10日目 行動(そ)の意味は
ドッツグオンゾは二体のアルフェーイの助力もありなんとか容態を安定させた。
もうジェシカの助けがなくとも呼吸は安定した。心拍は相変わらず弱めだが、命を保つのに最低限の働きはしてくれるようになった。
如何せんとも医療行為そのものに不慣れである雷太は、患者が安定した今になってようやく細かなマニュアルを思いだし始める。
冷静でいれば、もっと上手くやれたな。雷太はそう思った。
現に今は、出血の量ばかりきにしてドッツグオンゾの血圧は確かめなかった。とにかく血が流れすぎていてやばそうだ、と漠然とした把握しかしていないのによくここまでこぎつけられたものだ。
あとは意識が戻るのを待つだけだがこの様子であれば一週間くらい意識を失ったままでも不思議はないだろう。
あとは天命を待つだけか、と空を仰ぐ。
空から地面へと視線を戻した時、雷太はふと二つの壷を目に捉えた。ドッツグオンゾが、仲間と供に大事に隠し背負っていたものだ。
いけないことかと思いつつも雷太はついその壷の中身を見てしまう。
しなびた花の冠。土くれでできた人形らしきもの。ちょっとだけ変わった形の石。少しだけ大きな炭の欠片。獣の毛皮の切れ端。ドレもコレも見ればガラクタばかり。雷太にはなぜこんなものたちをドッツグオンゾが大事に守っていたのかがわからない。
なんだこれ? と一緒に覗きこんでいたアルカンコー族に視線で尋ねて見て回っても、誰もわからないと首を横にふる。
そんな中で、ずっと手当ての様子を拳を硬く握りながら見守っていた男の子の一人が寄ってきて、ドッツグオンゾがしっかり息をしているのを確認したあとに壷の中身を見てアッと声をあげた。
「オラぐす、ゴンゾだあげだやづだ。まンだもっとっづだんだや」
男の子の視線が向いているのは、川原にありそうな角の丸まった少し変わった形の石。男の子がドッツグオンゾに渡したものらしいが、渡した本人にもまだドッツグオンゾが持っていた事が意外だったようだ。
ここで雷太はピンと来た。
この品々は、思い出、記憶、誰かと時間を共有したという証明であり、彼自身にとって彼そのものを形成する大事な部位の一つ。
身体ばかり大きく育ち、その巨体をたもつ為にほかの何倍もの大食らい。その分力持ちではあったが、ドン臭くて動きが鈍く、里が総出で何かする時はいつも一番後ろからのっそのっそとついていくだけ。それでも対等に接してくれた皆と自分を示す、大事な大事な過去そのもの。
どうしようもなく愚かしく、どうしようもなくロマンチストな彼が、どうしても守りたかったのは、彼自身だったのだ。
およそ自分とは似ても似つかない性質を持つドッツグオンゾの心情を、雷太は何故かわからないが、理解できてしまった。
結果的に仲間を守るためという大義名分ができてしまったが、ドッツグオンゾにとってはおそらく思い出の品を守るためだけにとられた行動だったのではないか、そこまで考えてしまった。
もしそうならば、思い出を守るためだけに未来を捨てるなどという愚かしい行為はない。ないのだが、雷太はなぜかその心情に共感まで覚えてしまう。同情と蔑みと、真逆に称賛する思いと、色々と複雑に混ざり、笑っていいのか憤ればいいのかわからず結局雷太が浮かべたのは、曖昧な笑みだった。
これを機にドッツグオンゾがもう少し賢く、いや、器用になってくれればいいな、などと希望を持ちながら雷太は気持ちを切り替えた。
重傷者は彼一人ではないのだ。
とはいえ、とりあえず止血は終わっているようだし、ドッツグオンゾに守られていた彼らは意識もしっかりして容態も安定している。とくに慌てる必要もないのだから、雷太はゆっくりと余裕を持って彼らを手当てしていった。
手当てが終わると、無事に避難できた者たちに異常がないか尋ねた。
手当ての最中に誰も何も言ってこなかった事からだいたいわかってはいたのだが、里の者たちは誰一人として欠ける事なく避難できていた。雷太はドッツグオンゾの手当てに集中して見逃していたが、雷太が連れ帰ったけが人とその嫁子との間でちょっとした感動の再開劇が繰り広げられていたものだ。
里ごと全て踏み潰されていたとしてもおかしくないほどの異常事態にも関わらず死者は無いのだ。雷太は内心、自分で自分を褒めてやった。
あとはあのガッポォの群れがどこかへ行ってしまうまでここで過ごすだけ。衣食住はさほど問題にならない。
着る物は、もとともまだ新石器時代ほどの生活環境しかなかった彼らはほとんど必要としないし、失礼な話しだが彼らは素っ裸でも毛皮を着込んでいるようなものだ。
住んでいたテントは全て百万を超えるガッポォたちに踏み潰されて無くなってしまったが、どうやら雨季が終わったばかりで過ごしやすい季節らしく、とくに冷たい風が吹くわけでもなく、また雨が降るようなきざしも見られないから、当面は全員で野宿をしても差し支えなさそうだ。
ちょっとした夜風でも体が障りそうな老人たちだけは、むしろ既に体が障っている状態なので雷太が地球から持ち込んだ資材を少し使って即席のテントを張って割り振ったが。
食についてはもっと簡単だ。彼らの食事はほとんど草食獣そのものなのだから、この草原の見渡すかぎり全ての範囲が食べ物になる。
悪性魔力蓄積症のせいで、自力で草を消化できない老人たちにだけ、今までどおりの処置をほどこしてやればいい。
当面の目処は立ったが同時に雷太はこれまでの予定を少し変更するべきかと考え始める。もう少しだけ、少なくともあのガッポォの群れが完全にどこかへ行ってしまうまでは、自分が彼らの面倒を見てやるべきなのではないだろうか。
そう考えながら、雷太は地球への転送機能の再使用可能予定時間を見た。
帰還可能時刻まで、あと約26時間。――およそ一日――
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すっかり秋めいてまいりましたが皆様いかがお過ごしでしょうか。
季節の変わり目でもございますから昼夜での寒暖の差が激しくなっております、おからだにはお気をつけください。
PS.べ、べつにあんたの心配してるんじゃなくて、調子くずされたら、読んでもらえなくなりそうだから心配してるだけなんだからね!




