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11日目 最終日・その7

 この星の一日は地球と比べ長い。今まで雷太が足で稼いだデータと、複数の無人機から観測したデータを総合してもまだ足りず、暫定的にだが出された計算では直径が地球の五割増しほどある。しかし重力は地球とほぼ同等。標高と緯度によって偏差が生じたが、先遣の調査隊員である雷太が持っている大雑把な観測機器だけでは単なる誤差ともとれるレベルの差しかなく、地下に眠る鉱物資源の分布でもこのくらいの差がでる。


 星が大きく重くなれば重力も当然増えるものだが、この辺りのメカニズムは不明である。ただ雷太は魔法がある世界なのだからどうとでも説明がつくだろうと簡単に考えている。


 直径が大きいという事は自転速度が地球と同じでも一日の長さは変化する。実際のところ、自転速度が地球とくらべてどのくらいなのかはまだ観測できていないのだが、事実、この惑星の一日はおよそ28時間ほどである。



 その長い一日の中で、アルカンコー族は二回しか食事をとらず、内容も全く別だ。鹿の見た目にたがわず、彼らが口にするのはほとんど草のみである。それでもこの草原の生えている草のほとんど全てが彼らの食料なのだから、普通に考えれば食料に困ることは無いはずであった。


 その点から考えても、悪性魔力蓄積症の原因となった「糞喰らい」と呼ばれる巨大ミミズの影響は、彼らに大きなストレスを与えていたことは間違いない。


 結局、変色した草が病気の直接的な原因ではないとわかったものの、今まで緑だったものが徐々に黄色くなっていき、それと同時期に大勢の仲間が不調を訴え自力では立てないほどにまでなってしまう。


 異変の時期が重なればそれらを関連付けて考えてしまうのはある自然なことであり、知識の無かった彼らにとっては変色した草こそが病の原因であると短絡的に考えてしまってもなにも無理はない。


 そうして今まで当たり前に、限りなくあるだろうと思っていた自分たちの食料が、わずかな期間で全て食べられなくなってしまったとなれば、そのショックとストレスは太陽系の他惑星にまで版図を広げ、今こうして並行宇宙にまで手をかけはじめている地球人類でもたやすく耐えられるものではない。


 楽しみに取っておいたプリンを取ろうと冷蔵庫を開けて見れば影も形もなくなっていた時などとはショックのレベルがあまりに違うのだ。なにせ生死に直結するのだから。ベクトルとしては、同じものだが。



 実は雷太がこれ以上の滞在延長を行おうとしないのも、いや、行えないのもこの辺りに関係している。


 霊峰ジェンボの山頂、カッシェルフの屋敷にいた間はちゃんと雷太も摂れる食事が出てきて、予定と残量とが見合わなかった食料を節約する事ができていた。また、屋敷にあった資料により、霊峰ジェンボの周辺をうめつくす広さをもつという森林地帯にも、雷太が食事できる植物が豊富に自生していることも知っていた。


 それに加え、スーツのフィジカルアシストをもってすれば、歩く、腕を振る、身を起こす、といった日常動作でどうしても消費してしまうカロリーも抑える事ができ、その辺りを考慮すれば手持ちの食料でも十分に調査活動を続けながら、帰還装置がこの並行宇宙へ適応化されるまでもたせられるだろうという算段だった。


 ところが、計算よりずっと早く森林地帯を抜けてしまい、その先にあったこの草原地帯には雷太が食べられるものが一切なかった。その上、緊急時には食料としても使える濃縮ブドウ糖ゼリー(ウィ○ーインゼ○ーの濃いやつ)を治療のために消費してしまった。


 それでもまだ、フィジカルアシストをフルに活用し日常動作から外れすぎない行動を心がければ、空腹感は否めないものの計算上ではまだ辛うじて行動に支障のない程度のカロリーを保ち続ける事ができる見込みだったし、治療行為くらいならば日常動作から大きく外れるものではなかった、ハズだった。


 そこに来たのが、糞喰らいと呼ばれる巨大なミミズと、ガッポォと呼ばれる原住草食獣の群れの相次ぐ襲撃だった。


 かくしてスーツのフィジカルアシストは1の仕事を小数点以下の力で行うのではなく、1の力を100の仕事にするために発揮され、結果、人的被害なく難をしのいだものの、一番の苦労を買って出た雷太にはひどい空腹をもたらしたのだ。



「と、いうわけだから、俺が帰っても病人については何も心配しなくていい」

「は……は……もづごづ、ごづん感謝ん言葉だ尽ぐすづん、尽ぐだんづす」


 再起動したリューネに再び説明すると、リューネではなくクオンの方が深々と頭を下げた。リューネの方はジッと雷太を見てなにかを逡巡しているようだった。そんなリューネに真っ直ぐ見つめられながら、雷太は「やはりこの子は賢いな」と思う。


 コロンブスが北アメリカ大陸を発見した時、それまで全く未開の種族であったネイティブアメリカン、当時はインディアンと呼ばれた彼らがはじめ一方的に搾取され奴隷化されたのは、彼らが友好的であると同時に文化のレベルに差がありすぎたためだとも言われている。


 文化のレベルに絶対的な差があるならば、そもそも議論や論争というものは発生せず、説き伏せられる側というのは自分が説き伏せられているという事すらわからないまま一方的に不利な状況へ追い詰められる。もちろん雷太はリューネをはじめとするアルカンコー族から一方的な搾取などするつもりはないし、雷太の上司もそんな事はしないだろう。


 だがこの場においては、説明される側は説得する側のやることなすこと全てに圧倒され、なんの疑問ももたずに議論などなくすんなりと納得してくれるのが普通だ。頭を下げ、ただただ感謝の意を表すクオンのように。


 ところがリューネは違った。今まで、雷太とリューネが議論を交わしたことなどは無いが、雷太が横目で観察する中でリューネはたびたび自分で考え判断し行動していた。全くの言いなりで助手をしていたわけではないのだ。


 おそらく彼女ならば鋭く的を射た質問をしてくるだろうと雷太は思っていた。コロンブスのように後ろめたい気持ちなど何もないから何が来ても答える事はできるだろうが、あまり長引くようなら強引にでも話しを終わらせたかった。



 なにせ、いま雷太は腹が減っている。


 雷太は腹が減ってもあまりイライラしないが、思考力が著しく低下し、ぶっきらぼうになるタイプの人間だった。だからこそ、これからリューネから来そうな質問を考え、答えを準備するのが面倒でたまらない。


 たまらないのだが、リューネの真っ直ぐな瞳を見る限り、おそらくこれから来る質問には答えなければ完全な納得は得られないだろう。雷太は減った腹を括ろうとする。ところがリューネは一度長い瞬きをし、


「わかりました。賢者さまに従います」


 流暢な言葉とともに、頷いた。



 帰還可能時刻まで、あと約15時間。

 誤字・脱字などのご指摘、ご感想をお待ちしております。


 ろくに教育を受けられない環境にあっても、賢い人はとことん賢いです。

 理不尽ですね。

 ただその理不尽は、どちらにとっても、ですが。

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