表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/68

11日目 最終日・その1

 最終日は瞬く間に過ぎてゆく。


 まずはちゃんと全員の顔と名前を確認し、改めて生体データを取って健康状態を確認していく。


 雷太が去ってからももうしばらくかかるだろうと思われていた魔力操作の体得だが、どういうわけか多くの若者が初歩的なもの完全に体得したというお墨付きを二体のアルフェーイからもらい、アルカンコー族の種族としての力は劇的に回復した。


 労働力が一息に回復したようなものだ。


 サザンカいわく、回復の一因と思われるものはこの滝から流れて滝つぼに落ちるまでにほとんど空気に溶け込んでしまっている少しの水の魔力であるらしい。


 増えた働き手をどう使うべきかの方が問題だ。雷太にとっては自分が一度地球へ帰るまでに彼らの生活環境をもっと整えられるかという一種の命題がかかっている。


 そこまで考えて、雷太は自分が本当に、この鹿顔の隣人たちに肩入れしてしまっていると気づいた。


 どうせもうすぐ帰れるとわかっていても、貴重には違いない医療品の一部を重傷者のために使いつぶしていたのだ。その上さらに、彼らの生活環境をよりよいものにするために頭をひねっている。これを肩入れと言わずしてなんと言おうか。


 なんなら物資はまだ大量に残っているが、手持ち分は技術力の差がありすぎて置いていっても彼らではもてあますものばかりだ。使用の際にこのスーツの着用を前提とするものまである。



 ちなみに、支給されている物資の使い道は、現地で使う分には一切の制限がなく、生存し情報を持ち帰る事が最優先され、できそうならば後続のために環境をあるていど整えるように言いつけられている。


 事前調査では発見されていなかった現地の知的原住民との遭遇、つまり今回のような事態にもいくつか前例があり、その場合でも友好関係を築けた場合はいくらかの物資を譲渡したという例はあった。


 色々とあってそれらの平行世界を本格的に開発するという計画は頓挫したが、ゆるやかな交流自体だけを未だに継続されている世界がいくつかある。そういった世界の中で、物資と技術の譲渡により現地の民族的パワーバランスが崩れ世界が混乱したというような事は確認されていない。


 先駆者たちもその辺りには気を使っているのだろう。



 生存が最優先されるせいで持ち込んだ物資は武器をかねるようなものばかりだ。ロープやシート、登山具や採掘具なども多いが、置いていけるのはロープくらいだろう。このロープにしても、結び方を教えなければ最大限には使えないかもしれない。彼らの技術レベルはその程度だ。


 テントは予備も含めて全て既に老人たちと赤ん坊たちのために使われているから、もう地球から持ち込んだ物資を利用できる余地はなく、あとは彼らの今までどおりの生活スタイルにのっとった形で環境を整えていくというのが妥当だろう。


 彼らがずっと使っていたテントの材料は主に獣の皮や骨、そして流木である。となれば、差し当たり必要になるのは建材だが、それらを調達するに最適な場所を、既に雷太は思いついていた。


 旧集落跡地である。


 確実にしとめたと言えるガッポォの数は、群れの総数と比較すれば1%にも満たない物だったが、今いるアルカンコー族の人口と比べれば、およそ二千体分の毛皮や骨はとてつもない量の資源だ。


 雷太が一人で行けばとくに危険もなく回収して来られるだろうが、これはこちらの世界へ来る前に受けさせられた講習においてあまり推奨されない行為だと言われた。あまりなんでもやってあげすぎると、彼らの自立心を腐らせる事に繋がる、というのが主な理由だ。


 とはいえ、せっかく重傷者のみで一人も欠ける事なく集落全体で助かったのだ。ここでわざわざ再び危険にさらすわけにもいかないだろう。と、ここで活躍するのがやはり地球のテクノロジーだ。


 地球との双方向通信が途絶え、輝紗螺からの操作がなくなった無人観測機は現在、エネルギー充填モードにて草原のど真ん中に鎮座し、アルカンコー族の子供たちの遊具の代わりになっている。


 ちなみに大気圏外での活動も前提に開発されたこの型式は、すこしくらいのスペースデブリと激突しても活動できるくらい頑丈だ。足の裏に蹄が残っているとはいえ、体重の軽い子供たちが機体の上で飛び跳ねたところで壊れる事はない。


「よーし、おまえら。今からまたそれ使うからちょっとどけー」


 雷太が声をかけると子供たちは興味を一斉に雷太へ移した。ドワワッと子供たちに群がられる雷太だったがとくに動じず、子供たちの相手をしながらコンソールを動かして観測機を起動状態へ以降。そんな事をやっていると傍目にはわからない子供たちは、自分たちが降りたと同時に機体が動き始め、おおいに驚いた。


「わー! ごづがっづだー!」

「づだ! ごずが! つがつ、でれっつだ!」


 何か口々に唱えているがさすがの雷太も解読不能だ。


「ごづがっづ……? でれっつ……まあいいか」


 大人たちの間からは聞かなかったから、おそらく子供たちの間だけで通じるスラングのようなものだろうと解釈して気にしないことにした。


 そのまま、適当に観測ルートと、地上100メートル以上150メートル以下の高度で飛行するようにセットし命令を実行する。あとはAIが勝手に判断してくれるだろう。


 観測機が収集した情報はリアルタイムで雷太のスーツにもフィードバックされ、スーツと観測機内の両方に記録される。


「あづ、鳥づや! 名っつなんづが!?」


 子供たちが興奮しながら訊いて来る。


「名前? 名前か。確か型式がDF-D-F53だったか」

「ぢーえふぢーえふ? ふぁふ……ふぃふ…うん?」

「でいえふでいえふ、だづや、ふぃふてぃーすりー、だづ」


 子供ゆえか、雷太にもっとも密着している男の子は「ファ、フィ」が苦手らしい。雷太に群がっている中で最も幼い子供なのか、顔つきが非常に丸っこく、上唇が薄いせいで上手く発音できないのだろう。


「型式番号……んー、お前らにとってのアルカンコー族ってのと同じ意味だ。あいつ自体の名前はたぶん無いと……ああ、あった」


 装備が規格化された大量生産の観測機に個体差を求めるなどナンセンスであるが、ゲンを担ぐ意味で道具に名前をつける職員は多かった、それをわざわざ機体の詳細情報として記載しておく者も中にはいるものだ。雷太は観測機の機能確認と視覚リンクの過程でたまたまそれを見つけてしまった。


「キャサリン。あいつの名前はキャサリンだそうだ」


 なぜ女性名なのか、と問われれば、雷太が性別がないアルフェーイに女性の名前をつけたことと同じような理由だろう。


「きゃさりーん?」

「そ、キャサリンだ」


 雷太の顔と、観測機キャサリンが飛んで行った方向とを交互にみる子供たちを、可愛いなと思いながら目だけで愛でつつ、雷太は視覚のリンクに成功した観測機からリアルタイムで送られてくる映像情報を角膜に受けていた。


「ガッポォの大群は昨日のうちにもうどっかいっちゃったみたいだ。これなら若い衆連れて骨皮拾いとしゃれこめるだろう」


 どういうわけか、まだ生命反応の残るガッポォがまばらに群れから離れて点在している。それも、観測機ごしにみた限りでは草を食んでいる様子も、つがいを探すような行動もしていない。


 おそらく、あの激しい大移動と謎の食事の中で仲間たちに踏みつけられケガをした個体たちが群れから取り残されたのだろうと当たりをつけた。


 ならば余計に、若者たちに経験をつませるべきだろう。


 と、ここで雷太は子供たちから「自分たちも連れて行け」という旨の主張があると予想していたのだが、子供たちは皆反応がにぶく意外に思う。顔色を確認して見るのだが……


「うぅむ」


 残念な事に雷太はまだ彼らの顔から感情を読み取るほど彼らの顔を見慣れていなかった。


「よーし、じゃあお前らは留守番だ。お母さんたちの所に行って、何か手伝いがないか聞いてこい」

「あーい! ぐすーづあ! いっぐぉど!」


 雷太の言葉に素直にしたがって仮設のテント群にかけていく子供たち。雷太は里の動ける若い衆を集めるべくその後についていくように歩き出した。



 帰還可能時刻まで、あと約20時間。

 お気に入り登録に評価点の加算、まことにありがとうございます


 当方では誤字・脱字などのご指摘、ご感想なども切にお待ちしております



と、今日はちゃんと予約したぞー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ