10日目 迎撃戦
原生草食獣の巨大な群れに向けてビームの豆をばら撒きながら雷太は小さく舌打ちした。大地を踏み鳴らす彼らの蹄の音で騒々しいが、きっとこの舌打ちも記録に残るだろう。
SMGとARで合わせて一万以上もビーム弾を撃っているが、SMGのほうは初めの予想の通り成獣したゴッポォ相手には毛皮の表面を焦がすだけで内部にまで到達しないらしい。
ARはなんとか内臓まで達しているようだが、大群のなかで興奮した大型の草食獣は、致命傷をうけてもしばらく惰性で走り続ける。その一体がようやく倒れたとしても、それを踏み越えて新しい一体が出てくるだけであまり変わらず、SMGにいたっては、顔に当たればひるむかな、というくらいで、どちらも群れに対してはあまり効果がない。これでは時間稼ぎにもなっていない。
この群れが来る事がもっと早く知っていれば、現状の物資だけでももっと準備のしようはあった。
たとえば、予測される進路上にわかりやすい目印と供にリモート式の爆薬でも仕掛けておき、一定以上近づくと爆発するようにする。原生生物とはいえ学習能力はあるならば、二度、三度と繰り返せば自然と目印を避けて進むようになる。手持ちの弾薬だけではこの群れを全滅させる事はできないし、そもそも全滅させる事が目的ではない。むしろ全滅は避けたい事柄だ。すべての目印に爆薬をセットしておく必要はなく、始めの方に集中させ、あとはアトランダムに仕込む。目印の配置を工夫すれば誘導は比較的簡単だっただろう。
しかしこれを行えたのはせめてあと12時間は前から群れの襲来を知る必要があった。群れの総数は、同じ高さからざっと見ても一万を超える。草原の規模と生態を地球の基準で考えれば百万はいてもおかしくないのだから、この見積もりはむしろ楽観的すぎると言えるのだが、それでも一人で相手にするにはいささか多い。
「他に思いつく手と言えば……」
どうにか彼らを押し戻せるだけの威力がある魔法をと考えをめぐらせるが、現在の雷太の魔法技術と残る魔力ではどうにもなりそうになかった。
ふと思いついたのは昨日のサザンカが巨大ミミズを覆うのに使った大量の水だ。あれだけの規模の水を操作できれば、鉄砲水のように彼らを押し返せるかもしれない。
「サザンっ! なに!?」
SMGの冷却もかねて一度射撃をやめて銃身のまわりに氷の魔法を展開しつつサザンカへと声をかけようとした途端、群れが予想外の動きをした。
なんと、攻撃を行ってくる雷太に明らかに狙いを定めて突進してきたのだ。草食獣だからどうせ臆病だろうと侮っていたため、意表を突かれつい動きが鈍る。
が、さすがに致命傷などもらうわけがない。
「っとお!」
銃身に展開していた氷の魔法を念術によってむりやり発展させ、SMGに氷の銃剣のようなものを作り出すと、突進してきたガッポォの右目に氷の剣先を突き刺し、ついでとばかりにARを乱射する。
顔だけで人間の上半身ほどもある大きな獣がひるんで鳴き叫ぶが、群れ全体の勢いは少しもおとろえずそのまま雷太に向かってくるが、ひるませた一頭の顔を踏みつけると大きく跳びあがった。さらにビーム弾をばらまいてかく乱しつつ、ジェシカからの風の援護をうけて少しだけ滞空しARをもう一丁具体化させてSMGと交換した。こちらの方がいくらかマシだ。
少しだけ火力を増した雷太はトリガーをしぼり切ったまま再び群れの先頭へと躍り出る。
攻撃した方へ向かってくるのは予想外だったが、こうやって先頭を誘導できるなら逆に好都合だ。このまま囮になってアルカンコー族の里から少しでも遠ざけようとたくらむ。
さらにタイミングよく、地球から通信が入る。
「主任!? ちょうど良かった爆薬か重火器の追加転送を!」
「なに!?」
挨拶もなしにそんな事を言われて輝紗螺はさすがに驚いたようだったが、現在の雷太の視点から見える情報と雷太のバイタルゲージを見ておよそ半分の事情を察したようだった。
「原生生物に襲われているっ!? 魔法とやらではなんとかならんのか!」
視界の端に映される輝紗螺の表情を見ている暇など雷太にはない。とにかくアサルトライフルから放たれ続けるオレンジ色のビーム弾と、その直撃を食らいのけぞりながらも前進を止めず、打ち所わるく息絶えるともすぐに代わりがせせり出る獣の群れに向かって叫ぶ。
「どんな魔法を使えばこいつらをどうにかできるんですかね!」
「そりゃあ君、爆発を起こしたり炎を吹いたりだね。土で大きな壁を作ってしまうというのも手だと思うが」
急に悠長な喋り方になった輝紗螺に雷太は苛立ちを覚えた。いったいどういう思考回路をしていればこの状況でこうなれるのか。
「そんなことやってたら俺の魔力が足りませんよっ!!」
本当ならもっと口汚くののしってやりたかったが、かろうじて敬語で返す。
「ふむ……まあもっと冷静になりたまえよ。実弾系の重火器の方が効果的であると判断した。いささか旧時代的であるがロケットランチャーの転送を許可する。あと三十秒持ちこたえたまえ。しかしこの数を殲滅するのは大変だぞ? 逃げてしまった方がいいのではないかね?」
「後ろにアルカンコー族の里があるんです! 俺の真後ろにね! 住民は避難中! 少しでもこいつらを足止めしないと避難が間に合わんのですよ!」
なかばヤケだ。このやり取りの間にも身体を右にひねり、左にひねり、時には側転しながら西暦時代のアクション映画の中で主人公が拳銃を両手に一丁ずつ持って踊りまわるような動きを、アサルトライフルでこなしている。
「ああ、そういう事か。では三十秒は取り消しだ。まずはできる限り近い位置に観測機を送り込むのであと五十秒持ちこたえたまえ」
「はあ!?」
なんという無茶を言うのだこの女は。雷太は愕然とする。まがうことなき上司だが帰ったら一発くらいひっぱたいてもいいんじゃないかとすら思う。
「おや、思っていたより状態が安定しているな。五十秒も取り消しだ。観測機は二十秒でそちらの世界に着く。その後、細かい座標次第だが一分かからんだろう」
「そいつは朗報ですねえ!」
力の限り皮肉をこめたがどこ吹く風か。
そうこうしている間にもなんとか雷太一人の力でゴッポォの群れの先頭を少しずつアルカンコーの里からそらしている手ごたえを感じ始めていた。
しかしこの状況で、20秒というのは非常に、長い。
「かなりいい動きをしているねえ。テストの時よりいいじゃないか」
「そいつはどうも!」
地球の輝紗螺とこんな無駄口を叩く暇すらあってようやく支援らしい支援が到着した。
「こいつは運がいい。目と鼻の先だが。良いニュースと悪いニュースがある。どっちから聞くね?」
「お任せしますよ! シクチョウが!」
悠長に、無意味な質問に答えている余裕など雷太にはない。いい加減暴言も漏れ始めた。
「じゃあいいニュースから。この観測機には攻撃が搭載されているのでこれだけでも軽く一千は削れるだろう」
「千ぐらいじゃ全然たりねえよ!」
「そうだね。でもこれはいいニュースだ。で悪いニュースだが、君を追いかけているのは群れの先頭に居た数隊だけで、群れの本体の方は相変わらずまっすぐ里に向かっているようだ」
「んなっ! こんちくしょおおい!」
いともたやすく言い放たれた酷な事実に雄叫び一つあげると、大きく跳び上がって自分を追いかけていた先頭集団を跨いで超える。置き土産に貴重な爆薬を少し点火した状態で投下しつ、爆発に備えてヘルメットを展開する。この間、およそ0.8秒。
ガッポォの先頭集団はいくらか生き残っていたようだが、さすがに走れるほどの者は残って居なかった。置き去りにして雷太はガッポォの本体へと戻る。
帰還可能時刻まで、あと約31時間。
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