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1日目 の終わりに

 当面の目的地が山頂地点なのだから進むにつれて標高が上がっていくのは当たり前の話だが、登れば登るほど地球との差異が目立った。


 なによりも植物の形態がかわった。


 ポイントゼロ付近の植物は地球とほとんど違いがなかかった。山頂に近づくとともに、樹木の幹ばかり太く高くなり枝が少なくなる。針葉樹ばかりになった点は地球と同じだったが、ふと違和感をおぼえた雷太が幹によじのぼってよくよく観察すると、葉っぱがやけに透きとおっていると気付いた。ためしに葉の部分だけちぎりとると感触も違う。


 葉にしてはやけに硬く、鉱物の結晶体のような質感だ。ところが植物としての性質は残っているようで、指で圧をかければじわりと水分がにじんだ。鉱物のような硬さをもちながら水分をふくんでいる。


 解析にかけると、イリュートロンの新たな形態を発見した。


 動く樹木の解析では、どうやら幹を構成する主成分であるセルロース内の水素分子に、電子と共に多く結合していた。


 こちらの、結晶のような葉には葉緑体によく似た細胞群が入ってあり、これらがふくむ油分の主成分である炭化水素の、炭素に多くイリュートロンが結合していた。


 何がこの二つの違いを引き起こし、そしてこの二つの違いがから何がうまれているのか、スーツ備え付けの簡易解析機能と、雷太のつたない専門知識では想像もできなかったが、とにかくそれなりのサンプルは取れた。あとはサンプルと解析結果を受け取った研究者たちの仕事だろう


 10メートル近い木の枝からかるく飛び降りると、雷太はまた山頂へむけて歩き出す。


 もうすぐ日が暮れるだろうか、というタイミングで、唐突に木々が途切れた。


「おお……?」


 そろそろ来るだろう、とは雷太も予想していたが、あまりに唐突で驚いてしまった程だ。線が引かれたようにくっきりとあるラインからは全く木が生えていない。森林限界線とでもいうべきだろうか。


 地球での森林限界は主に標高の高さから来る強風や積雪からの雪崩などで一定以上の背まで木が育てないことから、そこに近づくにつれてゆっくりと木々の背が低くなっていくものだ。


 ところがここは、その線を境にまるで世界が変わってしまったかのようにぱったりと木が生えなくなっている。しかも全く木が生えていない領域のすぐ隣には数百メートル級の大樹だ。幻想的、といえば幻想的だが、どこか異様でいびつにも見えた。


「ちょうどいいや、このへんで休もう。見晴らしもいいし」


 地球にずっといればおそらく一生見る事がなかっただろう光景。雷太はまた異世界にきているという実感を噛み締めながらふもとの森が一望できるところまで登り、そこを今日のキャンプとすることにした。



 気持ちよく風の吹きぬける山の斜面に、雷太は仰向けに横になって空をながめている。


「あ、月だ」


 どうやらこの天体も地球と同じく主だった衛星は一つしかないらしい。ただ、その月は地球のものと比べてずいぶんと大きく、赤褐色だ。その日の大気の状態などによって色合いは変わるのだろうが、地球ではあまり見ない色合いだ。


 こうしてのんびりしている間にも観測、記録は続いている。


 まだはっきりとしていない事は無数にある。まず雷太がいまいるこの天体が惑星ではなく衛星である可能性だ。


 この世界に降り立って直後から数時間しか行えなかった天体観測ではまだまだ情報が足りず、それらを断定するだけの情報がそろっていない。


 ちょうど数分前に、スーツの観測機能が光学的に日没を捉えた。恒星が頂上にあった時間はしっかり記録してあるのですでに大まかな時間は割り出せているが、次の日没をはっきりと観測できればこの天体のより正確な自転周期がわかる。衛星か惑星かもまた日が昇るまでにはわかるだろう。


 地球人類の開発の手がすでに他の惑星に及んでいるのだから、この世界のほかの天体すらはじめから調査、開発の対象になっていて、なんら不思議はないだろう。他に優先度の高い調査対象がないのならば、いずれ着手する宇宙開発のデータは早いうちから集めておくに限るのだ。


「よし、警戒システムに異常なし。各種、観測データの推移にもこれといった異常はみられない。脊椎動物を未だにみかけないのはすこしばかりきになるが……そういえばメタミドの相手をしてる時に鳥の羽ばたく音みたいなのを聴いた気がするな」


 思い出した雷太はスーツの自動録画機能を起動する。メタルアーミドーとの戦闘時の録画を呼び出すと、自分の記憶を頼りに、だいたいこのへん、というところまで二倍速で進め、問題の部分から等倍速で特に音を気にして録画を眺めた。


「ここだな……」


 録画にもしっかりとその音は記録されていた。音がしている間の映像をコマ送りにしてこんどは映像の方を注視する。


「むー……」


 何度も、何度も繰り返して見るが戦闘時の雷太は目の前の敵に集中しすぎていて、ほとんど視点がぶれていない。見えるのはほとんどがメタルアーミドーの鈍く輝く金属の背甲だけだった。ひょっとしてその反射して見える風景に映っていないだろうかと視点を定めるも、やはりそれらしき影は見つけられなかった。


「仕方ないか」


 視覚で情報を得られないのならば、現状で唯一の手がかりである音を分析するしかないだろう。大気の密度はすでに判明しているのだから、音の大きさからどの程度の距離にいたのか大まかに計算できるし、仮に鳥やそれに似た形の動物の羽音だと断定できたなら、その動物の大きさ重さなども大雑把ではあるが推測できる。


 生憎と、その辺りの分析も雷太の専門には入っていないが、代わりに答えを出してくれるソフトもスーツに導入されていた。本当に、至れり尽くせりなスーツである。


「よし」


 録画から音声データのみを抜き出すと、雷太はさっそくそれを音声解析にかけた。結果を割り出す時間は、というと、


「七時間……まあ寝るにはいいか」


 情報が少なすぎる事はわかっていた。戦闘中にとれた音声であるからノイズも多い。まあそのくらいかかるか、と簡単に納得し、雷太はゆっくりと目を閉じてその日を終わらせる事にしたのだった。



 期間可能時刻まで、約280時間。


誤字・脱字などのご指摘もおまちしとります

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