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10日目 続・迎撃戦

 ガッポォの先頭集団をまたいで逆行すると確かに先頭集団と群れの本体は完全にわかれて行動していたのがわかった。半ば統率されたような動きに雷太は戦慄するが、統率で言うならばこちらとて負けていないはずだ。なにせ先ほど空に目ができたのだから。


「主任! 指示をくれ!」


 先ほどの軽い罵倒のあとでいささかバツが悪かったが、前線で動きながら細かく作戦を立てられるほど雷太は有能ではなかった。上空にある無人偵察機に向けて、ひいてはそれを通して地球から現状を見ている輝紗螺に向けて立案を丸投げする。


「そうだな。彼らが何を求めて進行しているのかがわからなくては有効な作戦など私にも立てようがないのだが、ひとまずは住人たちの避難を優先させるべきなのだろう。せめてもう少し、足止めか進行を遅らせるのに有効な魔法はないのかね」

「だから今は魔力が! 時間も!」


 雷太はようやく群れの本体に新しくできた先頭集団の前に躍り出た。再びARアサルトライフルを乱射してせめて行き足を遅らせようと奮闘する。先頭のガッポォがばたばたと倒れて行くが、やはり群れ全体の進行にはあまり効果がないようだった。


 無駄なあがきと目に見えながらも雷太はそれをやめられない。地球から持ち込んだ技術の恩恵によって、それをやっても雷太だけは確実に助り得るからだ。


「ふむ……私自身が使えない技術を他人に指南するというのも変な話しだが。現状の君の魔力量とやらは測れないものの、時間ならば私が用意しよう。射撃に巻き込むとまずい、一度さがりたまえ」

「了解!」


 ようやくの一時後退指示。雷太が下がると間髪おかずに上空から直径にして5センチあまりのビーム砲が降り注ぐ。ビーム砲はガッポォに風穴をあけるばかりか、貫通して地面に着弾すればそれを爆発させた。


 進行に対する妨害行動を始めてからようやく効果があったような手ごたえがあった。


「今の隙に地面を沼地に変えてしまうような魔法を組み立てるんだ。その手前、里の側に掘りか土塀でも築ければなおよい」

「沼っ! その手が! サザンカ!」


 名を呼ばれて水色の光点が雷太の眼前に躍り出る。


「水をできる限りいっぱい集めて、個の辺り一帯の地面に混ぜるんだ。沼地にする、わかるか?」


 返答は短く「はい」と。縦揺れと明滅を両方行うとサザンカはふわりと川の方へとんでいく。


 雷太は無人機の射撃によって横に広がり始めたガッポォの群れの北側だけをけん制しながら更に何かできない事がないかを考える。


「ジェシカ、雨雲は呼べないか?」


 これも短く「はい」と。ただしその後に少し続く。


「長く降るような雨はつくれない? それで十分だ。サザンカの集める水をさらに増やすだけでも効果的なはずだ」


 もう一つ「わかった」と残してジェシカもふわりと飛び上がり、こちらは上空へと向かう。変化はすぐに現れて今までと風向きが逆に変わったのがヘルメット越しにでも雷太にはわかった。


「俺も何かっ!」

「銃座の転送が許可された、三十秒後、今の君の背後およそ5メートルの位置に転送されるように設定するが、警戒したまえ!」

「了解!」


 更なる支援。輝紗螺の方も少し声に力がはいる。


 ビーム弾をばら撒きながら雷太はきっかり宣言された時間の通りに背後に雷が落ちるのを感じた。


 晴天の霹靂どころではない。


 雷太がこの世界に現れた時の光景が繰り返される。落雷は一度球体の形を経て、ガトリングガンを二門備えた固定銃座へと姿を変えた。


 完全に転送が終わったと見るや否や、思わず持っていたアサルトライフルを放り投げてまで銃座に飛びつき、照準もそこそこにセーフティーをはずしトリガーを引きしぼる。


 途端に響くのは空を切り裂く轟音だ。直径2センチの半ば大砲といっていい大きさのガトリングガンの左右それぞれから秒間百発近いビーム弾が吐き出されてゴッポォの群れに突き刺さる。


「無人機は銃身の冷却に入る!」


 輝紗螺が何か言ったが雷太の耳には入らなかった。トリガーと轟音でわけがわからなくなっている、というのもありはするのだが雷太はまだ冷静な部分を残していた。ではなぜか。これだけの火力をもってしてもまだガッポォの群れが止まらなかったからだ。


 巨大ミミズのあれだけの巨躯を、科学と魔法のコンビネーションでもって一撃のうちに沈めたというのに、数の暴力とはここまでおそろしいものなのかと。


「くそおおお!」


 さすがにこの銃座には手を出せないと思い知ったのか一定の距離からは近づかなくなったが、それでもなお逃げるどころか止まりもしない。自然と群れの流れは二手に涌かれて銃座の左右を通り過ぎようとしたとき、やっと雨が降り始め、続いて川からの水が届いて辺りを満たすと、急速に地面の土と混ざって沼地を作る。


「お、おおし!」


 群れの行き足が劇的に変化した。泥に足を取られてガッポォの群れは上手く進めなくなる。同時に雨も降ってきて、空を見上げれば雲にしてはずいぶんと低いところに霧のようなものがたちこめていた。それでもガッポォの群れは愚直に進み続けているので進行は止まらないが、これで時間は稼げそうだった。


「銃座は沈まないか。さすがだなサザンカ。ジェシカもいい仕事だ」


 戻ってきた二つの光点を目の端にとらえながらトリガーは引いたまま。しかし相手の速度が十分に鈍った事で、雷太の頭もすこしだけ冷えてきた。現状を俯瞰しようと思うだけの余裕が戻ってくる。


「主任! 避難状況は!」

「居住地からは若干名を除いて全員退去した」

「若干名?」

「自らの意思で残った、成人…と言っていいのかはまだわからんが、とにかく大人が数名だ。人数で言えば君が指定した避難場所の方が多いが、そちらの方には向かわずまっすぐ居住地に向かっているという事は、少なくとも彼ら種族を目的としての進行ではないという事だけはハッキリしたな」


 可能性の一つとしてはあった事態だが、アルカンコー族そのものを標的とした侵攻ではなかったらしい。だがそんなものは気休めくらいにしかならない。


「誰が残ってるんだ!」

「残った者のパーソナルデータは共有化した情報からは収集できない。君との会話の中で名前を呼び合った事のない者ばかりだが、ああ、一人だけわかり易い子がいたね」

「誰だ?」


 雨が降ってより冷却性はあがっているというのに、とうとうガトリングの銃身が焼き着きはじめた。仕方なく雷太は片方だけ射撃をやめる。


「ひときわ身体の大きい子がいただろう。ドッツグオンゾ、ゴンゾーと呼ばれていた子だ」

「ゴンゾ!?」

「今、観測機からの映像を回そう」


 ドッツグオンゾ、若い衆の中では唯一いまだに呼吸法すら習得できていなかった問題児だ。一人ではまともに歩く事もできないはずなのだが、輝紗螺が中継してくれた観測機からの映像では、迫り来るゴッポォの群れを前に仁王立ちし、雷太が臨時の診療所に残してきたアルマディウムの大剣を握っている。


 ドッツグオンゾの後ろにも目を血走らせた大人たちが何人か、それぞれ手に粗末な武装をもって待ち構えているが、雷太の目は先頭に立つドッツグオンゾにしか向かなかった。


 飲み込みの悪い生徒、というくらいにしか印象のない相手だったが、肩を怒らせ遅い来る獣の波に向かうその姿は不思議と何かを心に訴えかけてくる。


 気づくと、雷太は雄叫びを上げていた。



 帰還可能時刻まで、あと約30時間。

世の中は狩りだ竜だと騒いでおりますが、わしぁ一切波に乗れておりません

ギブミーマ……やめとこう



PS.誤字・脱字などのご指摘、そしてご感想を切にお待ちしております

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