葉の合間に見える、地球とあまり変わらない真っ青な空を見上げながら、雷太は特になんの気負いもなく、期待に満ちた笑みでそう呟いた。
彼が、彼らがであうべき出来事は、まだまだたくさん残っている。
魔法の世界は始まったばかりだ。
これにてひとまずは完結です。
まあなんというか、一種の打ち切りエンドですがこの辺にも理由がありまして、詳しくは活動報告のほうにあとがきのようなものを投稿する予定ですので、興味がある方はそちらをご覧ください。
いいか! 興味がある人だけだぞ! ある人だけだからな!




