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10日目 瀕死の木偶の棒

 飛んでいる最中に、特異点が不安定になってきた、と告げられた途端に通信は切れた。運命の気まぐれか、足の真下にもガッポォの群れが居なくなった次点での出来事だった。


 もともと無人機であるとはいえ、遠隔から操縦していた者の手がとどかなくなると墜落してしまうのでは? という嫌な考えがよぎったが、その辺りはやり手の主任、プロジェクトリーダーである、しっかりと目的地までの操作を入力し、必要ならば雷太が操作権限を引き継げるように設定しておいてくれたようだ。


 問題なく避難に指定した森の辺りまで来ると、まさか空から来るとは思っていなかったらしいアルカンコーの里の人々は驚きつつも大声で雷太たちに呼びか、無事である事によろこんでくれた。


 だが、雷太としては、ただ喜んでもいられない。


 雷太自身はスーツのおかげで小さな擦り傷すら負っていないが、一緒に来たドッツグオンゾは血を流しすぎて瀕死の状態だし、一緒に生還できたアルカンコーの大人たちの中にも骨折やら裂傷やらを負った重傷者がいる。


 観測機が高度を下げはじめる。得体の知れない巨大な空飛ぶ何かを見ても、雷太の姿があれば里の者たちは皆ほとんど警戒せずに駆け寄ってきて降下地点で待ち構えてくれた。


「喜んでくれるのはありがたいが、まずは手を貸してくれ」


 感動もひとしおではあるが、今は重傷者の手当てが先だ。一度離れさせると、括りつけた時の逆再生のように手際よくワイヤーを外し一人ずつ確実に地面に降ろす。そうして最後にとりかかるのは、やはりドッツグオンゾだった。


「けが人を手当てできる人はいるか?」

「あい!」


 真っ先に名乗り出たのは、やはりと言うべきかゾーリューネヅだ。


「ドッツグオンゾだけは超がつく重傷だ。こいつだけはオレが直接やる。他にも手当ての心得がある人たちは出血がひどい者から順にみてやってくれ。とりあえず血を止めるだけでいい」

「あい!」


 ゾーリューネヅに続き、オグゾンドールア、さらにウヅスグルオン。雷太も見込みがあると思っていた若者たちが次々と名乗り出て指示どおり血を流している者から手当てを始めていく。


 その手当ての方法も、しっかりできるか心配で少し見ていたが、実は狩猟の習慣もあったらしいアルカンコー族は何かしらでケガを負った際の対応もしっかりと学んでいたらしく、少なくとも止血の方法はしっかりとしたものだった。


「よし」


 ひとまずの安心を得た雷太はいざ、瀕死のドッツグオンゾにかかる。


 何もない草原に横たわらせると傷の箇所を確認し手当に必要な薬剤の量を目算する。


「メディジェル、300グラム。オーダー」


 右掌にピンク色のジェルを具体化させる。


 これはいってみれば、血小板の機能を代替する一種のタンパク質の固まりだ。タンパク質ではあるが生物に由来する成分は一切なく、全て機械で合成されたものとなる。もともとは宇宙開発初期に多く発生した宇宙放射線による急性白血病患者の治療のため、大量に精製された人口骨髄液の副産物なのだが、色々あって様々な生物にとって高い止血作用をもたらすことが発見され、利用されている。


 ややこしい正式名称はあるが、広くメディジェルと呼ばれるそれを雷太は手早く傷口に塗りこみ傷口を閉じるようにさせたあとで息を吹きかける。それだけで出血は止り小さな傷ならば閉じてまってしまう。


 次々に止血していくが雷太の顔色も、ドッツグオンゾの顔色も良くならない。


「反応が無い……」


 全ての傷口の止血が終わるとようやく雷太はドッツグオンゾのバイタルをチェックしはじめる。心拍が残っているのは確認しているが、かなり弱い。瞳孔も反応しないし呼吸も浅い。顔色を見ようにもほとんどが毛で覆われているせいで肌の色や状態からどの程度血液が残っているのかも推測することもできない。


 これで意識が無いというのは、非常にまずい。


「とりあえず輸液か」


 とにかく失血によるショック状態である事は間違いないだろう。間違いないのだが、アルカンコー族という種族の生態があまりに未知数であるため、健康な者を適当にチョイスしてそのまま輸血してしまうというのは早計が過ぎる。


 血液型が違えば抗体反応で即死もありえる。そもそもこの世界の生物にに血液型などという法則があるのかもわからないが、わからないなりにもやるしかない。


「いやまて、血液検査はしたはずだ」


 度重なる襲撃で忘れかけていたが、魔力蓄積症の治療のヒントを探すべく色々としていた事を思いだす。とりあえずブドウ糖をとらせればよくなる、という事がわかったおかげもあってさらに記憶が薄くなっていたが、血液検査は確かにやったはずだ。


 その採決は助手として手伝ってももらっていたゾーリューネヅに丸投げしてしまっていたから、里の者全員をもれなく検査したという確証はなかったが。


「ゴンゾ……ゴンゾ……どれだ! あった!」


 結果を見て雷太は軽いめまいを覚えた。


「なんてこった……」


 思わず額をおさえ天を仰ぐ。一見だけすると希望と絶望とどちらにでもとれる仕草だが、しかし口角は上がっている。これは、なんでこんな難しく考えていたんだ、という時の顔だった。


「奇跡か。奇跡だな」


 掌を広げ、つぶやく。


「ブラッドガン、オーダー」


 具体化させたのはゾーリューネヅに貸し与えて、採血に使わせていた万能注射器だ。装填されたカートリッジが空である事を確認し、モードをすこしいじると、素肌が露出している首もとに当てて長くトリガーを引き続けた。


 簡易解析装置が十分に物質を解析できる量はおよそ0.3ミリグラムに過ぎず、採血の際もそれに合わせた量しかとらないようになっているが、今は明らかに解析に必要な量を超えた量を採血している。


 カートリッジ一つが満杯になると、ピピッと電子音がしてそれを知らせた。雷太はガンを離してモードを切り替え、こんどはドッツグオンゾの首もとに押し当てトリガーを引きしぼる。


 そう、雷太は自分の血液をドッツグオンゾに輸血しているのだ。


 まず一回。様子を見るが状態は変わらない。


 輸血は急ぎ過ぎると適した血液でも症状を悪化させてしまうものだが、人命に関わる緊急時に使用される事を前提としている万能注射器は、採血した血液の滅菌やら希釈やら、厳密に踏むべきもろもろの手順を一挙に行ってくれる。このテクノロジーのおかげで、医者としての免許資格を取れるほどの勉強などしていない雷太でもさほど気負わずに使えた。


「ふう……」


 脈を取り、大きな変化が無いと見ると雷太は注射器のカートリッジを取り替えるだけで同じ事をもう一度繰り返した。


 やはり劇的な変化は読み取れなかったが、何かを感じ取ったのかサザンカが雷太の目の前に躍り出て揺れながら明滅する。モールスの法則に基づいた明滅は画期的なアイディアを雷太に伝えるものだ。


「ん? ! そうか! 頼む!」


 サザンカが申し出たのは、次にドッツグオンゾに輸血する血液中の水分を、サザンカの支配下においてドッツグオンゾの体内に多少強引にだが循環させるというものだ。


 サザンカの案を了承した雷太は三度目に採った血に一度触れさせ操作の目印をつけてもらう。サザンカはそれが注入されると同時に体液操作を行った。


 もとより水の操作を特異とするサザンカ。その加減は見事なものだった。心臓に負担をかけない絶妙な速度で体液を循環させる。


「そうだ、ジェシカも同じ事ができる」


 サザンカのそれからヒントを得た雷太はジェシカも呼び寄せた。つまりは操作させた空気をドッツグオンゾの肺に送り込ませる事で弱まっていた呼吸をも補助させるのだ。


 結果的には、二体のアルフェーイはまさに人工心肺そのものの代わりをこなした。


 こうして、命が一つ息を吹き返した。



 帰還可能時刻まで、あと約30時間。

誤字・脱字などのご指摘、ご感想をお待ちしております。


「木偶の棒」は「デクノボウ」と読みます。

いえ、万一のためにいちおう補足を……

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