11日目 最終日・その9
連日更新二日目
満腹になるまで、とは残念ながらいかなかったが、十分に空腹を紛らわせるだけの焼き魚を食べて雷太の顔にもようやく余裕が戻った。そこでリューネも安心したのかまだ建設途中の新しい里のほうに戻っていく。
雷太は、あの時、長老クオンの横でリューネがどの辺りまで察せていたのかが気になっていたのだが、自分でした変な質問のせいで尋ねるタイミングを失ってからなんとなく尋ね辛くなり、わけもない妙な空気感を紛らわせるように焼き魚を頬張っているうちに会話が終わった、というような状況だ。
しかし、まあいいだろうと雷太は思う。
アルカンコー族の種族としての文化レベルは低いといわざるを得ない。平均的な知能もそれに準じるが、飛びぬけて高い知能を持てる者が既にいるという事は、種族的に知能が高くなり得ない相手ではない、という事の証明だ。
現在の地球圏では、太陽系外からの知的生命体とは未だに接触を持てずにいるが、地球型の惑星はおなじ天の川銀河内にすら無数に発見できているため、未だ確認できずとも、確実に居はするだろうというのが定説になっている。
外宇宙より先に並行宇宙に手を伸ばせるようになってしまった地球人類だが、実は、霊長類以外の知的生命体とは既に交流を始めていた。いや、「霊長類以外」ではなく「元霊長類」と言うべきだろうか。
要はサイボーグ、肉体のほぼ全てを機械化してしまった人々だ。
そうなった人々の経緯や事情は様々で、止むに止まれずそうなった者も居れば、自ら進んでそうなった者もいた。ところが問題はそこではない。時間をかけ脳細胞のひとかけらまでゆっくりとだが完全に機械化した者が現れたせいで、それまで水面下で繰り広げられていた「人間」という言葉の定義をどこにおくべきかという議論が激化し、あわや人類史最後の大戦がおきかけた。
いろいろあったが、それは世界大戦と呼べるほどの規模になる前に鎮火され、うっかり人類滅亡のトリガーに――などという事にもなっていない。
「人間」や「生命」という言葉の定義を完全に定めるにまではまだ至っていないのだが、先の小競り合いの終わり際に「人権」ではなく「人格権」という言葉が重要視されるようになった。いかなる身体的特徴を持つ者でもそこに「人格」が、「理性」と「知性」が存在する限り人間として扱うべきである、という思想が主流に食い込みはじめたのだ。
要は、例えどこからどうみても鉄の箱みたいな見た目の奴でも、話しが通じる相手ならばとりあえずは人間として接しましょう。という話しである。
ジェイムスンも大喜びだ。
この考え方が主流になりはじめたせいで、地球上のいろいろな街やスペースステーションにて、自動販売機と会話しようとする子供の姿が増えたというのはささやかな笑い話だが、“人権派”ならぬ“人格派”弁護士などという半ば冗談のような言葉まで使われるようになって実は久しく、この考え方があったおかげで、雷太の先駆者たちが別の並行宇宙にて先住民族と遭遇した際に、無駄な争いを避けられたケースがあったのは間違いない。
今の地球圏の風潮がこうだからこそ、雷太はカッシェルフは勿論のこと、アルカンコー族が後続の調査隊から不当な扱いを受けるかもという心配をしていなかった。
同様に、アルフェーイたちにもである。
そう、アルフェーイだ。
「お前らにもけっこうな世話になったなあ」
雷太がひとまずの別れの挨拶をすべき相手はもう一人と二体いる。一人は言うまでのまくカッシェルフだが、輝紗螺との同時通信以来どういうわけか音沙汰がなくなった。あの元気な老人の事だから万一の事もないだろうし、彼のもとにはジェシカとサザンカと同等の能力をもったアルフェーイたちが大勢いるのだから、万一があっても大丈夫だろうと思っている。
だから、ひとまず礼を言うべきは目の前にいる二体へだ。
「話しはずっと聞いてただろうから、今更説明する事もないだろう。俺は一度、俺の故郷に帰る」
サザンカはとくに何の意味も持たない明滅を繰り返すだけで、ジェシカもモールスは使わず緩やかに踊るだけだった。この様子だけみると、彼女らに知性かあるとはあまり思えない。精々で人になつくタイプの獣のレベルだ。
だが雷太は勿論しっているし、スーツの記録媒体にも彼女が明確な意思をもって言語を用いた様子はしっかりと記録されている
彼女らの行動から察するに、あまり具体的な意思は示さず感覚で生きているようなところはあるが、雷太の目的が調査である事を理解し雷太単身では無理だった小川の源泉内の調査を買って出たり、膨大な熱量をもっていた“糞喰らい”に対抗すべく自らの判断で大量の水を操って持ってきたり、瀕死のゴンゾの命をつなぐべく心肺機能の補助を提案し実行したり、現状のアルカンコー族よりも高い知能を持っている事は間違いない。
いったいどういう存在なのかを科学的に解明できるかはわからないが、彼女たちが持つ魔法の力もあいまって、彼女らが不当に扱われる事はむしろアルカンコー族よりも少ないだろう。
古くはピーターパンの童話の中に、他にも西暦の二十世紀から爆発的に流行ったデジタルゲームの中にも意思を持った光点の存在は多く確認されているから、案外受け入れられやすいだろう。もっとも、それらの存在は拡大して良く見ればじつは人の形をしていました、というのがほとんどだが。彼女らに関してはそうなるのかまだわからない。
「ん? もしかして、ついてくる気なのか?」
ふと、彼女らの動きに感じるものがあって尋ねてみる。すると、悪巧みがバレた時の子供のように、ギクリと動きを止めた。
「ダメだぞ。お前らが転送のショックに耐えられるかもわからん。仮に突破できても、そもそも俺の世界にはまだ魔法というか、魔力そのものが無い可能性がある。もしそうだったら、魔力の塊みたいなお前らが生きていられるかわからん。いろいろ調べがついて、大丈夫そうなら俺の世界に招くこともあるかもしれんから、それまで待つんだ」
しかし二体とも、光をそろえて「ヤだ」と訴えた。
「そんな子供みたいな事を言うなよ……俺ぁうっかり友達を絞め殺すようなマネはしたくないぞ……」
彼女らの構造も、こちらの宇宙とあちらの宇宙の差異も、何もかも謎だらけだ。雷太は迂闊な事をしたくない。しかし二体とも、やはり光をそろえて「大丈夫だ」と訴える。
「いったい何を根拠に……」
すると、ジェシカは頑なに点滅しながらとにかく大丈夫なのだとしか訴えなかったが、サザンカはわりと理論的な事を並べ始めた。
一つに、雷太が今もう魔法を問題なく使えているという事。
彼女らから言わせれば、魔力とは非常に相性の出るものである。アルカンコー族が蓄積症を発症したのも、本来彼らが内に抱えた魔力の弱さもあったが、相性が悪いせいが大きかった。アルカンコー族が本来もつ魔力は大地の属性、そこに「糞喰らい」が火炎の属性を持ち込んだ事が発症に繋がった、という。
さらに、確かに雷太がいうようにアルフェーイは魔力の塊のような存在ではあるが、別に魔力が存在しない場所でも問題なく活動できるらしい。それは彼女ら自身が身をもって体験したという。
「どこで?」
尋ねれば、答えは前にも聞いたことのある話しだった。
過去に、彼女らは無限の電池として使われていたのだ。彼女らを電池化するためのカートリッジの中身は、魔力がゼロどころかマイナスの状態だったという。それでも彼女らは一時的に行動不能になっただけで、今もこうして生きて活動している。
「いや、だがな……衝撃が……」
並行宇宙を隔たる壁を越える際の衝撃に、耐えられるかわからない。こればかりは彼女らにも全くの未知数であるはずだ。
「それも、大丈夫だってのか?」
彼女たちは言う、世界樹の守りがあると。
「世界樹……?」
そこで雷太はハッとなってウェストポーチに手を突っ込んだ。一つ、情報化せずに物理のまま保存していた大きなドングリ。けっこうに奇跡的な確率で、雷太の脳天の直撃した、あの巨大な樹の種子だ。
「これか?」
雷太が持ち上げて見せたところで、二体のアルフェーイはその種子の中に飛び込んだ。
その途端、雷太の手の上のドングリは黄金の光を放つ。
「うおっ」
思わず目を細め顔を背けるが視線は外しきれない。ゆっくりと発光が収まると、手の上のドングリはまた元通りになっていた。
「?」
何が起きたかわからず首をかしげていると、中からひょっこりと、まずジェシカが現れる。
「これで、大丈夫だ、と?」
サザンカも出てきて、一緒になってそうだそうだと縦に揺れた。
「いや、しかしだな……」
大きなドングリが光ったくらいでどうにかなるはずは無いと思うのだが、彼女らの意思は硬いようだった。質量が限りなくゼロに近い彼女たちなら、どれだけ気を使ってもいつの間にやら雷太の体にひっついてくっついて来るだろう。
「うぅーむぅー……どうなっても、知らんぞぉ?」
釈然としないものはあったが、なし崩しに雷太が折れるのは仕方ない事だった。
帰還可能時刻まで、あと約8時間。
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人生経験のわりに普段の言動が子供っぽい人って居ますよね。
むしろ昔、色々と辛い体験をした人ほど子供っぽい一面を持っているとも言えるかもしれません。
まあ全員が全員そうなるわけじゃありませんけどね。 というか、そういう人は少数派だとも思っています。




