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11日目 最終日・その4

 旧集落跡地から潤沢な建築資材を持ち帰ると、里の男たちは若者と大人たちが協力して新しいテントを作り始めた。


 雷太はアルカンコー族のテントの建て方を学習、記録する。


 当然ながら未知の部族がもつ未確認の建築方法だったが、こういった物理的な技術はどこに行っても同じような最適化がなされるものだ。地球にも似たような建築様式のテントを持った少数部族が文化保護の名目のもと残っていた。


 しかもアルカンコーの技術は雷太が思っていた通りロープの結び方すら使い分けられない未熟なもので、一応の記録はしたがおそらくかれらの生活する様子を知る資料の一つとしてしか使われないだろう。



 ちなみに地球に残されている部族の方も、もはや純血など保っておらず、それどころか、月給制で日に何時間かは昔ながらの部族の生活様式に沿った形で生活する、という仕事としてそれを続けている。ドライな言い方だが彼ら部族の生活様式から学び取って役に立つ技術は既にただの一つも無く、現代社会の科学技術は完全に当時の上位互換だからだ。


 それでも残されているのは、たまには原点回帰して心をリフレッシュしよう、だとか、昔の人たちの不便さを知って今の便利さのありがたみを知ろう、だとか、娯楽提供のための形態の一つと、社会勉強のための資料としての価値しかない。



 魔法という全く未知の法則を持った現象、それを含まない以上、とくに目新しいものはアルカンコー族のテント建ての風景からは見つけられずじまいだ。


 貴重な残り時間を、少しもったいなく使ったかなと思ったが、今回の並行世界への転移で得られた成果は既に十分に大きく、多かった。


 魔法という存在の発見と習得だけでも十分な価値があるし、過去にそれらで栄えた文明が存在していたという事実も重要だ。おそらくそれらの文明の残滓である遺跡はもちろんの事、いまだに辛うじて使われている施設にも期待できる。


 それら既存の魔法技術を解析し体系化、さらに欠点を補えれば魔法という技術を、現状でも未だに人類が抱える多くの難題を打破するカンフル剤に、いやむしろ、主力として使いこなすまでの時間を爆発的に短縮できるだろう。


 それに加えて、アルカンコー族という霊長類以外の生物からの知的進化形態の発見。その生態を詳しく知れる機会を得た事。


 さらに、地球とよく似た環境であるにも関わらず、全く違った生態系をもつ原住生物群の観測。


 細かく挙げればキリがない。


 だから雷太はこう考える。取れ高はもう十二分だ、そもそも地球時間での七日間分という予定で組まれていたこの異世界への滞在期間を、機材トラブルによっておよそ倍ほどまでオーバーしているのだから、あとはもう休暇みたいなものなのだと。


 テント一つが建てられ終えたのを見届けた雷太は、今のうちに一つ重要な事を連絡して置こうと思い、のんびりとした足取りで未だに病床から起き上がれない老人たちのもとへ向かった。



「やあ長老、調子はどうだ」

「おお……おお、賢者様、こンづさま、おづでえっらァよぐなづす、おんごん感謝の言葉だしぐづでもしぐづでんさまづす」

「お、おう」


 長老ギュオールクーオンは雷太が現れるとすぐに居ずまいをただしてこうべをたれた。老人の言葉はだいぶアルカンコー訛りと言う奴にも慣れてきた雷太であっても、ノータイムでは解読しきれない今回のような事が多々あったが、今の言葉は始めに会った時よりも随分と元気そうにしている事から「おかげさまでこの通りです」くらいの意味なのだろうと解釈する。実際、そういう旨をできるかぎり丁寧に言ったものだった。



 このギュオールクーオンことクオンは、老人たちの中でも群を抜いた回復力をもっていた。長老、と呼ばれるくらいだから最も年上ののはずなのだが

、下手に働き盛りの年齢の者よりも早く呼吸法を覚え、老人たちの中でただ一人だけ、二体のアルフェーイから魔力適正ありのお墨付きをもらっている。


「皆の病状も落ち着いてきたし、ちょうど俺も帰らないといけない時間が迫ってる、というのを伝えに来たんだ。けっこう大事なことだからまずは長老に伝えるのが筋かなと思ってな」


 長老クオンは数十秒の時間を使って雷太の言葉をしっかり反芻し、ようやく返事した。彼らの訛りが雷太には聞き取りづらいように、彼らにも雷太が話すカッシェルフから直伝の古代共通語は聞き取りづらいものがあるのだろう。


「はあ……お帰り、すンづすだ……」


 やはりクオンも雷太がこの里から去ってしまう事には不安しか覚えないのだろう。表情は暗いが、リューネと同じように雷太を引き止める手段など存在しないと理解しているため、無駄なあがきはしないつもりらしい。


 オソツのような気持ちも無くはないが、今まで雷太なしでもやってこれたのだから、再びそれに戻るだけだと思った。この辺りは、老い先短いと自覚する老人の気楽さである。


「あど、どんぐれ、こン里だ居づらンづす?」

「ん、おそらく夜には帰る」

「ええ!?」


 が、さすがに雷太から告げられた時間が急すぎたのだろう。老人らしいしわがれた体からは見合わない大声が出た。


「ああ、やっぱり急だったか? けどすまんな、こちらにも色々とあってな」


 まだ手をかけなければ死んでしまうような住人が残っているならば、雷太も滞在期間の延長を考えるのだが、ドッツグオンゾことゴンゾもまだ意識こそ取り戻して居ないが、バイタルは順調に回復している。


 まだ意識が戻らない可能性も残っているが、その辺りの処置をするためにも早く一度帰ってから報告書をあげ、しっかりとした医療技術を持った第二、第三の探索部隊を送りこんでもらった方が回復も早いのではないかと考えている。


「ジジさま! どンがつ……あらァ、賢者さま?」


 クオンの驚きをなにか問題事とでも思ったか、慌ててテントに入ってきたのはリューネだった。一目見てとくに危ない事はないと察したが、わざわざ居ずまいを直して向かい合っている雷太とクオンを見て、何か異変はあったのだなと理解したようだ。


「ん、ちょうどいい、リューネさんにも話しておいた方がいいと思ってたんだ。一緒に聞いてくれ」

「は、はぁ」


 なにやら改まって呼ばれ、リューネは何を言われるのかだいたい予感していた。


「実はもうすぐ俺は帰らないといけないんだが」

「はぁ、やっばそっつすまがらんづ、残念づす」


 予感の通りで、ある程度覚悟していたリューネは残念そうに目じりを下げながら顔を伏せる。どうあがいても多少丸みを帯びた鹿の顔だが、悲しんでいるのだなというのは雷太にもわかった。


「で、それが今日の夜ごろになりそうなんだがな」

「ピィィえ!?」


 比較的小柄な、リューネの体からは似合わない大きな声。先ほどのクオンよりもさらに大きい。それはもう驚きの声というよりほとんど悲鳴だった。


「リューネぇ! なんづがあっつがや!」


 すると今度は、先ほどまでテント建築に精を出していた若い衆の何人かまで殴りこんできた。こちらの方はリューネほど察しがよくないので、何があったのだと老人用のテント内を見回して警戒している。


「そづす! 急すぎっつ話しだづす! もちっとでンもいてくんでもりえねっつが!」


 ところがリューネの方は殴りこんできた若い衆には目もくれず、もう少しでも居てもらえないのか、と雷太にすがりつく。


「まてまて! 話しは最後まで聞け!」


 なんとかリューネを抑えるのだが若い衆の目もテントの片隅で三人仲良く並んでいた雷太たちの方に向いてしまった。そちらの視線も気になってしまってつい次の句を継ぐのが遅れてしまう。するとその隙を突いてというわけではないだろうが、こんどは長老クオンがその場にヒザをついて頭を下げるという懇願の姿勢に入ってしまう。


「賢者様ぁ、オイラからもお願いしづす、もちっと、病人だ、めがっぽる治るまでづや贅沢だいわねづす、もちっとだけんづも居てくだづす。こんのとおりだあ」

「いや、だからな……」


 見れば何を勘違いしたのか若い衆まで長老クオンに習いはじめる。ほとんど土下座と同じ姿勢だ。若い衆だけではない、テント内に居るまだ不調のままの他の老人たちまでその姿勢だ。


「とりあえず、頭を上げてくれ」


 これではろくに説明もできない。なんのためにまず長老に話しをしに来たのか。


 雷太はひどく面倒な展開になってしまったと思った。



 帰還可能時刻まで、あと約16時間。

 誤字・脱字などのご指摘。 ならびにご感想をお待ちしておりまつ


 これが最後の小騒動


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