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10日目 襲撃者たる野性

 拡声器と同時に拡声魔法を使って雷太は力いっぱい大声を出して里じゅうのアルカンコー族を叩き起こした。


 あわてて起きだした彼らは何事かとそれぞれのテントを出て声の主、つまり雷太の姿を探し、その後雷太がにらみつける方向を見て一様に驚いた顔をする。


「あっづぁ、なンづぁ?」

「獣の群れだ。おそらく糞喰らいに寄生されていた草食獣が、凄い数でこっちに向かってきている」


 やはりまず目が行くのは土煙。そして音だ。雷太は視覚アシストによって一頭一頭の顔まで見えているが、彼らは育った環境柄、その土煙の正体を経験則から知っていた。


「ゴッポォ! 皮だ捕い時づぁ!」

「ゴッポォ?」


 どうやらあの草食獣には名称があったらしい。メタルアーミドーの時のようには名前が浮かばなかったため保留にしておいたが、考えてみれば同じ平原で生活するもの同士、全く顔も見知ぬわけはない。


 察するに、こういった現象は今回が始めてではないのだろう。


「んづがす、いづンもンよっつ、でっげぐね?」

「だあな」


 しかしどうも様子がおかしい。いつもより、大きいと言っているのは土煙の事だろうか。


「そンづや、里だまっつづつっぱかづが、あっだだづが?」

「ね」


 アルカンコー族が住む里にまっすぐ突っ込んでくる事など今まであっただろうか、という疑問を口にする若い男。それに対する「ね」は、同意なのか、否定なのか。どちらにしてもこの状況は普通ではないようだ。


「たかが草食獣とはいえ、あれだけの群れが一気に里に突進してきたら、みんなただじゃすまん。俺一人ではあの群れをすべて片付けるのは無理だから、動ける奴は動けない奴を助けながら昨日みたいに里から離れるんだ。そうだな、川上にある滝つぼの辺りを目指してくれ」


 ゴッポォの群れがやってきているのは里から見てちょうど川の反対側だ。まっすぐに川の方へ避難すると、進路上からは逃れられないから、少し北上するよう指示を出してちゃんと進路が重ならないようしてやる。


「あい!」


 この場に集まっていた男衆は全員すぐに指示にしたがって動き始める。とくに、悪性魔力蓄積症を克服しはじめた若い衆は動きもよかった。


 ところが、未だに病を克服しきれていない成人した男衆の中には、明らかに病気のせいだけではない緩慢な動きで、むしろ土煙をあげるゴッポォの群れに向かっていくような動きを見せるものがいた。


「ちょっとちょっと、何する気だ!」


 回りこんで顔を見ると、今までのアルカンコー族には見た事のない表情だった。黒目がちなつぶらな瞳が細くしぼられ、わずかに見える白目が血走っている。


「ゴッポォだ、えぐ獲物だぁ。皮だ家ん壁、骨だ家ん柱づなるづぁ」

「ンづぁ。こごづどご、捕るこづねっづが、あーだタクサンおーづや、捕り放題づえ」


 未だに彼らの表情の違いを読み取りきる事のできない雷太だが、この顔がどういう顔かはすぐにわかった。


「……賢者の弟子として、それは許可できない」


 それは狂気。味気のないいい方をすえば、一種のストレス障害だ。


 原因も大方の見当がつけられる。


 彼らは長く病床に伏していた。病の原因はわからずゆっくりじわじわと弱って行く中で、次第に自覚していく死の恐怖はそれだけでも相当なストレスとなる。さらにその間、自分たちよりも動ける女性や子供たちを見て、ようやく回復の希望が見えて来たかと思えば、若い世代には自分たちよりずっと早く動けるようになった。


 動けない間たまりつづけたストレスは、自分たちの情けなさを見せ付けられる事によって屈折する。彼らとて健康であればこの異常事態に真正面から向かおうなどとは思わないだろう。思ったとしても、こうも歪んだ顔をするわけがない。


「なンづぇあ?」


 こうして聞き返してくる顔も、焦点は微妙に合わず、雷太より少し向こう側を見ているように見える。


「君らが正常ではないからだ」

「お弟子さまだ、でっげつがるぁだもっづど、そづこついえっづや」


 大きな力を持っているからこそそんな事を言えるのだ、という。交互に言葉を発してはいるが、会話は成り立っていない。


「許可できないものは、できん!」


 密かに準備していた風と氷の魔法によって彼らを拘束した。両手首と両足首を固定してから風によってもと焚き火の広場だったところへ押し出してやる。


「その人たちも担いでやってくれ!」


 正常なアルカンコー族たちは何事かとざわめいたが雷太の指示と、血走った仲間を交互に見てなんとなく状況を察したようだった。


「よし」


 もがいてわめきながらも仲間たちに運ばれていくアルカンコー族の成年を見送ってから、雷太は改めて更に近づいた獣たちの群れを見た。


 獣たちの進行速度と、避難の進み具合を見て、どうやら間に合いそうにない。とりあえず進行方向をそらせないかと、雷太は武器を具体化させる。


 巨大ミミズを仕留めたときのようにスナイパーライフル型のビームを魔法で増幅すれば簡単に一掃できるかもしれないが、スナイパーライフルはおそらく一度地球圏に戻らなければ修理はできないし、威力増幅に使うための雷太の魔力もまだ完全には回復しきっていない。


 となると残されているのは手数勝負だ。同じビーム弾を発射する銃器にしても、手数勝負となると違うタイプのモノが用いられる。右手にはサブマシンガン(SMG)型、左手にはアサルトライフル(AR)型の銃をそれぞれ具体化させた。


 この二つの違いはビーム弾を打つタイプの銃器でも実弾を撃つものとあまり変わらない。これはビームガンも実弾を撃つタイプの銃を雛形として開発、分化されていったためだ。


 具体的には、銃身そのものの大きさ、射程距離、連射速度、一発ごとの威力が主な違いだ。


 射程距離と威力はライフルと名のつくAR型の方が大きく勝る。その分あまり無理な連射は利かず、銃身も大きくなって生身ではよほど握力があっても片手での取りまわしは困難になる。


 対してサブマシンガン、SMG型は脇ポケットに収められる拳銃サイズよりも一回りか二回りほどしか変わらず、非常に速い連射性能を誇るが、集弾性が低く有効射程距離が短い上に、一発ごとの威力が低い。


「エネルギー残量確認。ま、100パーだわな」


 未確認のエラーを警戒したがどちらも問題なし。AR型は四丁、SMG型は六丁もってきているが、一度に両方のタイプを取り出したのは単純に手数を増やす意図もあった。しかし実の所は、どちらの武器があの群れに対して有効であるかがまだわからないからだった。


 雷太は、魔法によって威力を増幅しないSMG型のビーム弾では、あのゴッポゥの毛皮の表面を浅く焦がすくらいしかできないだろうと予想していた。


「とにかく、進路をそらせばいいんだ。なるべく南にっ!」


 スーツの性能をもってしてもあの数を相手にすれば万一が起きてもおかしくはない。今までにない緊張感をもって、雷太は気合を入れなおした。



 帰還可能時刻まで、あと約31時間。

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